こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ぼくが見たハチ(第161号)

ハチといってまずなにが思い浮かぶだろうか?私が思い浮かぶのは、ミツバチやスズメバチ。益にせよ害にせよ人間と関わりが深い蜂だ。あとはベッコウバチ(クモバチ)くらいか。「たくさんのふしぎ」で読んだから(『すれちがいの生態学 キオビベッコウと小道の虫たち(第388号)』)。

『ぼくが見たハチ』は、ミツバチやスズメバチのようなメジャーどころだけでなく、生き方さまざまなハチが勢ぞろいしている。その生態たるや、めっぽう面白いドラマが目白押しだ。とくにすごいのが寄生バチや狩りバチの世界。面白すぎて『寄生バチと狩りバチの不思議な世界(webコンテンツ付き)』という本に手を出してしまったほどだ。

手始めに登場する「寄生バチ」は、テントウハラボソコマユバチ。こいつはテントウムシの成虫に卵を産み付ける。テントウムシの体内ではハチの卵がかえり、幼虫は体の中身を食べながら育っていく。やがて体を食い破って出てきた幼虫は、テントウムシの腹の下にもぐるような形で繭を作り、蛹になるのだ。調べてみると、驚くべきことに、こんな状態でなお生き続けるテントウムシもいるのだ。あまつさえ天敵に狙われやすい蛹のあいだ、ハチを守るボディーガード役まで果たすという。子供のエサにするだけでなく、護衛役まで買わせるとは、そこらの反社もびっくりの手口である。

寄生バチが卵を産みつけるのは、昆虫の成虫だけではない。昆虫のに産むやつもいれば、に産むやつ、幼虫に産みつけるのもいる。

わけが分からないのは、

アブラムシに卵をうむマダラアブラバチ(左の写真)。そうして寄生したアブラムシの中のアブラバチの幼虫に卵をうみつけるコバチ(下の写真)

というキャプション。え、誰が誰に寄生してんの?なになに何が起こってるわけ?マダラアブラバチはアブラムシの成虫に卵を産んで寄生させると(一次寄生)。コバチは、そのアブラムシの中で育っている「マダラアブラバチの幼虫」に卵を産みつけると(二次寄生)。なんでそんなややこしいことする?一次寄生されているアブラムシは丸く固まってミイラ状になるので、マミー(ミイラ)と呼ばれるそうな。そのマミーに産卵するのが二次寄生者であるコバチというわけだ。こわ。

寄生の対象は同種であるハチにも及ぶ。ミカドアリバチは、地中にあるマルハナバチの巣に潜入して、幼虫や蛹に卵を産みつける。地中にいるターゲットに翅など無用というわけか、ミカドアリバチのメスは、ハチのくせに翅さえ捨て去っている。

水生昆虫も寄生バチから逃れられない。その名もミズバチは、水に潜ってまでトビケラの巣を探りあて、巣の外から産卵管をさしこんで卵を産みつけるのだ。幼虫はトビケラの蛹を食べて成長し、巣の中に繭を作って蛹になる。寄生されたトビケラの巣からは、ひらひらとリボン状のものが飛び出ているが、これはミズバチの蛹が水中の酸素を取り入れるためのもの。たとえ水中でも、そこまでして寄生したいのか!

クモの巣といえば昆虫たちにとって恐ろしい罠だが、逆にその罠を利用してクモを誘い出す寄生バチもいる。コブクモヒメバチなんて細くて弱々しい外見のくせに、獲物と間違えたゴミグモがやってくるとすぐさま麻酔針を打ち込み、お腹に卵を産み付けてしまう。卵からかえり文字通りクモと一体化して張り付いた幼虫は、寄主がせっせとエサを食べ栄養をつけた体液を吸ってすくすく育っていく。“育ての親”を食べ尽くした幼虫は、これまた“育ての親”が作った巣の上で繭を作り成虫になるのだ。

みずから動くことのない植物など、絶好のターゲットだ。タマバチは植物に寄生し、虫こぶを作って卵を産みつける。しかし『虫こぶはひみつのかくれが? (たくさんのふしぎ傑作集)(第86号)』で書かれるとおり、虫こぶだって決して安全な隠れ家ではない。寄生バチがねらうのは虫こぶの中のハエだけでなく、このタマバチすらターゲットだ。ぬくぬく暮らすタマバチの幼虫に外からぶすり。体の上に卵を産みつけてしまう。

