こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

日本の自動車の歴史 (たくさんのふしぎ傑作集) (第82号)

本号の著者山本忠敬は、のりもの絵本で有名だ。乗り物好きのお子さんがいて、絵本を読んでやる方なら、きっと手に取ったことがあるのではないだろうか。

家でも名作『しょうぼうじどうしゃじぷた』(挿画担当)を始め、どんなにかお世話になったことだろう。飛行機で帰省する折りには『ひこうじょうのじどうしゃ』を荷物に入れ、電車が好きといえば『しゅっぱつしんこう!』を買って読み、消防車に興味をもてば『かじだ、しゅつどう』を読んでやり……と子供のそばにはいつも彼の絵本があった。

何も考えず読んでやっていたが、山本氏の絵本は絶妙なバランス感覚で作られていることに気がついた。幼児向けだからといって端折りすぎず細部まで気を配る一方、情報を詰め込みすぎることなくすっきりと仕上げている。『ひこうじょうのじどうしゃ』など、描かれる会社はすでに存在しない(日本エアシステム)ものもあるが、絵本自体は現役で活躍中だ。本屋さんの棚、図書館の書架、児童館の絵本コーナー……そこに当たり前にあり、世代を超え子供たちの心をつかみ続ける。彼の作品は“のりもの絵本のイデア”といっても過言ではないと思う。

そんな山本忠敬によって作られた唯一の「ふしぎ」が、この『日本の自動車の歴史』だ。

小学生も中学年ともなれば、彼にとっては大人なのかもしれない。48ページ構成でぎっしり中身が詰まった本号は、自動車の歴史が余すところなく描かれており、登場する車種の数も半端ない。巻末にずらりと列んだ協力者や参考文献(外国語文献含む)の量たるや、この本が生み出されるまでいかに時間と労力を要したかを実感させられるものだ。だからこそ名作といわれる絵本をも描けるのだろう。

電気自動車は今どきのものと思われがちだが、意外にもかなり前に登場していて、

終戦直後は、自動車の製造禁止とガソリン不足から、電気自動車がみなおされ、1949年には、日本の自動車保有台数の3パーセントの3299台にもなった。しかし、やがてガソリンが豊富になると台数はへって、1954年にはすがたをけしてしまった。

という時代もあったことがわかる。

思い出してみれば、電気自動車、現れては普及しきれずにいつの間にか消えてゆくを繰り返していたものだ。この時期1947年に登場した「たま電気自動車」を作ったのは、後に日産と合併する東京電気自動車。日産が「リーフ」で日本の電気自動車業界をリードしつつあるのは、こういう縁があるからなのかもしれない。

数年前、夏休みの暇つぶしに日産自動車追浜工場の見学に行ったことがあるが、ゲストホールには、往年の名車(といって差し支えないと思うが、車に詳しくないのでいまいちわからない)ダットサン・ブルーバードと共にリーフの実車も展示されていた。 

ダットサン・ブルーバード & リーフ

本書の最後の方では、

 日本の自動車輸出台数は、年々ふえて、1974年には262万台となり、ついに自動車輸出台数世界一となった。

 その後も輸出はふえつづけて、とうとう輸出相手国の不満をかい、国際問題をひきおこすほどまでになった。

と、いわゆる日米貿易摩擦について触れられている。

2003年に亡くなった山本忠敬氏も、この男が合衆国大統領になるなど、今さらながら「日本はアメリカに大きな船でたくさんの車を輸出している。不公平だ」などと言い出すとは予想だにしなかったに違いない。

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この号が出たのは1992年。したがって「歴史」も1970年代までが主で、80年代についてはソーラーカーに触れただけで終わっている。氏が生きていたらどんな続きを描いただろうか。

ここからは余談。

子供が小さかった頃『ダットさん』という絵本を読んでやったことがある。ダットサンを主人公にした冒険物語だ。ダットさんは、友だちのエスハチくんとヨタハチちゃんを誘ってお出かけするが、途中ヨタハチちゃんが「つきぼしだんのトラック」に攫われてしまう。二人(二台?)は追いかけて救出に向かうが、「ベリバリきょうだい」の邪魔も入り見失ってしまうのだ。そこへ現れたのが救いの神エヌコロちゃん。彼の先導でヨタハチちゃんが囚われている場所へと潜入し、無事救出に成功するのだ。しかし、ベリバリきょうだいの猛追に見舞われ、挟み撃ちで絶体絶命のピンチに陥る。もはやここまでかと思われたところ……ダットさんは「むかしおじいさんからきいた、つきのトンネルのじゅもん」を思い出す。それを唱えた四台は、ベリバリきょうだいを追撃をかわし、無事逃げ切ることができるのだ(ちなみにその呪文は、追浜に関係する言葉でできている)。

黙読するだけならそんなに面白い本ではないが、臨場感たっぷりに読み聞かせしてやると盛り上がること請け合いである。クルマ好きの子にはとくにおすすめだ。家の子も久しぶりに読み返していたが、当時と同じところで楽しんで盛り上がっていた。