こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

巨鳥伝説(第178号)

「作者のことば」には、こう書かれている。

子どものころ、冒険物語に登場するふしぎな動物や植物を、一度この目で見てみたいと思ったものでした。主人公をおそう獰猛なトラ、ジャングルに咲く巨大な人食い花、太っちょでのろまなドードー、恐龍のようにすっくと首をもたげた巨鳥モア……。そして私の旅は、今なおそんな憧れの光景をもとめるものになりがちです。

本書は、そういった冒険物語、『アラビアン・ナイト』に出てくるロック鳥の話から始まる。

ロック鳥は『東方見聞録』に登場するグリフォンにつながっていき、マルコ・ポーログリフォンがいると語られたモグダシオ島はすなわちマダガスカル島

17世紀に島の管理にあたっていたフラクール総督が著した『マダガスカル島物語(Histoire de la grande isle Madagascar)』には、巨鳥の話が出てくるという。島民は巨鳥の卵の殻を水差しに使っていたと書かれているが、フラクール自身は実物には出会えなかった。

その後もモーリシャス島にラム酒を買いにきたマダガスカルの住民が、持ち帰り容器として巨大な卵のからをもってきた話など、巨鳥についてのネタは尽きることがない。

19世紀に入ってようやく、完全な卵2個と鳥の骨の一部が現実のものとして現れる。国立自然史博物館の学者エティエンヌ・ジョフロワ・サンティレールによって研究が進められ、エピオルニスと名付けられた。

 

一方、イギリス人リチャード・オーウェンは、ニュージーランドから持ち込まれた「マオリ族から手に入れた珍しい鳥の骨」を研究していた。当のニュージーランドでは、コレンゾーとウィリアムズという二人の男がやはりマオリの話、

「オンドリのすがたをして人間の顔をもつ、モアという巨鳥は、2ひきの大トカゲにまもられて森の中にすんでおり、人間が近づくと蹴りころす」

を聞いて、巨鳥探しに熱中していたという。コレンゾーはオーウェンとそのモアの発見者の座をめぐって争ったが、マオリの人々から買い集めたモアの骨を、結果的にオーウェンの元に届けることになってしまった。それらの骨を組み立ててオーウェンは標本を作り上げることになる。しかしオーウェンも、そしてコレンゾーもウィリアムズも、生きたモアを見ることはかなわなかった。

 

伝説の巨鳥に会いたい。

作者も夢みた「冒険物語に登場するふしぎな動物や植物を、一度この目で見てみたい」という思いは、皮肉にも人間が冒険に出かけたこと(移住、開拓)によって、潰えることになった。

もしマダガスカルニュージーランドが発見されなかったとしたら、原始のまま今日をむかえていたとしたら、どうだったでしょう。

最後はそんな空想の島のようす、エピオルニスが島で生きる様子を想像した文章でしめられている。満点の星空のもと、バオバブの木の下でエピオルニスの家族が仲睦まじく身を寄せ合っている絵は何ともロマンティックだ。

巨鳥の伝説は、現実のもの(骨、卵)として現れたが、姿を見ることはかなわず、生きている時の様子は物語(想像のもの)として帰ってゆく……そんな流れを表現しているようだ。ジャンルにしばられることのない「たくさんのふしぎ」らしい面白い本だった。