寄生バチの策士ぶりも恐ろしいが、狩りバチの機動力も震え上がるほどだ。

 キオビベッコウの攻撃法は、コブクモヒメバチとはちがい、力ずくだ。クモを見つけるとすぐにとびかかり、にげるクモを追いかけ、抵抗するクモをおさえつける。そして、すばやく正確な針さばきで、クモの足のはえぎわの急所をさして動けなくしてしまう。(本文より)

その後、地面に穴を掘って巣を作り、クモを運び込んで卵を産みつけ巣穴を塞ぐ。母バチからエサと安全な住処を提供された幼虫は、そこですこやかに育っていくというわけだ。キオビベッコウの生態については、前述の『すれちがいの生態学 キオビベッコウと小道の虫たち(第388号)』に詳しい。狩りバチの獲物も節操ないくらいバラエティに富んでいて、コモリグモ、アシダカグモなどクモの仲間はもちろんのこと、クサキリ、クダマキモドキ、カンタンにクルマバッタなどバッタ類、モリゴキブリやタイワンエンマコオロギなど、あらゆる虫たちがターゲットだ。もちろん好きな獲物は決まっているとはいえ、狙われないムシはないのだろうかと思うくらいだ。

エサと安全な住処。狩りバチはエサを狩る名手ばかりでなく、子供を守るためのシェルター、巣作りの名人としても名高い。しかし、そこは狩りバチ。

 ヒメベッコウの巣の中。エサのクモは、かさばらないように足を切りとる。

とかいうキャプションには、クモ嫌いの私でもヒーっと悲鳴を上げたくなってくる。

スズメバチも狩りバチの一種だ。獲物をとらえる彼らの武器は、人をもぶっ刺す毒針ではなく、意外にも頑丈な大あごの方だ。虫やクモを噛み殺して肉団子に加工し、巣に持ち帰る。アシダカバチもスズメバチと同じく集団生活をする狩りバチだ。しかしこんなアシダカバチすら、スズメバチにとってはただの獲物にしか過ぎないのだ。

寄生バチや狩りバチの面白さは、ご存知の人にとってはなにを今さらなことだろう。ハチ初心者の私にとって『ぼくが見たハチ』は、その面白さを知るかっこうの入門書となった。この後いきなり前述の『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』を読もうとしたところ、ほとんどちんぷんかんぷん。『ハチのくらし大研究』という児童向け解説書を参考にしつつ、まずは『ぼくが見たハチ』の内容をまとめてみることにした。

ページ

仲間わけ

幼虫の食性

ハチ

メモ

2

ハバチ

植物の葉

ルリチュウレンジバチ

 

3

ハバチ

 

アケビコンボウハバチ

 

3

ハバチ

肉食

ウスモンヒラタハバチ

 

3

ハバチ

 

シダハバチ

 

3

ハバチ

 

ニホンチュウレンバチ

 

3

ハバチ

 

ハグロハバチ

 

6

ハナバチ

花粉・花蜜食

オオハキリバチ

松脂で巣

7

ハナバチ

 

ハラアカハキリバチヤドリ

(ハラアカヤドリハキリバチ)

労働寄生蜂(オオハキリバチの巣を横取り)

8

ヤドリバチ

テントウムシ成虫

テントウハラボソコマユバチ

 

9

ヤドリバチ

イラガの繭

イラガセイボウ

 

9

ヤドリバチ

アゲハチョウの卵

キイロタマゴバチ

キアゲハ

9

ヤドリバチ

カメムシの卵

クロタマゴバチ

 

9

ヤドリバチ

ヒラタアブ幼虫

ヤドリタマバチ

 

10

ヤドリバチ

カミキリムシ、タマムシの幼虫

オナガメバチ

 

10

ヤドリバチ

オオスカシバの幼虫

クロハラヒメバチ

 

10

ヤドリバチ

セスジウンカ

トビイロカマバチ

 

11

ヤドリバチ

アブラムシの体内にいるマダラアブラバチ(一次寄生蜂)の終齢幼虫または蛹(二次寄生)

コバチ

被寄生アブラムシはマミー(ミイラ)

11

ヤドリバチ

クリオオアブラムシ成虫

マダラアブラバチ

 

11

ヤドリバチ

マルハナバチ類の幼虫、蛹

ミカドアリバチ

メスは無翅

13

ヤドリバチ

トビケラの幼虫あるいは前蛹、成虫

ミズバチ

最終齢のミズバチは酸素の供給を確保するために、白旗様のひらひらしたものを出して、水中の酸素をえる。

14

ヤドリバチ

ゴミグモ成虫

コブクモヒメバチ

 

