主人公は、北海道沼田町にある「
冒頭、
この、どこにでもあるような小さな川が、私たちを遠い昔に案内してくれるふしぎな川なのです。
と紹介されている。
この川に沿って見られる崖や川床からは、たくさんの化石が見つかるそうだ。上流に行くほど古い時代の化石を見ることができるという。だから下流から上流に向かって歩くと、過去の時間へとさかのぼることができるのだ。これが“時をながれる川”というタイトルの由来である。
まず下流の、雨竜川という川と合流するあたりでは、“亜炭層”という黒い帯のような地層を見ることができる。これは200万年くらい前の地層で、アシなどのイネ科の植物の化石が折り重なっているのが見えるという。これらは湖の岸辺に生える植物なので、その頃ここには大きな湖があったことがわかるのだというのだ。
そこから1.4kmほど上流にさかのぼると、今からおよそ300万年前の地層があらわれる。川床はあたり一面、浅い海に住む貝の化石であふれており、このあたりは浅い海だったことがわかる。殻が閉じたままの貝が多く見られるので、貝塚ではなく(人が食べた貝は殻が開いている)、貝が生息しやすい海、土や砂が川から海に注ぐ河口のような場所だったと考えられるようだ。
このあたりから上流へ2kmほどの川床や崖には、二枚貝や巻貝など、およそ40種類の貝の化石が見つかるという。その貝に近い仲間は冷たい海に生息するので、当時の貝が住んでいた海も冷たかったのだろうと推測できる。なかでもいちばん大きな貝は「タカハシホタテ」。沼田町化石館では、このタカハシホタテなどの化石採集会イベントを実施しているようだ。やってみたい。
タカハシホタテがすんでいた冷たい海には、ヌマタネズミイルカという動物が泳ぎ回っていた。このイルカの化石は、野外授業中、近くの中学校の先生と生徒たちによって発見されている。およそ400万年前のものだ。
ヌマタネズミイルカ発見30周年特別展を開催しています [2015年07月25日(Sat)]
というように、どんどん上流にさかのぼって説明が加えられてゆく。なぜ、上流ほど古い地層があらわれるのか?地下のマグマの働きで、この辺りの地層が持ち上げられたからだ。高く持ち上げられたところほど、川が勢いよく流れるので、川床が大きく削られることになる。その結果、川の上流ほど古い時代の地層があらわれるという案配になるのだ。
本書の最後はこう締めくくられている。
数千万年をかけて水の底につもった地層は、数百万年かけて川によってけずられてきました。川は、いまもその営みをやめません。
小さなこの川の流れも、雪どけのころには、ごうごうと川床をけずって流れ、また少し時間のページをはがしていきます。ぼくは、地下深くに広がっている大昔の世界を、ひとすじの川がけずった小さなすき間からのぞいて、いまもどきどきしています。
いま、この川は、過去の時間を上流から少しずつけずっています。
そして、最後に注ぎこむ日本海の底に、新しい地層として現在の時間をとじこめているのです。
“ゆく河の流れは絶ずして、しかももとの水にあらず”とは方丈記の言葉だが、ゆく河の流れが、もとの、過去を覆うヴェールをはがしてくれるというのはなんとも不思議なことである。
- 作者:古沢 仁 文・絵
- メディア: 雑誌