小さな木の箱のふたを開けると音楽の演奏がはじまるオルゴール。
「オルゴール」というと外国語のように聞こえますが、
ほんとうはオランダ語から生まれた日本語です。
オルゴールって日本語だったのか!
その昔、オランダ人が持ってきた手回しオルガンに由来するもの。音楽を奏でる箱、江戸時代の人はさぞかし驚いたことだろう。
昭和生まれの私にとって、音楽を奏でる箱といえばレコードだった。記憶にある限り、少なくとも10歳まではレコードを聴いていたはずだ。忘れもしない8月の晩、日本航空123便行方不明の報を知ったとき、ベートーヴェンのピアノ曲を聴いていたからだ。
オルゴールの祖先は、ヨーロッパの塔時計。塔時計といえば、小学生のころ『時計塔の秘密』が好きだったことを思い出した。『幽霊塔』*1の方ももちろん読んでいる。学校の図書室に満ちていた、古びた本のにおいを思い出す。
つい脱線してしまったが、オルゴールには過去を引き寄せるなにかがあるのかもしれない。オルゴールの音色は、美しいけれどどこか物悲しく、二度とかえってこないものを思い出させるからだろう。
塔時計の登場、品質の良い青銅の流通、そしてカリヨンの誕生。家の中に置ける壁掛け式時計が発明され、からくり細工で装飾される。ゼンマイの発明と技術の進歩によって、時計とからくりの仕組みはさらに発展してゆく。こうして1796年「音楽を箱のなかに閉じこめた」のが、スイスのアントワーヌ・ファーブルという男だ。これがオルゴールの誕生と言われている。オルゴールの歴史を振り返れば、時計と密接に関わっていることがよくわかる。
この後、時計、オルゴール、からくりの3つの技術は、それぞれべつべつに発展していくことになります。
時計との蜜月関係を終え「オルゴール」として歩み始めたあとは、「音楽」の部分が課題となってくる。時計やからくりと別れたことで、オルゴールの役割はもはや音楽一つ。演奏の質や長さを改善する必要が出てきたのだ。改良を重ねた大型のシリンダーオルゴールは、音色も美しく、難しい曲を演奏できるまでに発展していった。
一方で、家庭でも手軽に楽しめるような、小型のオルゴールも作られるようになった。本号の写真に載る、裁縫箱、貯金箱、アルバムなどが組み込まれた品は、いつの時代かのどこの誰かが、プレゼントとして贈ったり、愛用品として使っていたものなのだろう。愛用品がその人の一部と化すように、オルゴールも人に付くような気がする。贈り物なら、愛する人にあてた贈る人の気持ちが込められているし、自ら選んで買ったのなら当然深い愛着が込められるからだ。だからこそ、再現演奏という役割を終えた今でも、贈り物や愛用品として使われ続けているのだろう。
現在は閉館してしまったが、かつて著者は「オルゴールの小さな博物館」というミュージアムを運営していた。実物の美しい作品や音をもう味わえないのは残念なことだが、オルゴールの音色自体は、
で試聴することができる。
36〜37ページには、江戸時代に作られたからくり人形にも触れられているが、このページでは、科博に収蔵されている「茶運び人形」などを見ることができる。江戸末期の「オルゴール付き枕時計」も掲載されている。