15

ヤドリバチ

 

クヌギイガタマバチ

 

15

ヤドリバチ

 

クリタマバチ

 

15

ヤドリバチ

 

ノイバラタマバチ

世代交番

16

ヤドリバチ

 

クヌギハナワタタマバチ

コバチ類が二次寄生

19

カリバチ

ナガコガネグモ

キオビベッコウ

 

20

カリバチ

クサキリ、クビキリギス

クロアナバチ

 

21

カリバチ

クダマキモドキ

キンモウアナバチ

 

21

カリバチ

コモリグモ

ジガバチモドキ

 

21

カリバチ

アシダカグモ

ツマアカベッコウ

 

21

カリバチ

オオウンモンクチバ

フジジガバチ

 

22

カリバチ

ケラ

アカオビケラバチ

 

22

カリバチ

クワキジラミ

キジラミチビアナバチ

 

22

カリバチ

タイワンエンマコオロギ

キンイロコオロギバチ

 

22

カリバチ

カンタン

コクロアナバチ

 

22

カリバチ

ハエ類

トゲムネアナバチ

 

22

カリバチ

クルマバッタ

ハラアカアナバチ

 

23

カリバチ

コモリグモ

アメリカジガバチ

 

23

カリバチ

 

オオモンクロベッコウ

 

23

カリバチ

コハナバチ類

ツチスガリ

 

23

カリバチ

ヨコバイ

ツヤドロバチモドキ

 

23

カリバチ

モリゴキブリ幼虫

ミツバセナガアナバチ

 

24

カリバチ

カツオブシムシ

キアシアリガタバチ

 

26

カリバチ

 

サムライトックリバチ

土をこねて巣作り

28

カリバチ

 

ヒメベッコウ

石の上、葉っぱの裏

29

カリバチ

 

オオカバジフスジドロバチ

入り口に煙突

29

カリバチ

 

オオフタオビドロバチ

泥で蓋

29

カリバチ

 

キゴシジガバチ

瓶状の巣

29

カリバチ

 

コクロアナバチ

藁で蓋

29

カリバチ

 

ルリジガバチ

鳥のフンの石灰質で蓋

31

カリバチ

 

キボシアシナガバチ

集団生活

31

カリバチ

 

アシナガバチ

集団生活

31

カリバチ

 

ヒメホソアシナガバチ

集団生活

32

カリバチ

コフキコガネアシナガバチ、ミツバチ、カマキリなど

オオスズメバチ

集団生活

33

カリバチ

 

コガタスズメバチ

集団生活

33

カリバチ

フタモンアシナガバチ

ヒメスズメバチ

集団生活

36

ハナバチ

ウツギ

ウツギヒメハナバチ

 

37

ハナバチ

 

クマバチ

 

38

ハナバチ

 

アカガネコハナバチ

 

38

ハナバチ

 

コハナバチ

 

38

ハナバチ

 

トラマルハナバチ

 

38

ハナバチ

 

ニッポンヒゲナガハナバチ

 

39

ハナバチ

 

アシブトミツバチモドキ

 

39

ハナバチ

 

マメコバチ

 

39

ハナバチ

 

ミツバチ

 

39

ハナバチ

 

ヤマトツヤハナバチ

 
寄生バチと狩りバチの不思議な世界(webコンテンツ付き)

寄生バチと狩りバチの不思議な世界(webコンテンツ付き)

  • 発売日: 2020/06/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー) 

とりあえず『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』を読了したが、正直なところすべて理解できたわけではない。しかし、難しさを差し引いても、寄生バチと狩りバチの魅力が存分に伝わる素晴らしい本だ。カラー写真や、参考動画などwebコンテンツで余すところなく見られるのもうれしい。

私のようなビギナーは「プロローグ ある寄生バチのひとり語り」の解読はすっ飛ばして、「第1章 ハチの誕生と進化:産卵管と大あごの名手」に入る方がいいかもしれない。とはいえ、基本的な項目を読み解くだけで、ちょっとした時間を要してしまった。

まずは昆虫の分類の話。昆虫には30以上の「目」と呼ばれるグループがあるが、代表的な「5大目」はとりわけ種数が多い。すなわち、

  • 半翅目 - セミカメムシ、アブラムシ
  • 鞘翅目 - コウチュウ
  • 双翅目 - ハエ・カ・アブ
  • 鱗翅目 - チョウ、ガ
  • 膜翅目 - ハチ、アリ

