こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

みんな知ってる? 会社のしごと(第431号)

出る前から思っていたのは、「たくさんのふしぎ」らしくない号だなあということ。

会社や仕事についての児童向け書籍など、世にうなるほどあるからだ。

極め付けは内容紹介の文。

子どものみなさん、よく聞いてください。あなたが学校にいる間、「会社で働く」とはどういうことなのかを丁寧に教えてもらえる機会はほぼないでしょう。しかしあなたが働こうとする時、あなたはすでに「社会のしくみ」や「会社」などについて、当然知っているものとして扱われます。でもこの本を読んでおけば、その時にオロオロしないですむかもしれません。みんな知ってる? 会社のしごと|福音館書店より)

でもこの本を読んでおけば、その時にオロオロしないですむかもしれません。

うーむ。「たくさんのふしぎ」ってそういう本だっけ?この本を読んでおけば、なんて類の本なら、他にいくらでもあるじゃないか。

切り口としては面白いところがある。

同じ業種の会社」を4社も比べるなんて、子供向けのおシゴト本ではなかなか見ない。

会社は違っても、文房具の世界を盛り上げたいという気持ちはどの会社も同じ。

会社どうしで協力して、一緒にキャンペーンを行ったりすることもある。

とか。 

素材や原料を作る会社」におけるB2Bという形態など、小学生には見えにくいものだろう。「仲をとりもつ会社」という仲間わけで解説するのも新しい視点だ。

そもそも「会社とは」とか「会社で働くには」という、大人にとっては一般的なことも、子供は初めて知ることかもしれない。「同じ職場で違う働き方」など、同じフロアに、社員(正社員)、派遣社員契約社員、業務委託、アルバイトが勢揃いするさまが描かれているのは、今どきだ。給与や待遇の違いなど、子供たちに想像できるだろうか?

君たちが先生と引っくるめて呼んでいる人たちも、校長や副校長というわかりやすくエラい人のほか、教諭のなかでも主幹や主任という職位があったりする。3年1組の担任は講師という身分で、お隣クラスの担任教諭とは給与も待遇も違っていたりするんだよ……。子供たちは預かり知らぬことだろうが(もちろん我が子にも伝えていない)。

まあ学校は会社ではないとはいえ、たとえば本書でも、会社のほかに働くことができる場所、「いろいろな働き方」の一つとして「先生〔公務員〕」が紹介されている。先生方にとって学校は「職場」であり、君たちを教えるのは「仕事」なのだということを、子供たちは知っているだろうか?先生方は、「同じ会社で働く人の一日」を描いた18ページにある、

ただし、働くことのできる時間は1日に8時間・1週間に40時間までと法律で決められていて、特別な取り決めがないとそれ以上長く働くことはできない。

というルールの対象外だということも。

 

学校にいる間、「会社で働く」とはどういうことなのかを丁寧に教えてもらえる機会はほぼない

とはいえ「会社を見に行く」機会は意外とある。家の子も地元の銀行に行って、札勘練習用模擬紙幣をお土産にもらったりしていた。自動車工場なども見学したことがある。中学に入れば職場体験学習で、「会社の仕事に触れる」経験があるだろう。もちろん、たった一日の見学や数日間の体験でわかることなんてたかが知れてるけれど。

家の子も「会社で働く」父親を持つが、どんなふうに働いているのか知る機会はほとんどなかった。東京にいたころ、夏休み職場見学会があって、名刺交換ごっこなどやっていたが、お遊びにしか過ぎない。

それが!今般の社会事情の変化で、リモートワークとやらが我が家にもやってきたのだ!春先は休校中、今は学校から帰ってきてから、父親がどんな感じで仕事しているのか、垣間見ることが多くなった。

Eテレピタゴラスイッチで、「ぼくのおとうさん」という曲があるが、

おとうさん おとうさん ぼくのおとうさん
かいしゃへ いくと かいしゃいん
しごとを するとき かちょうさん

という、会社員としての顔、課長さんとしての顔を、いながらにして見ることになってしまったわけだ。

おとうさん おとうさん
うちにかえると

「ただいまー」

ぼくのおとうさん♪

なはずなのに、家にいる父親は「ぼくのお父さん」の顔をしてないのだ。

リモートワークでなかったころ、子供に、お前の父はいま“所長さん”で、職場のなかでは一応“エラい人”ということになってるんだよ、と話したことがあるが、ウソだぁ〜そんなわけないじゃん!と、かたくなに信じようとしなかった。

家で仕事する父親は、自分と遊び呆けている時とは、まったく違う。黙々とパソコンに向かい、声色も口調も別人かのようにやりとりする様子に、少しは「会社員としての父」を実感することができたのではないだろうか。

このご時世、社会科見学や職場体験学習は軒並み中止、という学校も多いことだろう。代わりに、家にいながらにして「会社で働く親の姿」を見る子供たちが増えている。いい機会だなあと思う一方で、リラックスして過ごしたい場所に仕事の緊張感を持ち込まれるのは、鬱陶しいことだなあとも。職住接近している自営のお家など、親の仕事を見るなんて当たり前、仕事と生活が渾然一体となっていることを思えば、たまのリモートワークなど大したことはないのかもしれないが。

表紙見返しには「はじめに」ということで、こう書かれている。

この本は2019年の夏から秋にかけて取材した内容をもとに作られています。しかしみなさんもご存知のように、この年の冬ごろから世界的に大きな変化があり、日本でも新しい生活様式を取り入れようという流れが生まれました。それに伴い、働きかたも大きく変わりつつあります。もちろん、ここに登場する人たちの中にも、取材時とは少し違った働きかたになっている人もいます。みなさんが働くころには、もっと変わっているかもしれませんね。でも「仕事」の根っこの部分は、案外変わらないものなのかもしれません。

そういう意味でこの本は、「新しい生活様式」前夜、何も憂えることなく会社というハコに収まって仕事していた時、をまさに切り取ったものと言える。

ちょっと気にかかったのは「会社で働く人の服装と食事」のなかの、イベント関連の仕事をしている女性の話(24ページ)。

いつでもトラブルの対処ができるよう、きちんとした格好を心がけています。現場に行くこともあるので、かかとの低い靴が多いです。

の一方で「かかとの高い靴も会社に置いています」という文言も。なぜ、かかとの高い靴も置いているのか、それは「きちんとした格好」と関係あるものなのか。靴の話が出るのは男女取り混ぜて登場する8人中、彼女だけだ。昨今KuTooが取り沙汰されている中、イベント関連の仕事に「かかとの高い靴」がどう関係するのか、「仕事によって、ふさわしいとされる服装は違う」というなら、そこのところの説明も必要なのではないだろうか?