こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

空があるから(第425号)

『空があるから』を読んでいた子供が、突然「地球って特別なんだね」と言い出した。

30〜31ページの、地球のお隣さん、金星や火星と比べてのことである。しかし、金星火星の環境がどう違うかなど、子供図鑑にも載っていることだ。子供だってすでに知っていることのはず。家にある『宇宙 (講談社の動く図鑑MOVE) 』には、金星がなぜそういう環境なのか解説もつけられている。

金星の大気のうち、96%が二酸化炭素です。地表から約45km〜70kmの高さにある濃硫酸の雲が金星全体をおおっています。金星にとどく太陽のエネルギーは、厚い雲にさえぎられて、地表には2%しかとどきません。それでも、地表の温度は460℃にも達します。これは、二酸化炭素をたくさんふくんだ濃い大気が、熱をとじこめるためと考えられています。(『宇宙 (講談社の動く図鑑MOVE) 』25ページより)

同じことが本書では、どう書かれているか。

金星は太陽から近くて、水が蒸発してしまいました。水がないので、二酸化炭素が海に吸収されることはありません。その結果、現在も地球の90倍もの量の大気が残っています。そのほとんどが二酸化炭素で、お布団の効果がとても大きいので、地表の温度は460度もあるといわれています。(『空があるから』30ページより)

お布団?

この下線をつけた部分、大気という「お布団*1」こそ、本号の要となるお話なのだ。 

宇宙の温度は−270℃なのに、なぜ地球は寒くならないのか?

太陽は地球をあたためてくれるけれど、熱くなり過ぎないのはどうしてか?

地球は赤外線を出して熱を逃がしているけれど、熱のやり取りを計算すると、もっと冷たい星(−18℃)のはず。なぜそんなに寒くない(平均気温15℃)のか?

ひとつひとつ疑問を投げかけながら、大気は地球の「お布団」であるということを、順を追って説明してゆく。

地球や宇宙についての知識そのものは、上記のような図鑑や『好奇心をそだて考えるのが好きになる 科学のふしぎな話365』のような科学のお話をまとめた本、あるいは地球や宇宙をテーマにした他の科学絵本などにも書かれていることだ。だが、地球における大気の役割に焦点をあて、しかも小学生にもイメージできるように描かれた絵本というのは、なかなかないのではないか。

もちろん、図鑑などの知識を結びつけて横断的に利用できる人なら、大気の役割についても自ずと理解できるかもしれない。ただ、私のように、大気が地球環境に果たしている役割など考えたこともないような人や、地球や宇宙について知識はあるけれど、それを大気の役割と結びつけて考えたことのない子供もきっといることだろう。

何の気なしに見上げる空が、私たちを取り巻く大気が、こんなに大切な役割を担ってくれていることを、これほどまでに実感させてくれる本はない。この本を読む誰もが、地球が特別であること、いのちあふれる特別な星であることを実感するはずだ。そして「空があるから」というシンプルな題名に込められた意味に気づくことだろう。

地球にとってもうひとつ大事なことがある。それは大気が動くこと。つまり風だ。

風を見たことある?(第260号)』で撮られた風、ことばでつかまえられた風は、科学者の目にはこう見える、地球に対してはこういう役割を果たしているのだということを教えてくれる。人によって切り口によって風の見え方も違ってくる。風ひとつとっても、多様な切り口で見せてくれるところが「たくさんのふしぎ」の真骨頂でもある。

「作者のことば」では、温室効果ガスとそれにともなう地球温暖化にも触れられているが、大気は「お布団」は不変でそのままあるものではなく、私たちの活動が「お布団」に影響を与えていることも書かれている。環境問題を自分ごととして考えるためにも、まずは「お布団」がどれだけ大切な役割を果たしているか、自分に引き寄せてイメージできることが必要なのだ。

空があるから (月刊たくさんのふしぎ2020年8月号)

空があるから (月刊たくさんのふしぎ2020年8月号)

  • 作者:杉本 憲彦
  • 発売日: 2020/07/03
  • メディア: 雑誌

<2021年10月6日追記>

今年のノーベル物理学賞を、眞鍋淑郎博士らが受賞した。眞鍋先生の研究は、まさにこの「お布団」に関わるものだ。本号で言われる「空では、わたしたちのくらしにかかせないことが毎日起こっている」そのことを、海洋も含め物理法則でシミュレーションし、気候モデル開発の基礎を作り上げた。今、地球温暖化研究が進められるのも、その礎のおかげなのだ。

*1:英題は"COMFORTER IN THE SKY"