こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ノイバラと虫たち (たくさんのふしぎ傑作集)(第123号)

ぼくが見たハチ(第161号)』と同じ、藤丸篤夫氏による「ふしぎ」。

舞台となるのはたったひと株のノイバラ。5月、たくさんの花を咲かせる時期に、小さないのちのドラマがいくつも繰り広げられる。

“いのちのドラマ”なんて書くと、ウェットな感じがしてしまうが、集りたかられ、やり殺られ、騙しだまされと、中身はほとんどエンタメだ。ひと株のノイバラで演じられる、ちょっとした群像劇。もっとも見てて楽しいのは人間だけだ。演じる虫たちは命がけ。だから“いのちのドラマ”としか言いようがないのだ。

ノイバラだっていのちの一つ。単なる舞台装置ではない。自分のいのち、花粉を運んでくれるハナバチたちは大歓迎だが、ハチはハチでもハバチたちは嫌われものだ。茎を切り裂いて卵を産みつけた挙句、幼虫どもが大事ないのち(葉っぱ)を食い荒らしてしまうのだから。

ん?どこかで聞いたような話…?そう本号には『ぼくが見たハチ』に劣らず、ハチがたくさん登場するのだ。『ぼくが見たハチ』では主人公だったハチも、『ノイバラと虫たち』劇場ではあくまで登場人物の一つ。

特におもしろいのは、アブラムシをめぐる一幕。アブラムシは、ハチと同じく単為生殖する生きものだが、アブラムシの場合、単為生殖でうむのはメスだけ(産雌性単為生殖)*1。しかも卵を胎内で孵化させてからうむ(卵胎生)。うまれるのは、いきなり幼虫!なのだ。恐ろしいことに、幼虫はすでに子を孕んでいる……。

じゃんじゃんうまれるアブラムシ。ノイバラの汁をちゅうちゅう吸ってすくすく育ってゆく。こんなごちそうを見逃す手があるだろうか。テントウムシクサカゲロウが、親子で(成虫も幼虫も)むさぼり食えば、ヒラタアブは子がアブラムシを食べ、親はノイバラの花粉を食べる。ノイバラに居とけば、食いっぱぐれないというわけだ。

寄生バチも狩りバチも、もちろん参戦中だ。クロアブラバチ(寄生バチ)がアブラムシに卵をうみつければ、ヒラタアブヤドリバチ(寄生バチ)は、ヒラタアブの幼虫に卵をうみ込む。コシボソアナバチ(狩りバチ)ときたら、アブラムシを大あごでくわえ上げ、飛びながら麻酔を打つ、という芸当までやってのける。1匹育てるのに、30〜40ものアブラムシが必要というのだから、こうでもしないとやってらんないのだろう。

セイボウ(寄生バチ)も卵をうみつけるが、真のターゲットはアブラムシではない。アブラバチと違ってセイボウは大きい。ちっこいアブラムシに寄生したところで、大事なベビーは育たないのだ。セイボウの真の狙いはなにか、それはぜひ本書を読んでみてほしい。「トロイの木馬」ともいえる作戦は、神話に負けず劣らずストラテジックだ。

一方のアブラムシ。やられっ放しで終わるタマではない。彼らのボディガードとして名高いのがアリ。ミツを報酬に、襲ってくる虫たちを追っ払ってくれる。ミツのおこぼれを狙って他の虫たちも集まってくる。ミツの出所はといえば、もともとノイバラの汁に含まれていた糖分だ。アブラムシを介して、みなノイバラの栄養をもらっているのだ。 

『ぼくが見たハチ』を読んで、寄生バチと狩りバチのことをじっくり調べたおかげで、非常に興味深く読むことができた。ぜんぜん知らなかったら、面白いねーすごいねーで終わってしまっていたかもしれない。ちょっとでも何かに詳しくなると、より面白く読めるし、見方も変わってくる。

38〜39ページは、秋山亜由子氏がイラストを描いている。ノイバラをバックに、本号に出てくるムシたちが勢揃いしたものだ。秋山氏が『お姫さま くもに会う(第175号)』を作った時には、逆に藤丸氏がクモバチの項目について協力したことが奥付に書かれている。

ノイバラと虫たち (たくさんのふしぎ傑作集)

ノイバラと虫たち (たくさんのふしぎ傑作集)

  • 作者:藤丸 篤夫
  • 発売日: 2000/02/15
  • メディア: 大型本

 

 

傑作集の表紙は月刊誌とは異なっている。月刊誌はそれぞれの虫がクローズアップされ、ノイバラの存在感はあまりない。デザインはこちらの方が好きだけど、メインをつとめるノイバラが虫の背景でしかないのはさびしい。傑作集はその辺を考えて、ノイバラの全景を出すことにしたのかもしれない。表紙を飾る虫たちは減ってしまったけれど。

*1:ハチの場合、単為生殖でうむのはオスだけ(産雄性単為生殖)。(『ぼくが見たハチ』参照)