の五つだ*1。ハチが所属する「膜翅目」は約15万の種がいる巨大グループで、全昆虫の約16%を占めている。うちの子が愛する鳥類はざっと9000種ということだから、いかに多種多様なのかがわかるだろう。そのうちなんと3/4が「寄生バチ」と「狩りバチ」なのだ。

膜翅目には、他の昆虫にはあまり見られない「新しい特徴」と、多くの昆虫が退化させてしまった「原始的な特徴」があるのだという。

「新しい特徴」とは、

  • 機能上の二枚翅(前翅と後翅はスライド構造によって連結)
  • 単数二倍体性の性決定様式(単数体はオス、二倍体はメスになる)

「原始的な特徴」とは、

  • 長くて丈夫な産卵管
  • 丈夫な大あご

だ。単数二倍体性。ハチのオスメスは、受精卵か未受精卵かによって決まるのだという。受精卵は二倍体でメスに、未受精卵は単数体でオスになる。このシステムのおかげでハチはオスメスの“産み分け”をすることができるのだ。人間だって自然では叶わないことなのに、驚くべき生態である。

産卵管」と「大あご」。多くの昆虫が放棄した古道具をフル活用しているのがハチたちだ。産卵管は、文字通り産卵に使うだけではなく、産卵場所に穴を空けたり、毒を注入したり、攻守の武器にもなる。大あごも、ほかの昆虫みたいに食べるためだけでなく、人間の手なみの万能ぶりを発揮する。

 

ハチの仲間の始まりは、スズメバチのような肉食系ではなく、ベジタリアン(植物食者)のハチ。現在も「ハバチ」の仲間が知られている。ヒラタハバチ始めハバチの仲間は、のこぎり状の産卵管を使って植物組織に切れ目を入れ卵を産みこむ。幼虫は植物の葉っぱを食べて育ち、蛹になるときに地面に落下、天敵の少ない土中にもぐる。羽化した成虫は、大あごを使って土をかき分けながら地表に現れるのだ。

『ぼくが見たハチ』でも、

ルリチュウレンジバチは、のこぎりのような刃のついた産卵管で、ツツジの葉のふちに切りこみを入れ、その中に卵をうんでいく。(『ぼくが見たハチ』本文より)

と紹介されている。

 

いつもみたいに植物を食べてたハチの幼虫が、でくわしたムシの幼虫にたまたまかじりついた。「寄生バチ」は、そんな小さなことから発生したのかもしれない。葉っぱ(植物組織)に比べりゃ、お肉(昆虫の幼虫)は栄養たっぷり。おまけに植物のなかに卵を産みつけるために、産卵管の付け根にはいろいろな成分を出す分泌腺が備わっている。植物の抵抗を封じ込める分泌物ができるなら、昆虫を麻痺させる毒液だって作れるはず。こうして「寄生バチ」への進化が起こったのではないかということなのだ。

「寄生バチ」として進化したハチは、体型もバージョンアップする。ハチ特有の「くびれ」ができたのだ(細腰亜目)。動かない植物に対し、動き回るターゲットに麻酔針(産卵管)を打ち込むには、細かいコントロールが重要だ。ちなみに、バージョンアップ前のベジタリアンたちは、寸胴体型でまったくハチらしくない外見をしている(広腰亜目)。

 

「寄生」と言っても、寄生した寄主をほぼ必ず殺してしまう寄生バチは「捕食寄生者」と呼ばれている。「捕食寄生」の中でも、産卵時に永久麻酔で殺す「殺傷寄生者」と、産卵後も行動や発育を許す「飼い殺し寄生者」に分かれている。

最初の寄生バチは「殺傷寄生者」だったと考えられている。ウマノオバチは、木の中にひそむカミキリムシの幼虫または蛹に産卵する殺傷寄生バチ。めちゃくちゃ長い産卵管を絶妙にコントロールして木の中の幼虫を探り当てる。木の中に潜むカミキリムシの幼虫は、ハチの幼虫にとって安全なシェルターだ。成虫になったハチは、大あごを駆使して木の中から脱出をはかる。

「殺傷寄生者」の寄主は麻酔で動けない。だから植物組織の中など、天敵に見つかりにくい安全な場所にいるものに限られてくる。シェルターは植物じゃなくたって、卵の殻だっていいじゃん?と考えたのかどうか、昆虫の卵を利用するものがあらわれてきた。でも卵ちっちゃ過ぎる。ベビーに栄養足りないなあ……そうだ、自分もちっちゃくなればいいんだ!こうして卵を使う寄生バチたちは、先を争うように身体を小さく進化させていったという。ちっちゃいチャタテムシの、これまたちっちゃい卵に産みつける、コバチ類の体長はなんと0.2mm以下だ。

