これは盆栽についての本だ。ついに出た。
"I am a Bonsai"ではなく、"Living with Bonsai"だ。
しかし、これは盆栽の本ではないのではないか。いや、盆栽の本なのだが……。
すうっと読めてしまって、なにか物足りない、もっと盆栽について知りたい、飢餓感というか、あー面白かったとお腹がいっぱいにはならない不思議な本だ。
平易で飾り気のない文章は、わかりやすいことこの上ない。盆栽とはもっとこう奥深いものではないのか……。盆栽のことは何も知らないくせして、無駄な先入観だけはあるために、拍子抜けしてしまうくらい簡素に感じてしまう。
僕が大切にしていることのひとつに、自分の作った盆栽を見た人には、いい気分になってほしいということがある。花がきれいだとか、姿が素敵だな、形が面白いな、こういう気持ちは全部「いい気分」だ。そんな盆栽を作りたいと思っている。
いい気分?旅じゃないんだから、いい気分もないだろう。そうじゃない、深淵とか小宇宙とかみたいな、芸術っぽい言葉が必要なのではないのか……。
モミジをはさみで整える場面など、
どう、さっぱりしたでしょう。
散髪か!と突っ込みをいれたくなるほど、あっさりしている。
芸術とかいう言葉を拒否するかのように、本号の写真もアーティスティックとはほど遠い構成になっている。なにしろほとんどは盆栽そのものではなく、作業を中心とした写真なのだ。作業といっても、40ページ中、剪定と思しきものが見開き含め6ページ、水やりが同じく6ページと、何と水やりの写真が剪定作業と同じくらい割かれている。
始めが水やりなら、終わりも水やり。そして最後は、
いい盆栽を、つぎの世代に手渡していけるよう、僕はきょうも水をやるんだよ。
との言葉で締めくくられている。水をやるなんて当たり前のことではないか。こんな素っ気ない終わり方でいいの?しかしこの簡単な一文にこそ、真に言いたいことが込められているのだ。本文途中にはこんなことが書かれている。
盆栽の仕事のなかで、一番大事なことは水やりだ。水がないと植物は生きていけないからだ。
水がないと植物は生きていけない……あまりに人工的なものであるがために、うっかり忘れそうになるけれども、盆栽は生きものなのだ。生きものの世話というのは手間がかかるものだ。同じく人間の世話を必要とする動物、たとえば多くのペットなどとは異なり、寿命は100年を超えるものもある。その間、枯れないように世話をし続けてきた人がいるからこそ、今目の前に盆栽としてあるのだ。
盆栽の美は、盆栽の生によって支えられている。生きて健康な状態であるからこそ、盆栽の美が引き出されるのだ。生を支え続ける毎日の地道な作業にこそ、盆栽の本質がある。
- 作者: 村田行雄,関戸勇
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2018/12/03
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログを見る