こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

一郎くんの写真 日章旗の持ち主をさがして(第414号)

今朝、NHKを見ていた子供が、
きょうは「なつぞら」やらないんだね、と言い出した。
平和記念式典が始まっていた。
8時15分、子供と一緒に黙祷を捧げる。

中学高校と多感な時期を広島で過ごした夫は、毎年黙祷を捧げている。
私も山口、広島と転勤先で過ごすうちに、この日の黙祷が習慣になった。

ことし4月、広島平和記念資料館がリニューアルされたという。

今晩放送される、

NHKスペシャル | “ヒロシマの声”がきこえますか ~生まれ変わった原爆資料館~

によると、「遺品」や「写真」に刻まれた被爆の記憶や、エピソードをひとつひとつ調査し、「どんな人が持っていたのか」「のこされた家族は何を思うのか」という“個人の物語”にスポットを当てた展示になっているそうだ。被爆者の高齢化が進み、体験を語れる人が少なくなる中、遺品や写真に「あの日の記憶」を語って貰おうという狙いがあるようだ。

『一郎くんの写真 日章旗の持ち主をさがして』も、そんな「戦争の遺品」の持ち主を探すところから始まる。

「作者のことば」によると、元になった話は、中日新聞朝刊で連載された記事。

<さまよう日章旗>(1) 「還りたい」泣く遺品:さまよう日章旗:中日新聞(CHUNICHI Web)

本号は記者本人が再取材し「たくさんのふしぎ」として子供たちに届けるために、加筆して再構成した絵本だ。新聞連載では、探す過程そのものも記事にしていて、読者から多くの反響があったようだ。本書でも同様の構成になっていて、あたかも取材に同行しているような臨場感がある。

日章旗の持ち主は題名のとおり“一郎くん”で、本書はその一郎くんの、まさに“個人の物語”にスポットを当てたものだと言える。

しかし、遺品の日章旗が語るのは、一郎くんの人生だけではない。
一郎くんの家族はもちろんのこと、家の近所の人たち、日章旗に寄せ書きをした人たち、一郎くんと最後を共にした兵士たち、さまざまな人の人生がそこにはあったのだ。

本号のタイトルは『一郎くんの日章旗』ではなく『一郎くんの写真』だ。
記者が写真と出会うまでの「物語」は、ぜひ本書を読んで確認してみて欲しい。
絵は沢野ひとしがつけているが、温かみはあるけれども、細密に描きすぎないタッチが、本文によく合っている。このイラストのおかげで、最後に載せられた「本物の写真」がグッと引き立つ。これは物語ではなく、本当に一郎くんは存在していたのだ、一人の男の人生があったのだと、生々しい現実を教えてくれるのだ。

もう一つ、この本に込められているものがある。
作者自身の新聞記者としての生き様だ。

新聞記者とはこういう仕事なのだ。「新聞記者の使命」とは何なのか。
書き出しの、短い一文には、そんな作者の思いが込められている。

一郎くんに出会う旅ー『一郎くんの写真 日章旗の持ち主をさがして』刊行によせて|ふくふく本棚|福音館書店公式Webマガジン

ひろしま

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