本書の著者である森島氏も、『バシリスク 水の上を走るトカゲ(第316号)』の嶋田氏と同じく、偶然出会って一目で恋に落ちたものを追っかけ始めたクチだ。
仕事でボリビアに行くことになった森島氏は、前々からの憧れ、ヘルクレスカブトムシやモルフォチョウを見ることを楽しみにしていた。自分の住むところがスクレという街で、地形や気候的に「ヘルクレスやモルフォがいるわけはない」場所と知りがっかりする。ある日、モンテアグードというところに出張に行くことになった彼は、途中パディジャの町を通り過ぎたところで森林地帯を発見する。休憩もそこそこに、憧れの「南米の森」でカメラ片手に虫探しを始める森島氏。最初に出会ったのが、一匹のツノゼミ。ひと目で気に入ってしまった森島氏は、モンテアグードでも、ヘルクレスもモルフォもそっちのけで、ツノゼミ探しに熱中することになるのだ。
ツノゼミの中には、アリと共生関係にある種類もいる。『お姫さまのアリの巣たんけん (たくさんのふしぎ傑作集) (第150号)』で紹介した『アリの巣のお客さん』によると、これらのツノゼミの幼虫も、アブラムシやカイガラムシのように“甘いおしっこ”を出す。植物の汁を餌に余分な糖分を排出する生態をもっているからだ。アリは“甘いおしっこ”目当てのボディーガードとしてはたらいている。本書でも「アリと暮らすツノゼミ」で一章割かれているが、ミナミセダカツノゼミの群れをためしにつついてみたら、アリは激しく走り回って手に噛み付き、攻撃をしかけてきたそうだ。
ミナミセダカツノゼミ……と固有名詞をさらっと書いたが、実のところ、
ところが、それらツノゼミのほとんどが、日本名をもっていなかった。だから、ぼくは新しいツノゼミに出会うたびに、そのすがた形を見ては、かってに名前をつけた。この本で紹介したツノゼミたちの日本名は、ほとんどぼくがつけたものだ。でももっといい名前があるかも知れない。あなただったら、どんな名前をつけただろう。
本書のツノゼミに充てられた日本名の多くは、著者が考えたものだというのだ!
“ミナミセダカツノゼミ”もそうなのかはわからないが、学名は(エンティリア)とカッコ書きされているので、Entylia carinataのことかなあと思われる。ちなみにこのEntylia carinata、『ツノゼミ ありえない虫』という本では“エグレツノゼミ”という日本名が充てられている。
さらに、それぞれ違う6匹のツノゼミの写真には、
ここに紹介するツノゼミたちは、まだぼくも日本名をつけていない。だから、ぜひ、このふしぎな形をしたツノゼミたちにぴったりの、すてきな名前をあなたが考えて、つけてあげてほしい。
と名付けを呼びかけられている。こういうところが「たくさんのふしぎ」らしくていいなあとしみじみ思う。世界には日本で知られていない、日本名もついていない生きものがたくさんいること。それに自分で名前をつけてもかまわない(正式な名前になるかどうかは別として)なんて、わくわくする話ではないか。
私だって、子供に負けず創造性を発揮すればいいのだけど、丸山先生の本ではなんて名前になっているかな?とかいう他力本願で小市民的な発想しかないのが残念なところだ。まったく詰まらないことだけど、たぶんこれかな?と思うものを調べてみた。カッコ書きが『ものまね名人 ツノゼミ』で表記されているカタカナ学名、斜字体がこれかな?と私が推測した学名、⇒の後がその学名に対し『ツノゼミ ありえない虫』の中で充てられている日本名である。
(ケレサ)→ Ceresa taurina ⇒ カメンツノゼミ
(メンブラキス)→ Membracis foliatafasciata ⇒ マルエボシツノゼミ
(リコデレス)→ Lycoderes fuscus ⇒ トッテツキツノゼミ
(スポンゴフォールス)→ Cladonota (Sphongophorus)
⇒ Cladonota hoffmanni マツツノゼミ?あるいは
⇒ Cladonota guimaraesi カザンツノゼミ?あるいは
⇒ Cladonota gracilis トウロウツノゼミ
(スティクトケファラ)→ Stictocephala bisonia
⇒ だと思うが『ツノゼミ』には見当たらず。
(キフォニア)→ Cyphonia sp. ⇒ キスジスキサジツノゼミ
写真だけで同定するのはなかなか難しく、時間を無駄にした調べものになってしまった。これほどまでに広いツノゼミの世界、研究者の方も同定や新種の記載に苦労しているのではないだろうか?昆虫の場合、捕獲して後から調べるということもできるから、新発見のチャンスはけっこう転がっているのかもしれない。
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