こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

チョッキリ 草木を切って子育てをする虫(第470号)

母の日を擁する5月にふさわしい一冊。

40ページまるまる、母の美と愛で満ち溢れている。チョッキリたちの美しい姿態と、チョッキリ母ご自慢の揺藍がこれでもかとずらり。子孫を残すための本能とはいえ、その作業の巧緻さに感嘆すること間違いなしだ。小さな体でよくもここでまでの工作物を作り上げるものだ。

チョッキリ?揺藍?

昆虫に詳しくない方は何のことやらわからないだろう。

チョッキリを知らなくてもオトシブミは聞いたことがあるかもしれない。初夏に野山を歩いてると、くるくるっと巻かれた葉っぱのかたまりが落ちてることがある。これがオトシブミの揺藍だ。中には卵が産みつけられていて、卵からかえった幼虫は葉っぱを食べながら育っていく。揺藍は、シェルターでもありエサでもあるという非常に合理的なシステムなのだ。

じゃあチョッキリはオトシブミの仲間ってこと?

チョッキリは「オトシブミ科のチョッキリ亜科」と分類されている。分類にはいろいろな考えがあるし、自分も正確なところはわからないが、おおよそはオトシブミの仲間として捉えられるようだ。本などはオトシブミがメインで、それにチョッキリが加えられてることが多いという。でも藤丸さんが取り上げるのはチョッキリだけ。

 チョッキリの面白さは……と聞かれたらハマキチョッキリに代表される姿の美しさと、産卵時における行動の多様性と答えますが、本当は見ていて楽しいからです。(本号「作者のことば」より)

オトシブミは全ての種類が揺藍を作るが、チョッキリは揺籃を作るものあり、葉っぱを切るだけのものあり、茎に細工するものあり、実に穴をあけ産卵するものありでさまざまなのだ。

揺藍を作るものについては、葉っぱへの切れ込みの入れ方と巻き方が模型で解説されている。ミヤマイクビチョッキリとか、どうやってこの形に切って巻くってわかるんだろうって、進化の妙に驚かされるほど。鳥でもサイホウチョウとか、巣作りに裁縫の技を使うものがいるけど、チョッキリだって負けちゃいない。サイホウチョウが利用するのはクモの糸だけど、ブドウハマキチョッキリはなんの糸を使うのか?そこは読んでのお楽しみ。虫にこんな細かい芸当ができるんかと驚くはずだ。

巣作りや子育ての大変さはいずこも同じ。労力がかかるからこそ、ちゃっかりモノも出てくる。ちょっと間借りしますね〜いっしょに仲良くさせてね〜みたいな様子は、カッコウ類の無体な托卵とは違ってかわいらしい(?)。もちろん中には招かれざる相手もいるけど。

せめて、揺藍作りの手伝いもしないオスが追いはらってくれれば助かるのですが。

なんて藤丸さんはこぼしている。この辺は研究者だったら出てこない言葉かもしれない。楽しみで観察してる立場だからこそだ。

最初に母の日がどーのと書いたが、もちろんそれを狙っての出版ではない。これからがシーズンなので、ぜひ観察に行ってみてねということだ。単に揺藍作りの様子を紹介するだけなら動画でもいい。むしろその方がわかりやすい。QRコード載せて動画ページを付けてもいいのだ。今の小・中学生は学校用の端末を持ってるし。何度か書いてるが「たくさんのふしぎ」は決して知識を教える絵本ではない。生きものの不思議さや美しさを見せ、観察の楽しさへと誘う本なのだ。

裏表紙の写真。なんも知らない時にこれ1枚だけ出されたら、単なる虫のスナップショットとしか思わないだろう。読み終わったからこそ、これがチョッキリという虫で、何をしてるのかがわかるのだ。

たまーに放送してる「植物に学ぶ生存戦略 話す人・山田孝之」を見てて驚いたのが、葉っぱを変形させることで、オトシブミに揺籠を作らせまいとする戦略。

葉のかたちがオトシブミの葉の加工を妨げることを発見 -植物と昆虫の相互作用における葉のかたちの新たな役割- | 京都大学

確かに植物にとっちゃいい迷惑だよねえ。光合成用の大事な葉っぱをいじられたり、茎を萎れさせられたり、挙句繁殖のための果実を使われたりするんだから。葉っぱを使わせまいとする植物が出てもおかしくない。揺藍を作り始めると大変な作業になるので、母虫が念入りに植物を下調べする理由も、本号を読んでよくわかった。