こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

恐竜の復元(第465号)

骨格標本だけを見て、なんの生きものか当てるのは意外と難しい。

川上先生も言われるとおりだ(『つばさをもった恐竜族 (たくさんのふしぎ傑作集)(第30号)』参照)。まあ鳥かどうかくらいは判別できるかもしれないけど、なんの鳥かまではよほどの専門でないとわからない。

まして誰も見たことのない生きものの骨、しかも全部揃ってるかもわからない骨から、生前どんな生きものだったかを想像するのは至難の業。

「恐竜の復元」というのはそういう作業なのだ。

『つばさをもった恐竜族』でも触れたが、恐竜の話をする前に「恐竜とは何か」をきちんと定義しておかなければならない。

つまり、

 恐竜は、陸上を歩いていた生きものです。魚竜や翼竜は恐竜にはふくまれません。

ということだ。なので恐竜の復元を考えるときに手がかりとなるのは、現生の爬虫類や哺乳類になる。

現生の爬虫類や哺乳類がヒントになるのは確かだけど、単純に当てはめることもできないのだ。

たとえば頭骨。恐竜の頭骨はどちらかというと爬虫類のそれに似ている。だからかつては、体全体も爬虫類に類似した形に復元していたという。

恐竜の復元は「かつては〜と考えられていたが、今では〜」のオンパレードなのだ。

現生の生きものの身体のしくみがわかってくれば、恐竜の方もこういう復元図の方が自然だよねという話になる。解剖学的にこれは不自然となれば、こういう動きをしていたと考える方が合理的だよねということにもなる。

だから正直、私は恐竜の復元に興味が持てないでいた。

「正解」がない話だからだ。

もちろん、わかることが増えれば増えるほど「正解」には近づいていく。それでも恐竜を見たことがある人はいない以上、どれも想像図にしか過ぎないのだ。

逆にいうと、このキリのなさが魅力なのかもしれない。どこまでいっても終わりがない研究だからだ。これからまだまだ骨が見つかるかもしれない、それでまた、わかることが増えるかもしれないというワクワク感。

子供たちにとっては、これから自分たち自身で、明らかにできることがあるかもしれないという希望になる。恐竜の骨の復元は完成図のないプラモデルなのだ。同時に「かつては〜と考えられていたが、今では〜」の意味を知ることだろう。今わかっていることも絶対ではなく、いずれ「今」は「かつて」に書き換わる可能性があるということを。そして恐竜の研究は、単独でできることではなく、さまざまな学問や研究者の総力を結集してできあがっているということを。

恐竜は滅びてしまったが、今生きている恐竜もいる。トリだ。

小林先生と川上先生が「鳥も恐竜だ!」「いや、恐竜が鳥だ!」とかけ合いしてたように、鳥の研究は恐竜の研究につながり、恐竜の研究はまた鳥の研究につながる話なのだ。

そこで合わせて読んだのが『作ろう! フライドチキンの骨格標本』だ。

フライドチキンも食べられて、その骨から恐竜のこともわかる、まさに一石二鳥の本だ。

知識として知っていることも、実際骨を見ると実感できることがある。そして骨は生命の進化を教えてくれるものでもある。そういう考えから、著者はさまざまな動物の骨を使って研究や教育活動をおこなっているという。

私も博物館で、標本として保存するための骨そうじをお手伝いしたことがあるが、掃除をしながら実際手にとって骨を組み合わせてみると、こういう感じで動いてるんだ!と実感できることがあった。実物に触れることで、知識として知っていたことがより強化されるのだ。

恐竜の骨や、そのほかの動物の骨なども、触る機会はそうそうないかもしれない。しかし身近にだって触れる動物(恐竜)の骨がある!それがフライドチキン、もといニワトリというわけだ。

 プロの恐竜学者になったり、恐竜化石の発掘に参加したりすることは、そう簡単なことではありません。しかし、身のまわりの慣れ親しんだ景色や毎日食べているものにだって、目をこらすと、生命や地球の歴史がひそんでいる────。この本を読んで標本を作って、それが見えるようになってもらえたら、とってもうれしいです。(『作ろう! フライドチキンの骨格標本』3ページより)

前半は「恐竜の骨の歴史」と「ニワトリの骨の特徴と恐竜との共通点」について、+α情報も混えながら詳しく解説されている。子供用に作られた本だがかなり読み応えがある。後半の骨格標本づくりも本格的、実際博物館などに収蔵される本物に近い手法を紹介し、ていねいに手順を説明している。実際に標本づくりをした後、前半の解説を読み返せば、読んだだけではわからなかったことも見えてくるに違いない。

この本は、フライドチキンという身近でおいしい材料を使って、子供たちに研究の手法や標本収集の意義を教えるものでもある。

チキンを使って科学を学ぶ本は、他にもある。

チキンの骨で恐竜を作ってみよう』だ。実をいうと昔読んだことがあるのだが、とても自分には作れそうにないので投げ出してしまった本だ。

こちらの本は大人向けだが、著者は子供も念頭に書いたという。親子で、または学校などの教室で、大人と子供がいっしょになって楽しみながら学習体験をしてほしいと書かれている。

最後に、チキンの骨だけで造られたアパトサウルス(以前ブラキオサウルスと呼ばれていた恐竜*1)の解剖学的に正確なモデルが出来上がる。ゴールした後、この本の終わりにある質問に答えられるはずだ。君は知っているだろうか?なぜゾウがつま先立ちで歩いているのか?赤血球は体のどこで造られるのだろうか?(『チキンの骨で恐竜を作ってみよう』8ページより)

しかし、この本のハードルの高さは『作ろう! フライドチキンの骨格標本』の比ではない。

なんせ三羽分のチキンが必要なのだ!ほとんどの骨はケンタッキー・フライドチキンで手に入るよ♪とか抜かしてますけど、ケンタ三羽分の骨ためるって大変だよ……。スーパーでチキン三羽分買って料理してもいいよ♪巻末においしく食べられるレシピも載せたから♪っておっしゃいますが、なかなかちょっと日本では馴染みのない材料とメニューで現実的ではない。

本題の恐竜を作るところも難儀すること請け合いだ。

『作ろう! フライドチキンの骨格標本』は、写真付きで至れりつくせりわかりやすく説明されているが、こちらは図解のみ。完成図の写真すらない。ほとんどは文章を解読しながら作らなければならないのだ。訳者の瀬戸口氏が作ったものの写真があるが、大して参考になるものではない。

でもどちらの本も、いつかやってみたいなあと思わせる、面白いものであることは確かだ。

「日本語版への序文」で興味深かったのが、次の言葉。

日本に関して、この他にも印象づけられることが多かった。その一つは、教育と知識に属する重要性だ。私が訪問した町の教育委員会の人々の献身や、田舎に点在する素晴らしい博物館など、多くの点ではっきりとわかった。私は日本の教育理念に共感を持っている。それこそが、この本のページから、読みとって欲しいものなのである。(『チキンの骨で恐竜を作ってみよう』7〜8ページより)

折しも、国立科学博物館のクラファンが話題に上ったが、こういった大きな博物館だけでなく、地域にある小規模な博物館守っていくことが大切なのだ。子供たちが身近で科学に触れる環境を整えることこそ、未来の科学者を育てることにつながるのだから。

https://www.kahaku.go.jp/procedure/press/pdf/1231770.pdf

*1:ブロントサウルスの誤りかな?