こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

うれし たのし 江戸文様(第430号)

たまに、なかなか引っかかってこない「たくさんのふしぎ」がある。

私にとって『うれし たのし 江戸文様』は、そんな一冊だ。

そりゃまあ、すべてのことに興味をもてるわけじゃないんだから、当たり前のことだ。このブログでは「たくさんのふしぎ」のバックナンバーも取り上げているが、記事を書くバックナンバーは基本的に私が選んだものになる。だから、興味がうすいテーマのバックナンバーはなかなか登場しない。偏りがあるのだ。

その点、新刊は違う。

もちろん興味のないテーマなら書かないという選択もある。でも、できるだけ新刊を紹介したいのだ。実際に手にとってもらえるいちばんの機会だから。

しかしこの本、引っかからないというところが、逆に引っかかる。なんでピンとこないのか。一読してダメなら、もう一回読む。何度でも読み直す。

なんとなく見えてきたのは、いちばんの主人公である「江戸文様」が、目立たないからではないかということ。絵本のなかで、江戸文様があまり主張していないのだ。どちらかというと、江戸の人びとの暮らしぶりの方が前面にきている感じだ。

これこそが、筆者のねらいなのではないか。

つまり、江戸文様は、生活と密接に結びついているデザインだということだ。江戸の生活ぬきには、江戸文様を語ることはできない。生活とともにあり、人びとの暮らしのなかで作られたものだからだ。

江戸文様というと、なんとなく桜や菊、蝶や千鳥など、美しくかわいらしい、自然のものを題材にしているようなイメージを持っていた。もちろん、そういう文様もある。しかし、本書に紹介されるのは、そのようなものばかりではない。

 文様のなかには年中行事や日々の生活がもとになっているものがあります。そして、自然の美しさや力強さをあらわしたものもあり、文様から江戸時代のくらしぶりや風景が見えてきます。

かんなやのこぎりなど、大工道具をあしらった文様。釜と鍬を組み合わせた文様。年中行事、たとえばお正月や節句にまつわる文様。もちろん、花見やもみじ狩りといった季節の自然*1も、文様に取り入れられている。どれもこれも普段の生活のなかでこそ、生み出されるものだ。

とくに興味深いのは「おもしろ文様」の世界だ。え、これ文様にする!?というものから、縁起ものだけどよく見ないと意味がわからないもの、猿蟹合戦が題材なのにデザイン性高いなあという文様まで、遊びごころにあふれたものばかりだ。ぜひ本書でご覧いただきたい。

遊びごころといえば、「大根とおろし金」や「なす」、「南天」なども洒落を効かせた文様だ。江戸時代にしばしば発令された倹約令のなかでも、町人たちは知恵を絞り、工夫して文様を楽しんでいたという。

「作者のことば」には、こんなことが書かれている。

特に小紋染は少し離れてみると無地に見えますが近くに寄れば、その繊細さに驚き、文様の意味合いを楽しめます。文様に託された意味合いを知っていれば、お互いの趣味が一瞬のうちに通じ合います。この時代はそういった文様の意味合いを多くの人が共有していた時代でした。

「文様文化」は、実にハイコンテクスト文化といえる。だから、文様も主張するものではなく、さりげなくそこにあるものなのだ。この絵本自体がそのことをよく表している。表紙の「たくさんのふしぎ」ロゴにさりげなくちりばめられ、両見返し全面という目立たない場所にあしらわれている。江戸文様がメインではあるけれど、そっと忍ばせてあることこそが、主人公としての役割そのものなのだ。

私も、一つだけ江戸文様にかかわるものを作ったことがある。中学の家庭科で作った刺し子だ。白地の木綿布に、赤い糸で「麻の葉」を刺繍したことを覚えている。「麻は育つのが早いので、成長を願い、子どもの着ものによくつかわれました」と書かれているが、たぶん当時は刺し子の定番だからと選んだだけだったように思う。刺し子でも役割のメインはデザイン自体でなく、あくまで保温、補強などが目的だ。

著者オリジナルの文様をあしらった付録の一枚絵、「たくさんのふしぎ」をモチーフにしていることはわかるのだが、「ふしぎ」部分しか読み解けなかった。もうちょっと考えてみよう。

追記:文様の解読、ギブアップして「ふしぎ新聞」の“解答”を見た。そうきたか!私は一部の絵を「ヘビ」と見て、ヘビ=不死(ふし)という意味かなあと解釈したが、考えすぎたようだ。

*1:もちろん野鳥も対象となっている。とくに雁をモチーフにした「雁金」は江戸時代を代表するデザインと書かれているように、かつては東京でも季節を告げる風物詩だった。もっとも我が家のまわりでは現役だけど……。マガンだけでなく、狭義のカリガネシジュウカラガンハクガンなどガン類ウォッチングの天国だ。夕暮れの雁行は本当に風情がある。