卵寄生バチは、バッタやカマキリ、ナナフシ、さらにはトンボやアメンボ(図10)など、あらゆる昆虫の卵に寄生している。水中を泳いで産卵したり、寄主の成虫にしがみ付いて産卵場所まで便乗したりと、小さな体をフルに活かしている。(『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』25ページより)

水中にあろうがどこにいようが、使えるものはなんでも使う。激烈な生存競争をたたかうハチたちの、繁殖にかける執念のようなものを感じさせる。

 

動かないものに寄生するのもいいんだけど、シェルターに守られてるのしか使えないしなあ。生かして動かしといて天敵を追い払わせたら楽じゃね?「飼い殺し寄生者」になれば、ベビーはなかでゆっくり成長すればいいし、卵のサイズちっちゃくしたら、たくさん産めるじゃん?だが、動き回る寄主に近づいて麻酔をうち、安全に産卵するためには、高い認知能力と運動能力が必要だ。生きた体内に寄生するには、免疫系を無力化する必要も出てくる。

寄主の体内でぬくぬくと育っている間はいい。そこから脱出する時、繭を作り終えるまでがいちばん危険な時間となる。天敵たちが手ぐすね引いて待ち構えているからだ。そこで、寄主幼虫が繭を作り終えてから内部に脱出したり、天敵のアリが近づけないよう糸を吐いて空中で繭を作ったり、前述したマミー(ミイラ)の内部で蛹化したりと、工夫を凝らしている。上記『ぼくが見たハチ』で紹介したテントウハラボソコマユバチのように、寄主をボディガードとして使うのも戦略の一つだ。

幼虫じゃなくて寄主が卵のうちに産んじゃえば楽だよね⭐︎産卵管もぶっ刺しやすいし♡とばかり、コマユバチの一種などは、母ゾウムシの体内ごしに長い産卵管を挿入して、ゾウムシの卵に自分の卵を産み付けてしまう。「コマユバチの卵入りのゾウムシの卵」は、母ゾウムシが産んでくれたドングリシェルターの中で「コマユバチ入りの幼虫」となる。健全な幼虫と同じくどんぐりから脱出した後は土に潜って冬を越す。しかしそこから羽化するのはコマユバチの成虫というわけだ。

 

寄主が生きて好き勝手動きまわってくれるのはメリットもあるけど、デメリットもある。生きてれば脱皮もするし、外に寄生してたら脱落する危険もある。母バチが匂いで寄主を見つけられるなら、同じように見つけちゃう奴らもいるはずだ。だったら安全なシェルター、自分で作ればいいじゃん。そう考えたのが「狩りバチ」だ。

強力な毒針で麻酔した獲物を、シェルターである「巣」に運び込んで幼虫に食べさせるというユニークなやり方によって、狩りバチは餌メニューをいっきに増やした。チョウやガの幼虫はもちろん、ゴキブリ(図18)、バッタ、コオロギ、ハムシ、ハエ、クモなど、自由に動き回るあらゆる節足動物が狩りの対象になっている。(『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』34ページより)

餌メニューも豊富なら、シェルター作りの工夫もバラエティに富んでいる。植物の茎のような自然のあなを利用するもの、土や枯れ木にあなを掘るもの、さらには土や小石、植物繊維などを集めて巣を作るものまでいる。寄生バチの大あごは、成虫が外界に脱出するための道具に過ぎなかったが、狩りバチの大あごは、獲物を運んだり*2、巣材を集めたり、巣作りしたりと、マルチにはたらく器官へと変化することになった。

しかし!狩りをするのも一苦労。逃げられたり反撃されたり。もっと集めやすいのないかな〜花の蜜とか花粉なんかいいじゃない?とばかり、植物食に切り替えたのがハナバチだ。もともとベジタリアンだったハチがまたベジタリアンに回帰するとは面白い話である。エサこそ植物に切り替わったものの、もともと狩りバチだった名残で、植物の茎を活用したり、地中に巣穴を作ったりと狩りバチと同じような巣作りをしている。

 

最初の方でハチはオスメスの産み分けができると紹介した。ヒトの性別はXYの組み合わせで決まるが、ハチの性別を決めるのは染色体のセットの数。染色体が1セット(単数体)ならオスに、2セットなら(二倍体)はメスになる。メスは減数分裂をへて単数体の卵子をつくり、オスはそのまま単数体の精子をつくる。未受精のまま単数体の卵が産まれたらオスに、オスの精子と受精して産まれた二倍体はメスに育つ。つまりオスが生まれるのに父親は不要というわけだ。交尾したメスは精子を体内に貯めておくことができるので、産卵時に精子をかけるかかけないかで、オスメスの産み分けをすることができる。すごい仕組みだ*3

