"THE HOUSES MADE BY MUD"
こちらはhomeではなく、houseだ(『家をまもる(第445号)』)。
物理的な「家」に注目したお話だからだ。
土の家……ああ、日干しレンガの家とかかな。中東に行ったとき、日干しレンガが積まれているのを見たことがある。
しかし、日本で「土の家」を見る機会などない。表紙にドーンと鎮座ます蟻塚のごとき物体を見て、子供たちはさぞかし好奇心をそそられたことだろう。
大人になると知識が増えた分、予断を持たずにものを見るのが難しくなる。それでも「たくさんのふしぎ」を読んで初めて知ることは多い。
ぼくは世界じゅうのいろいろな家を見てきました。木の家や石の家、コンクリートの家などさまざまな家がありましたが、いちばん多かったのは、土でつくられた家です。
日本だとすぐ「木の家」が思い浮かぶけれど、多くの地域で使われるのは土、なのだ。いちばん手っ取り早く使えるものだからだろう。中東やアフリカといった地域だけではない。ヨーロッパ、ルーマニアはドナウ・デルタで作られる家は、ドナウ川が運んできた「泥」が使われている。屋根は川岸に生える葦で葺き、垣根も葦。土もそうだが、ヨシも昔から世界中でさまざまに利用されてきた(『海と川が生んだたからもの 北上川のヨシ原(第432号)』)。ヨシ文化だけで「ふしぎ」一冊作れるのではないだろうか。
住むための材料は、すべてドナウ川からの恵みです。
どの地域の家も、建築材料が土や泥という共通点はあるものの、骨組も混ぜ込まれるものもさまざまだ。粗く切った麦わらだったり、牛糞が混ぜ込まれてあったり。骨組も、木を渡して泥を塗り込めたものがあれば、竹を組んで泥を塗ったものもある。面白いところでは、中国は黄土高原の「窰洞」がある。そのまま土の崖を掘り抜いて家にしてしまったものだ。どれも「自然の恵み」でできた家ばかりだ。
土の家は、線がやわらかくて優しい。ガーナ北部のカッセーナ族の家など、芸術的ともいえる曲線で仕上げられている。壁に施される幾何学模様も実に美しい。
地球犬と行く!世界への冒険 | みんながわかる ちきゅうかんきょうがく
しかしやはり、このような伝統家屋は、年々維持が難しくなっているようだ。主に女性が担ってきた塗装作業は、費用負担など大きくなったため、日常的に行われなくなってきたのだ。作業経験に乏しい若い世代にとって、技術の継承は困難になりつつある。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/africa/2016/90/2016_97/_pdf
日本で「土の家」を見る機会などない。
と書いたが、日本にも「土建築」はある。土蔵だ。府中市の「府中市郷土の森博物館」には、旧田中家住宅(府中宿の大店)内の土蔵で、「日本の壁」という展示があり、伝統的な土壁のつくりが見本とともに詳しく説明されている。
ここは、梅の時期やプラネタリウム観覧に何度も訪れたものだが、壁の展示は素通り程度にしか見たことがない。ああ今だったら興味を持ってじっくり見られたのになあ。そんな場所がたくさんある。