身近にいながら、アリほど“知らない”虫もない。
知っていることといえば、地中に巣を作るとか、集団生活してるとかくらい?アリとハチが仲間というのも、そういえば同じような集団生活してるなーとか、ヒアリでアナフィラキシーってそういやハチ毒と同じだなーとか。
「毒をもって毒を制す」を地でいくのが蟻浴。先生がイベントの時に動画を見せてくれたが、カラスがアリたちを刺激し、怒って蟻酸を出すアリをまとわりつかせる様子が面白かった。
本号の主人公、ツヤヒメサスライアリの恐ろしさは毒ではなく、その生態にある。ツヤヒメサスライアリは、巣を持たず、隊列を作り獲物を襲撃してくらすグンタイアリの仲間。獲物というのはなんと同種である、他のアリなのである。
戦いの様子は酸鼻をきわめるもの。
ツヤヒメサスライアリが、オオズアリの巣口を見つけました。オオズアリの兵アリがツヤヒメサスライアリに気づき、ツヤヒメサスライアリに飛びかかっていきます。
兵アリたちは、手あたりしだいにツヤヒメサスライアリにかみついて、頭や脚を切り落としていきます。それでも、兵アリのまわりのツヤヒメサスライアリの数はふえるばかりです。とうとう、兵アリは何十匹ものツヤヒメサスライアリにかみつかれて、1匹、また1匹とばらばらに切りきざまれてしまいました。
といった具合だ。その後、オオズアリの巣(城といった風情か)に攻め入ったツヤヒメサスライアリは、幼虫やサナギに襲いかかる。ばらばらに切り刻んだオオズアリともども、獲物を次々と運び出しながら前進を始めるのだ。
巣を持たない生活では、子育てもキャラバンでおこなうことになる。「自分で歩くことのできない幼虫を、はたらきアリが口にくわえて」運ぶのだ。さすがに、さなぎから新しいはたらきアリが生まれてくるまでは、移動を中断するらしい。
繁殖も壮絶。メスアリが交尾するのは一生に一度だけ。その後はオスから受け渡された精子をお腹にため、一生涯それを使って受精させる。1回に何千という卵を産み落とすメスのために、オスはたくさんの精子を渡さなければならない。だから、長い時間をかけた交尾の後、オスアリは力尽きて死んでしまうのだ。交尾を済ませたメスアリは、体からフェロモンのようなものを出し、はたらきアリたちを引き寄せる。こうして新しい女王アリが誕生すると、交尾できなかった=女王になれなかったほかのメスアリたちは、はたらきアリに殺されたり、仲間から追い出されたりして、死を迎えることになる。
「作者のことば」によると、ツヤヒメサスライアリの軍団が運んでいる獲物を調べてみると、1341個、48種のアリを捕まえていたという。そんなに食べていたら、森からアリがいなくなってしまうのでは?と思われるだろうが、襲うのは大きな巣を作っているアリだけ。こうしたアリの縄張りが大きくなると、他のアリが住めなくなってしまう。アリ族全体の繁栄という視点から見ると、バランスを保つ上で役立っているのだろうということだ。
Special Story:化学物質でつながる昆虫社会-BRH - JT生命誌研究館
本号は、説明文を多く必要とする内容では珍しく、絵を主体とした作りになっている。見開きをいっぱいに使った迫力ある絵に対し、説明文は小さなフォントで簡潔につづられている。中・高学年くらいの小さなグループに読み聞かせしたら面白いだろうなあと思った(そういう機会はまずないのだが)。