なぜ産み分けが必要なのか*4?たとえば殺傷寄生バチの子が大きくなれるかどうかは、寄主の大きさ(エサの量)によって決まってしまう。大きな寄主にはメス、小さなものにはオスと産み分けする方が都合がいいのだ。「第7章 ハチの性と生殖を操作する:細胞内共生微生物」には、ボルバキアのような共生微生物も絡んで、一筋縄ではいかない性決定の仕組みが書かれているが、ひょっとして人間にも…?という空想にはちょっと背筋が寒くなった。 

第2章 小さなハチの華麗な世界:マイクロハイメノプテラ」では、もっと複雑な産み分け法が紹介されている。きれいに並んだ14個のカメムシの卵に、メス13:オス1の割合で産みつける(チャバネクロタマゴバチ)のはまだ単純な方。コナジラミ幼虫にはメス、蛾の卵にはオスと寄主を変えて産み分けるものもいる(ポーターツヤコバチ)。“マツヤマツヤコバチ”と呼ばれるCoccophagus matsuyamensisなどは、寄主カタカイガラムシの体表にはオス卵、体内にはメス卵と場所を変えて産みわけたりもする。寄主体内という厳しい環境で育つメスのベビーに同情したのか、この章を書いた筆者は、

同じ種でありながら、性別によって幼虫期の呼吸方法が違うのはとんでもないことだ。正直に言ってまったく理解できない。

なんて心情を吐露している。

 

『ぼくが見たハチ』のところで、虫こぶの中のタマバチを狙う寄生バチもいると書いたが、「第3章 虫こぶをつくる寄生バチ:植物食への回帰」には、ちょっと変わった刺客の話が出てくる。なんと同じタマバチ科のタマバチだ。ひとの作った虫こぶにちゃっかり卵を産んで居候を決め込む「イソウロウタマバチ」と呼ばれるグループだ。なかよく同居…なんていくはずもなく、どうなるのかは本書を読んで確認してみて欲しい。

同じく『ぼくが見たハチ』に出てきたミズバチも「第4章 アリとトビケラ:ヒメバチがたどり着いた究極の寄主」で紹介されている。成虫となったミズバチはどうやって水中を脱出するのか、どうやってメスは水中のトビケラの巣を探り当てるのか、水中に適しているとも思えないハチの身体にこんな仕組みがあるとは驚くばかりだ。

『ぼくが見たハチ』では、コブクモヒメバチの生態が書かれていたが、さらに詳しく解説したのが「第5章 クモヒメバチ:獰猛な捕食者を巧みに利用するスペシャリスト」だ。寄生バチの寄生様式は「殺傷寄生」「飼い殺し寄生」があると紹介したが、さらに寄生する部位によって「外部寄生(寄主の体表に付着して寄生)「内部寄生(寄主の体内に入って寄生)とに分かれている(寄生バチ - Wikipedia)。ふつう、クモヒメバチのような「飼い殺し寄生者」は、内部寄生が多いのだが、クモヒメバチ外部寄生型をとるのだ。動き回るクモの体表にどうやってくっついているのか、クモが死んでしまった後どういう安全法をとって蛹になるのか、まあホント筆者が書くように「進化の妙に感動すると共に、少し恐ろしくもなってしまう」と感想を抱くこと請け合いである。

第13章 クモを狩るハチたち:原始的社会性の進化的起源」には、

石の上で獲物を運んでいるメス。クモの歩脚を切断し、仰向けにしたクモにまたがり、その出糸突起を大あごでくわえて前進運搬する。

というキャプションの写真が出てくるが、『ぼくが見たハチ』の「かさばらないように足を切りとる」と同じだよ……。ヒメクモバチのなかまの写真なのだそうだ。ヒメクモバチ?「第5章」のはなんだった?クモヒメバチ・・・・・・。ハチの名前はヒメだのクモだのヒメだのつくものが多くてややこしい。筆者がまた、このハチ(キマダラズアカクモバチ)に“秩父の姫様”なんてあだ名を付けるもんだからますますややこしいじゃないですか。『すれちがいの生態学 キオビベッコウと小道の虫たち(第388号)』で見られたように、ここでも女同士の熱くて複雑な闘いが繰り広げられている。

 

