数年前、学習塾主催の理科実験教室「メダカ博士になろう」というイベントに参加し、メダカの卵を持って帰ってきたことがあった。イベント自体は楽しんでいた子供だが、大して興味があるわけでもない。その後の世話まで気が回るはずもなく、飼育当番はもっぱら私、という状況が今の今まで続いている。
当初は卵と孵化した稚魚を、それこそ子供が産まれた時のように熱心に世話をし、環境を整えたりしていた。しかし、3代目が誕生する頃には、私の熱意も失われ、最低限の世話しかしなくなってしまった。
飼育に飽きたとて、その辺の川に放流するわけにはいかない。というのはご存知の方もあろうが、野生のメダカは2003年5月に、環境省が発表したレッドデータブックに絶滅危惧種として指定されたからだ。メダカは地域毎に遺伝的多様性があるので、安易に飼育メダカを放流することは「遺伝子汚染」の問題を引き起こす。実験教室の塾の先生も、絶対に川などに放さないでください、飼うなら最後まで飼ってください、と注意を与えていた。家のメダカたちは、今や5匹あまりに減っているが、最後の1匹が死ぬまで、責任もって面倒を見るしかないのだ。
最初、小さな水槽でちょろちょろ泳いでいた稚魚たちは、エアーポンプの導入が面倒ということと、こまめに日に当てる必要があるということで、屋内での飼育を断念、水草の入った10リットルバケツに移され、南向きのベランダに置かれることになった。メダカというのは案外丈夫な生き物だ。今住んでいる南関東なら、盛夏こそ日陰を作ったりするが、厳冬期に氷が張っても死ぬことはなく、春まで生きぬくことができる。
そろそろメダカの話とプランクトンがどう関係するのか、疑問を感じてきた方もあろうかと思う。まだまだプランクトンではない生き物の話が続く。
今年の2月くらいから、メダカのバケツめがけてヒヨドリがやってくるようになった。ちょうどよい水場として狙われたわけだ。奴ら(おそらく夫婦)は毎日やってきた。水を飲むばかりでなく、水浴びまでしやがるのだ。ベランダばかりでなく、洗濯物も糞で汚されるようになった。水浴びで跳ねた水も飛び散ったりして不衛生この上ない。いろいろ対策を施してみたが効果はなく、不本意ながらいまだに水場を提供し続けている。
カラスは字が読めるのかなんて記事を読むまでもなく、「鳥は人の言葉を解する」という(我流の)俗説を信じている私だが、気配を察して飛び去るヒヨドリに「うんちしてかないでね。洗濯物汚さないでね。」と声をかけ続けたところ、不思議なことに?ほとんど糞を残していかなくなった。
【検証】警告文でカラス撃退、なぜできる?|日テレNEWS24
ここからようやく『小さなプランクトンの大きな世界』の話。
本書によると、庭に放置した洗面器の水の中には、プランクトンがいるのだという。
鳥がきて洗面器の水で水浴びしたり、水をのんだりすると、前の水場で鳥の足やくちばしや羽についたプランクトンがとびこみます。
だから実は、ヒヨドリはメダカのエサを運んできてくれていたのだ。むろんプランクトンは風に飛ばされてもくるわけだから、奴らだけのおかげとも言えないが。ともあれ奴らが来るようになってから、人工のエサをあまり与えないようになった。ヒヨドリは雑食なのでメダカを食べるとも言われているが、今のところ被害を受けている様子はない。もっとも迷惑はかけられているのだろうが……。
本書によれば、家のメダカの水も採取して顕微鏡で見れば、いろいろなプランクトンがうようよいるのが見つかるはず。簡易顕微鏡はあれど、あの汚い水を観察してみようとか思えないのが残念である。
作者はプランクトンの研究家であるが、来歴が振るっている。なんと元警視庁科学捜査研究所研究員なのだ。本書の「作者紹介」によると、1946年(作者は当時中学1年生)からはじめたプランクトン生態観察と写真撮影を続行中、ということでベントレーもかくやという市井の研究者なのだ。仕事でもプランクトン類(事件の際の付着物)の検査鑑定を担当していたけれど、「平成27年(2015年)で観察歴70年。また、趣味として啓蒙中。」の方が本当の姿なのだろう。でなければ、こんな文章は書けまい。
さいごに、わたしのいちばんすきなプランクトンのすがたを紹介しましょう。
ヒラタヒゲマワリのダンスです。まんなかに4つ、そのまわりに3つ、3つ、3つ、3つ、合計16でスクラムをくんでいます。スクラムをくんだまま、それぞれ2本ずつもっている長いベン毛をゆらりゆらりとうごかしながらおよいでいます。何十、何百というヒラタヒゲマワリがいっせいにダンスしているところに出会うと、わたしはうっとりして、時のたつのもわすれてしまいます。
- 作者: 小田部家邦,?岸昇
- 出版社/メーカー: 福音館書店
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