ウミショウブってなんだろう?初めて聞く名前だ。
それもそのはず、日本では沖縄県の西表島および石垣島と、その周囲海域でしか見られない植物なのだ。生息域は熱帯・亜熱帯の海、インド洋から太平洋西部。分布の北限が西表や石垣というのだから、滅多に見られるものではない。
ここは沖縄県の西表島。梅雨のあけた7月は、1年のなかで海と空がもっとも青く見えます。
ぼくはこの海岸で、ふしぎな光景を目にしました。
空の青に、海の碧、砂浜の白に、グンバイヒルガオの青。散りばめられた花のピンクがいいアクセントだ。行ってみたいな〜西表。
夏の沖縄。なんで季節はずれに、この記事?
もう、雪と寒さにうんざりしてきたのだ。おまけに今日はすごい地吹雪。洗濯物は干せないし、灯油はすぐになくなるし、車を出すのもひと苦労だし。アイスバーンの上に乾雪が付いたもんだから気付かずにすっ転んだし。もー!この寒波続き、当地で過ごしていた雁たちは、エサ摂れないわねぐらの水は凍るわで、南下して行ってしまった。居残り組の雁たちはかわいそうに、暴風雪のなかじっと耐え忍んでいる。
ああ、もうたくさんだ。南の島の、のんびりした写真で和みたい。
と思いきや。
お昼ごろ海岸へ行くと、海の色が白い絵の具をこぼしたようにそまっていました。
砂浜におりると、まるで海の上に雪がつもっているように見えます。西表島では真冬でも雪はふりません。
じゃあなんなのよーこの雪みたいのは。
これこそが「ウミショウブの花」なのだ。
ウミショウブには雄株と雌株があって、それぞれ雄花と雌花が咲く。雪みたいなのは雄花の方なのだ。雪みたいと書いたが、実際のところ発泡スチロールの屑が浮いているような感じらしい。ひとつ手に取ってみた様子は、ちっこい雪だるまみたいだ。さらに顕微鏡で見ると、ちっこい雪だるまの頭にいくつも花粉がついているのがわかる。
ウミショウブの花はいつでも見られるわけではない。海にかかわる花らしく、潮の満ち干のタイミングが関係するのだ。すなわち、初夏〜秋にかけての大潮の時、しかも干満の差がもっとも大きくなる時をねらって咲くというのだ。
なぜ大潮か。なぜ干満の差が必要なのか。
本書は、その一部始終を見せてくれる。
ウミショウブは海中に生える植物。本当の姿は海のなかにしかないのだ。
雄花が海中で生み出される様子。
雌花が開花するさま。
雄花が雌花と出逢う瞬間。
受粉が進んでいく様子。そして受粉を済ませた花たちが、水中で神秘的に輝くさま。
どれもこれも海に入らないと見られないドラマだ。
子どもたち(種)が旅立っていく様子もしみじみする。
この厳冬期、そして“ステイホーム”、じっと耐える毎日だ。そんななかで、生命のふしぎと輝きに触れ、じんわりあたたかくなった。
「作者のことば」によると、雌花と雄花がどう示しあわせランデブーするのか、まだわかっていないということ。
ウミショウブに関わる研究のため、西表では海中調査が続けられているようだ。
ウミショウブの調査|ダイビングブログ|遊びなーら | 西表島のダイビングサービス
しかし近年、西表島北西部の海域では群落の消失や衰退が見られるようになり、原因の一つとしてアオウミガメの食害が考えられている。
アオウミガメの摂餌がウミショウブの株に与える影響 -葉の切戻し実験と食痕藻場の経過観察による検証-
現に、網取湾にあったウミショウブは完全に消滅してしまったらしい。
アオウミガメ&ウミショウブの調査|ダイビングブログ|遊びなーら | 西表島のダイビングサービス
ウミショウブが、環境省レッドリスト2020で絶滅危惧II類(VU)なら、アオウミガメも絶滅危惧II類(VU)。もちろん、より危機に瀕している方を優先し、絶滅の心配がない生き物は蔑ろにしていいというわけではないのだが、それにしてもバランスが難しい課題ではないだろうか。
本号の監修にたずさわる木本行俊先生は、西表の小学校で、ウミショウブの観察学習にも協力されている。
西表で生まれる子供たちが、いつまでもウミショウブのふしぎに触れられるよう、なんとか良い保全の方法を考えられるといいのだが……。
- 作者:横塚眞己人
- 発売日: 2013/07/03
- メディア: 雑誌