第6章 内部寄生の謎:危険な体内環境を支配する」では、アワヨトウ幼虫からカリヤサムライコマユバチ幼虫が100匹以上脱出してくるシーンの舞台裏が解説されている。100匹以上とは!上で書いた「ベビーはなかでゆっくり成長すればいいし、卵のサイズちっちゃくしたら、たくさん産めるじゃん?」ってつまりはこういうこと?webコンテンツでは、ヨトウ幼虫の体表からうじゃうじゃ湧き出るコマユバチ幼虫のおぞましい写真がカラーで見られるが、なかなかのホラーである。脱出時にアワヨトウ幼虫の体内で起こるシステムもやっぱりホラーだ。

カリヤサムライコマユバチはたくさん卵を産みつけてベビーを作っていたが、「第8章 兵隊をもつ寄生バチ:真社会性の進化と分子擬態」では、1個の卵から2000〜3000の個体ができることもある「多胚性寄生バチ」の話が出てくる(キンウワバトビコバチ)。2000〜3000の個体とやらはみ〜んな同じ遺伝子セットをもつクローンで、み〜んな1つの寄主のなかで暮らしている。しかし、成長の過程でふつうの幼虫と「奇形の幼虫」とに分かれてしまうのだ。この「奇形の幼虫」がどんなはたらきをするのか、それは読んでのお楽しみである。

 

三角関係がおもしろいのは人間の世界だけではない。寄生バチの世界でも興味深いドラマが繰り広げられている。キャベツの葉っぱモンシロチョウの幼虫に食べられると、化学物質を出して寄生バチ(アオムシサムライコマユバチ)を引き寄せ、アオムシを退治してもらうのは知られている話だ。同じような関係は、トウモロコシの葉アワヨトウ幼虫カリヤサムライコマユバチでもみられる*5第9章 キノコとキバチと寄生バチ:枯れ木をめぐる奇妙な三者」ではさらに進んで、樹木、キバチ、共生菌、寄生バチと、四角関係ともいえる関わりを見ることができる。キバチとキノコ(共生菌)は相思相愛だけど、共生菌はキバチの敵である寄生バチも引き寄せてしまうというなんとも複雑な関係なのだ。最後はキバチが“独脚蜂”とも表される理由、そして母キバチの死にざまについての推論が語られているが、ちょっとした哀愁を感じさせる話である。「第10章 シイタケを守る:ハエヒメバチの多様性と生態」で、描かれるのも三角関係。今度の役者はキノコキノコバエ寄生バチ(ハエヒメバチ)だ。いや、もう一人登場人物がいる。それは人間だ。シイタケ栽培の害虫駆除に寄生バチを利用しようというのだから、利害関係にばっちりからむ四角関係だ。

 

第11章 剣をもった寄生バチ:狩りバチへの進化」でようやくお目見えするのが、スズメバチ、ミツバチ。彼らは「人を刺す」ことで怖がられているが、それは産卵管に原因がある。彼らの産卵管にもはや卵を産む機能はない。卵は別の場所から産み落とされ、かつて産卵管だったものは毒針という身を守るための武器に変わってしまったのだ。とはいえ、この章で主役をつとめるのは、スズメバチ、ミツバチのような筆者曰く“花形役者”ではない。カマバチという体長5mm未満の小さなハチだ。有剣類のハチのほとんどが殺傷寄生なのに対し、カマバチは飼い殺し寄生をとるめずらしい寄生バチだ。ウンカやヨコバイといった稲の害虫に寄生する。寄生先にウンカ・ヨコバイ類を選んだことで、カマバチにどんな運命が待ち受けているのか、私たちと同じ転勤ガチャを見ているようでなかなかに切ない。

 

第12章 竹筒のなかの小宇宙:営巣トラップに集う生き物たち」で見られるのは、「管住性ハチ」と呼ばれるグループが繰り広げるドラマだ。舞台づくりはいたって簡単。

竹筒トラップは製作が簡単で、設置や回収にもそれほど手間がかからない。なにしろヨシや竹筒を束ねてどこかにしばりつけておけば、勝手にハチが巣を作ってくれる。あとは時期を見計らってトラップを回収すればよい。巣内の幼虫や蛹を羽化させてハチを同定するまでにはそれなりの手間と修練を要するものの、営巣するハチの個体数や種構成が環境によってどのように異なるか、つまりは昆虫と環境との関係を知るモニタリング法としてもってこいといえよう。(『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』245ページより)

