こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ヤマネはねぼすけ? (たくさんのふしぎ傑作集)(第90号)

著者は和歌山の小学校の先生。学生時代からヤマネの研究をしてきた人だ。本書は、子供たちと一緒にそのヤマネの生活を調べた記録を元に書かれたもの。

  • 春、みんなで近くの山にのぼって、森の木に巣箱80個を設置する。
  • 観察を続けた3ヶ月後のある日、2匹のヤマネが入っていたので、その巣箱を「宝物のようにかかえて、そうーっとしずかに」山をくだる。
  • ヤマネを飼育して観察するために、大きな小屋を作る。川から砂利を運び、スコップでセメントを混ぜ、コンクリートの基礎を打つところからやる。小屋の中には山から抜いてきた木を植える。
  • ヤマネ小屋には、いろいろな形の巣箱を作って置き、どんな形と大きさの巣箱が好まれるか調べる。
  • 2匹のヤマネに名前を付ける。ヤマネの体重や体温をはかる。
  • 山に木の実を取りに行き、どんなものを好んで食べるか調べる。昆虫をつかまえて小屋に入れ、捕えて食べる様子を観察する。
  • ヤマネがどれくらい知恵があるのか、たしかめる実験をする。
  • いつ冬眠に入るのか、夏も秋も毎日観察を続ける。
  • 冬眠中のヤマネを観察する。冬眠中のヤマネを取り出し、あたたかいところにおいて、目をさますまでの時間を測る。
  • ヤマネの飼育観察を始めて4年目の春、1人の6年生がヤマネの交尾を観察するという“大発見”をする。ヤマネのオス同士のケンカで(その春からもう1匹仲間が加わった)、ヤマネの鳴き声を初めて聞く。
  • 子育ての準備のために、特別柔らかいコケを集めて巣箱に入れてやり、栄養をつけてやるために毎日たくさんの虫を取って入れてやる。
  • ヤマネの子育てを観察する。

この小学校での飼育観察は、8年間続けられた。観察の過程をざっと箇条書きにしてみたが「ヤマネの観察」だけで、さまざまなことを学習できるのがわかる。

山の生き物を年間を通して観察するという「理科」。
山にのぼることは「体育」。
観察小屋や巣箱を作るなどで「算数」や「図工」。
観察記録をつけるという「国語」。
交尾や子育ては「保健」。
“天然記念物を飼育観察する許可を国からもらっている”ということで「社会」。
生き物のいのちを大事にするという「道徳」。

……などなど。教科で分けることがバカバカしくなるくらい、いろいろなことを子供たちは学んでいる。

今の学校教育ではアクティブ・ラーニングというものを重視する流れになっている。本書を開けばこんな文章を読んで頭を痛くすることもなく、アクティブ・ラーニングとかいう言葉が滑稽に感じられるくらいの実例を見ることができるのだ。

子供の通う小学校を見ると、こういうのを実践するのはなかなか難しいように感じる。端から見ると先生の”趣味”に子供を巻き込んでいるようにも見えるからだ。でも、自分が夢中になって追いかけていることを子供と一緒に研究する、それが勉強にもなるというのは幸せなことではないか。子供にとっても先生にとっても。もっとも”先生が夢中になって追いかけていること”が、もしパチンコや競馬である場合、如何ともしがたいことではあるが……。