こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

トナカイに生かされて シベリアの遊牧民ネネツ(第428号)

表紙は、群れるトナカイに一人の少女。青いスカーフと赤いほっぺは、マトリョーシカ人形のようだ。一頭を抱きしめる少女は、皮製の伝統衣装を身につけ、トナカイに溶けこんでいる。袖に覗くのは下に着る洋服の赤。鮮やかすぎない色がいいアクセントだ。

カリブーをさがす旅(第347号)』 でトナカイは狩りの対象だった。シベリアはヤマル・ネネツ自治区で暮らすネネツの人びとにとって、トナカイは大事な家畜、家族だ。

トナカイは「馴鹿」ともいわれるように、人馴れし家畜化しやすい動物だ。家畜化しやすい反面、野生にもどりやすい生きものでもあるらしい。マイナス70度を耐え抜き、自力でエサも取れるトナカイは、人間の手などなくても生きていけるのだ。人間に管理されることもいとわなければ、自力で生き抜く力も持っている。なんて強かな動物だろうか。

 ネネツは、耳の切りこみや標識、角の形、体型、顔などで自分のトナカイを見わける。毎日、トナカイを群れで走らせ、ロープ内にかこいこみ、そこからソリを引かせるトナカイを引っぱり出す。どうしてそれを毎日つづけるのかとたずねると、「家畜であることを忘れさせないため」と教えてくれた。この作業はトナカイを野生にもどさないために必要なのだ。

トナカイ - Wikipediaからたどって見た先には、ハンティによる、魚を使った面白い管理法も紹介されていた。

第八回: トナカイが魚を食べる!? | シベリアの大地で暮らす人々に魅せられて―文化人類学のフィールドワークから―(大石 侑香) | 三省堂 ことばのコラム

「塩分やたんぱく質の貴重な供給源となるためか、与えられると大喜びで食べる」と書かれている。(参照:トナカイは魚がお好き :日本経済新聞)。

本号にも、冬、エサ不足のためにキャンプへやってきて、人の食べ物をねだる様子がある。

塩分も不足気味なので、塩には群がってきて、塊をぼりぼりとむさぼるように食べる。ぼくが用足しに森に入っても、何頭もついてきて、塩分欲しさにオシッコがしみた雪ごと食べるのには驚いた。

子供は、ほっとくと野生にもどっちゃうんだね〜とか、げ〜オシッコ食べるのーとか、驚いたり感心したりしながら読んでいた。

野生にもどってもらっては困る……本文には、

ネネツの生活のすべてはトナカイにささえられている。

という一文があるが、本当にトナカイなしでは一日たりとも回らない生活なのだ。トナカイで移動し、トナカイを食べ、トナカイを売る。なんと家畜であるはずのトナカイが、◯◯◯にもなってしまうのだ!◯◯◯に入る言葉は、本号を読んでのお楽しみ。さすがに『おしりをふく話 (たくさんのふしぎ傑作集)(第162号)』にトナカイは関わってこないが、何を使っておしりをふいているのかも、確認してみてほしい。

著者を迎えてくれたホストファミリーは、ローバ一家。

一家の主人ローバ(44歳)、妻ライヤ(34歳)、長男ダニエル(16歳)、次男ゴーグリ(9歳)、三男ゴーシャ(7歳)、表紙を飾る長女ダリヤ(5歳)、四男デニム(3歳)、セルゲイおじいちゃん(66歳)、ガルヤおばあちゃん(64歳)の大家族だ。みなロシア風の名前だが、シャーマン信仰による「諱(いみな)」があるのだという。

一家の生活は遊牧を主体としている。『ジプシーの少女と友だちになった(第119号)』 、『舟がぼくの家(第167号)』でも触れたが、移動生活者にとって問題となるのが「学校教育」だ。一家の子供たちも、6歳から15歳までは、300キロ離れた町の学校で寄宿生活を送っている。家に帰れるのは夏休みの三ヶ月だけだ。送迎はなんとヘリコプター。以前は子供と別れ難く隠してしまうこともあったそうだが、「生きていくにはロシア式の教育が必要」と我慢して送り出すようになったのだという。

『ジプシーの少女と友だちになった』では、ロマが集まるお祭りが紹介されていたが、ネネツにも人びとが一堂に会するお祭りがある。その名もトナカイ祭り(おそらく"The reindeer herders festival"と呼ばれる祭り)。レスリングや棒引きといったさまざまな競技で盛り上がる。メインはもちろんトナカイそりレースだ。

伝統生活一辺倒に見える暮らしにも、『カリブーをさがす旅』と同じく文明の利器が溶け込んでいる。冬の放牧には日本製スノーモービルが活躍するし、携帯電話もあれば、ノートパソコンだって使っている。彼らが住むヤマル・ネネツ自治区の「ヤマル」とは「地の果て」という意味だ。今のネネツは「地の果て」で生活しなくてとも、便利な都市部で生活することもできる。医師や弁護士、映画監督として生計を立てるネネツもいる。ツンドラで暮らすネネツは、みずからその生活を選んでいるのだ。ツンドラの生活が好きだから、家族といて幸せだから、「トナカイに生かされる」暮らしが好きだから、そこにいるのだ。本書を読むとそのことが存分に伝わってくる。 

シベリア北部では牛や豚の飼育が難しいため、トナカイ肉の人気は高く、町の住民も食べるのはトナカイ肉。ステーキやハムで食べたり、定番料理であるロシア餃子の具にも使われるからだ。

という文を見て、あ、これペリメニだよ!と叫んだのは子供。以前住んでいた東京で「ペリメニキッチン」という、ペリメニを専門に出すお店に行ったことがあるのだ。手作りのサワークリームを添えたペリメニは絶品。ミードなどめずらしいお酒も取り揃えてある。鴨や羊のはあったけど、トナカイはあるだろうか。トナカイのペリメニ食べてみたいなあ。食べ盛りの子供を連れて入るのはちょっと(お金が)キツいけれど……。もう一回行きたいねーと言っているうちに東北への引越しが決まってしまった。お近くの方はぜひ訪れてみてほしい。