こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

草や木のまじゅつ (たくさんのふしぎ傑作集)(第3号)

本書は草木染めについて書かれたものだ。

草木染めといって思い出すのが志村ふくみ。中学か高校だかの教科書に、彼女の書いた文章が載っていたのを今でも覚えている。と思って調べてみたら、なんとそれを書いたのは志村氏自身ではなく大岡信。「言葉の力」という作品のなかで書かれたものだった。教科書的なことを言えば、この文の肝は「言葉は、言葉単体だけで取り出せるものではなく、それを発する人間全体に関わるものだ」ということで、それをこそ心に留めるべきだったのだろうが、細部である染色の話の方がはるかに強く印象に残っている。

大岡氏が、着物の桜色が、花ではなく皮を使って染められているのに驚いたように、本書に紹介されている色も、植物のさまざまな部位を使って染められている。もともとの植物や樹木の色を考えると、これがこの色になるのかと本当に不思議に思う。

たとえばマツヨイグサのなかまは、花を使うと黄色に染まるが、葉と茎を使うと黄色や赤みのある金茶色、紫がかったねずみ色に染まるそうだ。同じフジの葉を使った染色でも、媒染液の違いによってさまざまな色が出現する。鉄を媒染に使うと深みのある焦茶色、銅を使うと金茶色、明礬を使うと黄色というように、媒染を違えることによって色の違いも出すことができるのだ。

同じ草や木でも、季節によって含まれる成分が違うので染まる色も変わってくる。本書の最後には「草木染めカレンダー」が載っていて、それぞれの季節で、何の植物のどの部位を使い、どんな注意をして染めたらいいのかが書かれている。たとえば4月だったら「アカネの根」を「乾かしてから煮る」という方法や、「ギシギシの根」は「生の根を使う方がよく染まる」という注意書きが書かれている。 どんな色があらわれるのかは書かれていないので、自分で染めてのお楽しみということだろう。

含まれる成分が季節によって異なるならば、その年の植物の成長具合によっても変わるだろうし、あるいは樹木であれば、若木と老木では違ってくるのかもしれない。刻々と変化する生きものの、いちばんの瞬間をとらえること、そのいちばんの色が一期一会であるところが草木染めの魅力なのだろう。

作者の山崎青樹氏は、それぞれの草や木の絵も描いているが、当たり前ながら、彼が染めた色の方が圧倒的に美しい。絵は引き立て役ではないかと思えるほどだ。それぞれの樹木や植物が自然のなかで見せる色も、もちろん美しいものだが、人の手によって違った美しさが引き出される様は、まさに魔術という他はない。

草や木のまじゅつ (たくさんのふしぎ傑作集)

草や木のまじゅつ (たくさんのふしぎ傑作集)