突然、韓国に行こうと思い立ったことがある。
新聞広告に「世界陶磁器エキスポ2001」が紹介されていたからだ。
陶磁器にすごく興味があるというわけでもない。
海外に行くなら、何かイベントに合わせたら面白いかなと思っただけだ。
結婚前だった夫に言ったら、じゃあ俺は競馬場行こうかなと乗ってきたので、二人で行くことになった。おみやげで買った酒器は、今でも愛用している(飲むのは日本酒だけど)。
実を言うとお隣さんの国だし、日本と大して変わらないだろうと思っていた。
これまで出かけた遠方の国々よりは、私たちと近い感じがするし馴染みもある。
でも、こんなところが違うんだなあと発見があって面白かった。
韓国の人は宵っ張り気質なのか、朝の始動が遅かったり。
物価の安さ、何より革製品の安さには驚かされた。
旅行前までも、大学近辺の韓国料理屋さんに行ったりしていたし、辛ラーメンなど所属していた山サークルで、山行の糧食の定番だったりもした。卒業後も新大久保に食べにいったりしたこともあったので、料理についてある程度知っているつもりだった。
しかし、屋台で見かける食べ物には、謎のものがある。
小さい円筒状の物体に、真っ赤なソースが絡められている。
今でこそそれはトッポッキだと知っているが、最初見た時はそれが餅で作った料理だなんて思いもしなかった。
『ジミンちのおもち』にも、これまで知らなかった韓国の食文化、習俗が盛り沢山に描かれている。
「シルトㇰ」という米粉で作る蒸し餅。
「ファジョン」はチンダㇽレというツツジの花を使って作る季節の食べ物だ。
「パッピンス」はカラフルでおいしそうなかき氷。ビビンバのようにかき混ぜて食べるのが面白い。
「ウォンソビョン」は白玉粉で手軽に作れそうだが、色づけにオミジャの実を使ったりしていて、材料が難しい。オミジャはお茶にも仕立てるようで、どんな風味のものなのか興味をひかれた。
「トックㇰ」は韓国でお正月に食べるお雑煮で、日本と同じく地域によって味や餅の形が違ったりするのだという。
最初の方で、学校給食にビビンバが出るシーンがあるが、子供の小学校でもビビンバやトッポギ入りスープがメニューとして出されている。
本書では、韓国の少女であるジミンが給食のビビンバを食べて「このピビㇺパㇷ゚おいしくないね」と言っているが、仕方のない話だろう。何せ子供の学校でも、キムチは使うけれど辛みを取るためにざっとひと洗いするらしいし、足のはやい食材のためかモヤシは使われていない。給食では、韓国以外もさまざまな国の料理がメニューに上がっているが、食材や味付けが限られる以上、〇〇風の域を出ないのが残念なところだ。
今、日本と「ジミンの国」とはあまり良くない雰囲気になっている。国という大きな単位での関係はともかく、人と人という個人の関係は変わらないものであってほしい。私たちだって単に日本人という一括りで見られたくないように、韓国の人だって「これだから〇〇人は」という言説で語られたくないはずだ(良いことに関しては別だという矛盾はあるけれども)。
『わたしが外人だったころ (たくさんのふしぎ傑作集)(第124号)』のエントリーで、
「将来それぞれの国を背負っていく若者たちに、お互いの文化や習慣を知る機会を提供することで、戦争の抑止にもつなげているんです」
という言葉を紹介したけれど、文化や習慣を知るのにいちばん手っ取り早い手段は旅行なのだ。旅行をすれば、言葉、食文化、習慣などなど、ごく一部に限られるけれども、知ることができる。
この本でも主人公の「ぼく」はジミンの家族とともに、韓国にいるジミンの親戚の元を訪れている。池貴巳子氏自身も「作者のことば」でこう語っている。
韓国を訪れた際、韓国の人たちにとても親切にされたことから、すっかり好きになったこと。お世話になった人たちに手紙を書くために韓国語を学んだり、韓国文化講座を受講したりしているうちに、民画と出会い、習いたいと思ったこと。
そういう意味で、韓国人旅行者が減る、民間交流が中止されるという今の事態は、経済的な視点では計れない損失を招くのではという思いを禁じ得ないのだ。
ジミンちのおもち (月刊 たくさんのふしぎ 2012年 06月号)
- 作者: 池貴巳子
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2012/05/02
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログを見る
ビビンバにまつわる、私の好きなエッセイ。