というものだ。好蟻性生物という、アリの作る環境を利用しまくる生きものたちがいるが、「管住性ハチ」が作り出す環境も負けず劣らずいろいろな生きものを引き寄せている。本当まあ、

さてこのトラップ、営巣にやってくるハチばかりでなく、そのハチを利用(搾取)しようとする有象無象の生物たちをもひきつける。「捕食寄生者」「労働寄生者」「寄生者」「居候」といった連中である。巣というものはハチが子どもを安全に育てるために用意する一種のシェルターだが、このシェルターは、しかし、うまく忍び込むことさえできれば、侵入した側にとっても良質な住居となってしまう。(『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』245ページより)

という記述そのままの世界が展開されている。これで「たくさんのふしぎ」一冊書いてもらいたいくらいだ。40ページではおさまらないかもしれないが……。『ぼくが見たハチ』でも竹筒トラップで観察したハチ(オオハキリバチ)と、その労働寄生者(ハラアカハキリバチヤドリ)が紹介されている。

 

最終章「第14章 ハチの採集と同定:多様性を正しく理解するためのメソッド」では、寄生バチを中心にハチの採集や標本作製、同定のための基本的な技術が紹介されている。野鳥を探すにも樹木を目印にしたりするけれど、寄生バチはやはり寄主を探すのが近道だ。ハバチは植物、狩りバチやハナバチは巣やおとずれる花、ということになる。

以前、大学でおこなわれたイベントに行ったとき、参加者の親子がイベント後、構内でスズメバチを捕まえているのを見たことがある。ハチが好きで標本を作っているらしく、薬物入りの瓶にうまく誘導し捕獲していた。このような愛好家の標本も、新たな研究や教育につながることが期待される重要な資料となるという。保管が難しくなるようなら、博物館などの公的機関への標本収蔵をお願いしたいと呼びかけられている。筆者が所属する神奈川県立生命の星・地球博物館には「寄生バチ標本コレクション」があるようだ。

学芸員の渡辺が寄生バチについてハチの本に分担執筆しました | 神奈川県立 生命の星・地球博物館

こうしてまた「プロローグ ある寄生バチのひとり語り」に戻ってみると、最初はなにがなんだかわからなかったハチの「ひとり語り」が、ああそういうことかとクリアに見えてくる。しかし、ハチの世界の主役って圧倒的にメスなんだなあ……。

 

『ぼくが見たハチ』で見たハチの生きざまに、最初は面白いけどエゲツないなーと思っていた。エゲツないハチの生きざまは、生存と繁殖という、生きものにとっての生命線をかけたものだ。ハチを利用する人間たち、ハチの生態を調べるためにいろいろな実験を繰り出し、切断したり標本に仕立てたりする人間の方が、彼らにとってはよほどエゲツない存在かもしれない。

他に読んだ本。

この本で扱う「三角関係」は、トウモロコシの葉ーアワヨトウ幼虫ーカリヤサムライコマユバチにとどまらない。「第7章 ハチの性と生殖を操作する:細胞内共生微生物」で書かれるような、アワヨトウ体内で起こる、寄生バチと共生ウイルスとの「三角関係」も描かれている。

「第5章 クモヒメバチ:獰猛な捕食者を巧みに利用するスペシャリスト」の筆者による本。クモヒメバチの研究に欠かせないのがクモの飼育。エサあつめに窮した著者は、なんと藪に入って蚊に刺され、みずからの血を吸わせた蚊を提供するのだ。なんという研究者根性だろうか。「血を摂取したクモの状態はすこぶる良くなり、ハチの成長も劇的に早くなるように感じられる」そうだ。デング熱騒動の時は大丈夫だったのだろうか。

*1:5大目のうち「半翅目」以外は、完全変態という生活スタイルを持つ。

*2:自力では運びきれない大物を使うエメラルドゴキブリバチみたいなのもいる。運べないならどうするか?自分の足で巣まで歩かせればいいのである!

*3:われわれ哺乳類の方がマイナーらしいのだが。動物の“処女懐胎”、なぜできる? ヒトではなぜ無理なのか | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

*4:『ハチのくらし大研究』によると、タマバチの仲間(虫こぶを作る)には、オスとメスがいる世代(両性世代)と、メスだけがいる世代(単性世代)を交互に繰り返す、世代交番という仕組みもある。同じ種であっても、両性世代と単性世代では、成虫の姿や虫こぶの形、虫こぶが作られる部位に至るまで、まるで別種かのように大きく異なるようだ。

*5:寄生バチをめぐる「三角関係」 (講談社選書メチエ)』に詳しく書かれている。