母のふるさとは北海道にある。
学校の長期休みのたび、飛行機に乗って祖父母の元へ行っていたものだ。
ある時、青函トンネルの完成に伴い青函連絡船が廃止されるというニュースを知った母は、最後に乗りに行こうと言い出した。飛行機に慣れている母が、長時間の汽車に耐えられるのだろうかと思ったが、何とか乗船口までたどり着き、無事連絡船に乗ることができたのだった。
覚えていることといえば、手袋を船に忘れてきたことだけ。あとの記憶はほとんどない。札幌まではまた鉄路、こちらも相当な距離だ。「お別れ乗船」のためとはいえ、面倒臭いことが嫌いな母がよく「頑張った」ものだと思う。
その後鉄道で北海道に渡る機会はなく、一度訪れたいと思っていたトンネル内の海底駅も見ずじまいで北海道新幹線が開業してしまった。子供は鉄を卒業したようなので、新しい新幹線に乗りたがる様子はない。
本書の最後には、
市内電車も「消えゆく鉄道」のひとつですが、函館では、まだ元気にかつやくしています。
とある。
作者である宮脇俊三は亡くなり、この号が出てすでに30年以上が経った。そんな中でも函館市電は、今でも「元気にかつやくしている」のだ。