こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

宇宙人に会いたい(第205号)

7年くらい前、はやぶさの帰還が話題になった時、私たちは鹿児島にいた。

はやぶさが打ち上げられたのは内之浦宇宙空間観測所。住んでいたところから遠くないこともあり、何回か施設見学に訪れたことがある。中にある宇宙科学資料館は、トリップアドバイザーの口コミで、"ある意味秘宝館"と評されるとおりの場所。私たちが初めて見学した2008年当時、はやぶさについての展示もあったが、扱いはごくごく小さいもの。「無事地球に帰ってこられるといいですね」とかいう牧歌的なコメントが付けられていたことを覚えている。帰ってくる見込みは少ないという印象しかなかった。

それが2010年、いつの間にか帰還の目処が立ち、マスコミに取り上げられ、あれよあれよと熱狂的なブームが巻き起こるではないか。内之浦という、ほとんど知られないロケット発射場が話題になるのもうれしかった。種子島とは異なり、すでにお役御免かと思っていたからだ。一方で、帰ってくるとも思ってなかったあの子がねえ……となんだか複雑な気分を覚えたものだ。

はやぶさのおみやげである「カプセル」は、内之浦にも“里帰り”した。一般公開に馳せ参じたことは言うまでもない。普段は静かな肝付町 *1に私たち含め大勢の人が押し寄せてきた様は圧巻だった。ちなみに私の携帯ストラップは、はやぶさを打ち上げたM-Vロケットが付いているものだ。

このM-Vロケットの廃止後、お役御免の危機に陥っていた内之浦が、イプシロンロケットの投入で救われたことは、内之浦に少しだけ縁がある私にとってもうれしいことだ。内之浦は“世界一愛されるロケット発射場”でもあるのだから。イプシロン成功により『ロケット発射場の一日』という絵本で、内之浦の方を取り上げて描かれたのもうれしい限りだ。

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内之浦の発射台。地球の風船は、子供が手に持っていたもの(写真下部はトリミング済)。

f:id:Buchicat:20180302092728j:plainストラップ

内之浦の話でだいぶ費やしてしまった。

はやぶさのミッションは何か?小惑星まで到達しサンプルを採取、それを地球まで持ち帰ってくることだ。小惑星探査というのは、未知なる星を調べるだけでなく、地球外生命は存在するのか、存在の痕跡はあるかという次元にまでつながる話なのだ。

『宇宙人に会いたい』の本文で、

彗星や、流れ星のもとになる岩石には水もあります。バクテリアの食べ物もあります。

ですから、どこかの星で生まれた生きものが彗星や流れ星にのって、宇宙を飛びまわっているかもしれません。

地球の生命も、そうやってどこかの星からやってきたと考えている人もいます。 

と書かれるとおり、わたしたちが星の子どもであるならば、地球の外にも“星の子ども”がいたとしても不思議ではない。

本書の最後は、“宇宙人”についてこんな希望的観測がなされている。

どんな生きものも、たくさんのなかまや、ほかの生きものの助けがあって、生きていける。ひとりだけでは生きていけないんだ。電波や光で私たちに返事をくれたり、宇宙旅行をしたりするような文明をもった宇宙人なら、そのことをよく知っているだろうな。だから、きっとほかの生きものとなかよく生きているにちがいない。そんな宇宙人なら、きっと友だちになれるはずだ。

奇しくも、別著者による同タイトルの本『宇宙人に会いたい!』では「宇宙人に関するQ&A」のコーナーで、

宇宙人は良い人なの?悪い人なの?

というクエスチョンに対し、次のような答えを出している。

すなわち「小説やマンガ、映画のようにわざわざ地球の資源を求めて襲ってくるというのは、遠く離れた星からやってくるコストに対して割に合わないし、そんな高度な技術を持つ宇宙人なら、別の方法で資源を生み出していることだろう」と現実的なことを踏まえた上で、

争うことの好きな宇宙人、戦争をしてものや資源をうばう宇宙人は、戦いをくりかえすうちに滅びてしまうのではないでしょうか。

このように考えてくると、地球にやってくる宇宙人は、私たちにとって危険な敵ではないだろうと私は思います。

こちらの著者も、宇宙人は敵対的な存在ではないだろう、と考えているところが興味深い。

ちなみに、

宇宙人と地球人は言葉が通じるの?

というクエスチョンには、

算数を言葉として使えば、通じるかもしれません。

との回答がなされている。ふと『アリになった数学者(第390号)』を思い出した。違う身体に違う数学が宿るというならば、人間には人間の、アリにはアリの数学があるというならば、宇宙人には宇宙人の身体に根ざした数学があるということになるだろう。果たして「自分ではない相手の心と、深く響きあうこと」ができるのかどうか、それはどういった方法でなのか、ちょっとわくわくする話だ。

アメリカ、国際宇宙ステーションの民営化を検討」という残念なニュースがある一方で、最近では「「はやぶさ2」がリュウグウの撮影に成功」というニュースもあり、まだまだ宇宙人には会えないとしても、少しずつ近づけているような気分になるのは、気が早すぎるだろうか。

ロケット発射場の一日 (講談社の創作絵本)

ロケット発射場の一日 (講談社の創作絵本)

*1:内之浦は伊勢海老の名産地でもある。安くて美味しいので「えっがね祭り」の時期にはぜひ訪れてみてほしい。年間イベント/肝付町