『土の家(第295号)』を読んでいて、どうも物足りなさを感じていたのだ。
それは生活が見えてこないこと。
当然だ。『土の家』は、生活を紹介する目的で描かれてないからだ。
どんな生活をしてるんだろう。どんな家族がどんな感じで家と暮らしてるんだろう。
その好奇心を満たしてくれるのが、この『世界あちこちゆかいな家めぐり』だ。
作者が訪ねた世界10ヵ国の家が、写真とともにイラストで紹介されている。外観は写真、なかの暮らしはイラストで表現されているのだ。
小松さんの写真が素晴らしいのは当然のこと、西山さんが描くちまちました家財道具とか部屋の内装とか家畜とかすっごく良い。家族構成もそれぞれちゃんと書いてある。
こんなふうに暮らしてるんだなあって想像力を飛ばすことができる。ページを繰るたび、どんな家が現れるんだろうとわくわくしてくる。
驚きは「屋根がさかさま? セネガル・カザマンス州」の家だ。
水をむだ使いする我が息子に、こんなじゃんじゃん水使える国なんて日本くらいなもんだよ?って叱ったとこだったが、この家を見ればいかに水が貴重なものかよくわかる。
このお話は、抜粋・改変して小学校国語の教科書に採用されている。お子さんが『新しい国語 3下』を使ってる方ならご存知かもしれない。西山さんのイラストや小松さんの写真も、この本と同じものが使われている。
しかし。
教科書になると何かが違う。
なんかつまんない。
教科書が先だったらこんな風に思わなかったかもしれない。
開いたときのワクワク感がないのだ。時が止まってるといったら言い過ぎだろうか。
まずタイトルがいけない。メインタイトルが「人をつつむ形」だ。副題でようやく「世界の家めぐり」となっている。“あちこち”も“ゆかいな”も消えてしまっている。イラストも写真も添え物にしか過ぎなくなっている。
もちろん、教科書と絵本は目的が違うのだから仕方ない。国語教科書のメインディッシュはあくまで文章だから。この単元は説明文の読解が目的だ。読解に適した文にしなければならないし、絵や写真は読解の手助けとなるものでしかないのだ。
かつて学校で読み聞かせをしていたが、そのメンバーの中で、教科書に載る『スイミー』や『スーホの白い馬』について、これはどーなの?と話題になったことがある。仕方がないとはいえ、絵本の良さがほとんど消されてしまっているからだ。教科書と違うからこそ、読み聞かせの場では絵本の方も紹介したいねという話にもなった。
ちなみに……『新しい国語 3上』の方には、『森の小さなアーティスト (たくさんのふしぎ傑作集) (第58号)』で紹介した『自然のかくし絵―昆虫の保護色と擬態』を改変したものが載っている。「自然のかくし絵」という単元だ。こちらもやはり、原著の良さは殺されてしまっているけれど。
なぜ、これのカテゴリーが「算数」なのか?訝しく思う人もいるかもしれない。
数字がたくさん出てくるのだ。
酒といってもアルコール度数は2%くらい。
とか、
この建物には、300人もの人がすんでいます。
とか、
このあたりは夏は50度近く、冬は0度以下になるが、地面の下の部屋の中は一年じゅう20度から28度で、すごしやすい。
とか。
ちなみにこの部分、教科書ではこうなっている。
このあたりの気温は、夏は五十度に近く、冬はれい度より下がりますが、地面の下の部屋の中は一年中二十度から二十八度で、すごしやすいのです。