こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

南極のさかな大図鑑 (たくさんのふしぎ傑作集) (第333号)

この図鑑を見てまず思ったのは、

南極のおさかなってこんなにいるんだ!しかも聞いたことないようなものばっかり!

増頁48ページを余すところなく使って書かれたこの号は、まさに大図鑑の名にふさわしい本だ。50ページもないのに大図鑑?などと侮ることなかれ。世に魚類の図鑑は数多あれど、南極に特化したものが他にあるだろうか?

文一などは『原寸大写真図鑑 羽*1とか『鳥の骨格標本図鑑 (BIRDER SPECIAL)』とか『日本一の巨木図鑑―樹種別日本一の魅力120 (列島自然めぐり) 』とか、いったい誰がこんなん買うんかというニッチな図鑑をたくさん出しているが、あくまでターゲットはその道の人たちだ。

こういうのを「たくさんのふしぎ」として、子供向け月刊誌の1冊として出してしまうのがすごいのだ。なんでこれが700円ぽっちで買えてしまうのか?傑作集は上製本なのでもうちょい高いが、それでも1300円だ。ずっしり重く感じられるのは48ページという量だけでなく、装いも新たに表紙を一変させたおかげもあるだろう。おもて表紙だけではわからないが、背表紙裏表紙にかけ白い背景がガラッと変わり、深海の様子そのままの暗い色調で描かれている。

91種ものお魚たちを紹介したこの本は、南極の海の豊かさを感じさせるものだ。私の大好きなペンギンたちのくらしを支えているのも、こんなお魚たちなんだなあと思うと胸熱だ。ペンギンだけではない。人間もご相伴にあずかっているお魚もある。フライやムニエルの材料とか、フライやムニエルにするとおいしいとか、フライの食材としてとか、フライなどにするとおいしいとか、「メロ」の名前でスーパーでも売ってる*2とか、ちょこちょこ書かれているのが面白い。フライムニエルフライムニエル。南極の魚は多様だけれど、調理法は多様じゃないんだなあ。

いやいやいや……

多様どころか「作者のことば」によると、南極海では「300種程度」の魚が知られているのみだというのだ!南極海は広い。世界の海の約1割を占め、広さは日本の国土の約100倍にも相当する。面積こそ広いものの大陸を一周するように広がっているため、同じような環境が続いているのだという。したがって生物の多様性もそれほど高くない。比して日本周辺の海には魚類だけでも4000種が知られている。豊かどころか逆に「南極海は極端に種の多様性が低い」のだ。気候など環境に変動があった場合、バランスを保つことができず、壊滅的な変化が生ずる可能性もあるのだという。私の大好きなペンギンたちも、そんな「繊細な生態系」の一部にいる。環境変化によっては、いつどうなってもおかしくない存在なのだ。

この本でもう一つ特筆すべきはイラストだ。91種もの魚を一人で描き分けるなど、どれだけの時間を要したことだろうか。もっともイラストの廣野氏は「幼少のころから用水路で生き物を捕まえ、釣りをして過ごす。学校では休み時間のたびに魚の絵を描いていた」そうだから、この本を担当するのは本望だったに違いない。おそらく、この図鑑を読む人は「誰が」イラストを描いたかなど気にも留めないだろう。それでこその図鑑だ。図鑑のイラストはかくあるべしという理想そのままの絵は、「魚の絵を描くのが好き」だけでは描けないプロの仕業なのだ。

南極のさかな大図鑑 (たくさんのふしぎ傑作集)

南極のさかな大図鑑 (たくさんのふしぎ傑作集)

  • 作者:岩見 哲夫
  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: 単行本

月刊誌版の、クジラがオキアミをがばーしてる表紙も迫力があって楽しい。裏表紙はなぜか、猫が魚をくわえているところが描かれている(傑作集からは省かれています)。この魚こそ「人類がはじめて出会った南極の魚」なのだ。猫と魚のエピソード(ミステリー)については傑作集のどこかにも書かれているので、ぜひ探してみてほしい。

「ふしぎ新聞」には、この第333号を記念して「ケ記者」が、333メートルの東京タワーに歩いてのぼった記事が書かれている。係の人には、途中でキツくなってもエレベーターに乗れないし引き返せないと念を押されたそうだ。所要時間は約15分、階段は600段。なかなかチャレンジする勇気はないなあ。

今週のお題「読書感想文」…ブログのエントリー全部読書感想文だけど。

*1:昨年の子供のクリスマスプレゼント。高くて重くてデカくて高い。スポンサーはもちろん祖父母。

*2:日本から消えつつある旨い魚 | 海といのちの未来をつくる