こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

道 ーきみと出会いにー(第218号)

布クロスの上にかかるフォトフレーム。写真にうつるのは緑。木漏れ日が落ち込む地面には、道がついている。魁夷の《道》のように、画面の真ん中をつらぬいているが、様相はまるで違う。

飾り気のない表紙。あまりに簡素なため、フォトフレームの作る影さえ装飾の一部になる。裏表紙にはピンで留められた一枚の写真。こちらに写るのも雑木林のなかの道だ。

この表紙、このタイトルで、どんな本をイメージするだろうか?

私は、写真に詩のようなものをつけた本を想像していた。

しかし、表紙を開けると、そこには生きものに満ちた世界が広がっていたのだ。

 ぼくのすきな道がある。栃木県南那須町の南の一角、人家や畑があつまる村から、谷間の田んぼや丘の雑木林へと通じる、いく筋かの道。 

最初のページは、表紙の写真そのものの風景が広がっている。小さなフォトフレームから、一気に外の世界へと連れ出してくれる。

田んぼまわりをいろどる花々、花にあつまる虫たち……生きものの営みを写しとっているにもかかわらず、静かに見えるのがふしぎだ。『どこでも花が……(第259号)』も、同じような野の花を撮っているが、こちらは動きを感じられていた。シマヘビのこどもがシュレーゲルアオガエルを飲みこもうとする写真があったり、ハンミョウがオタマジャクシをくわえている写真があったりもするのだが、なぜか生々しく感じられないのだ。まるで写真を見ているかのようだ・・・・・・・・・・・・・・・

これは「道」での出会いを記念した、アルバムなのかもしれない。きみたちも気に入った道を見つけてごらん、生きものたちとの出会いを楽しんでごらん、という。「生きものたち」のなかには、人間の営みも含まれている。谷戸での田んぼ仕事、草刈りや落ち葉かき。

だが「作者のことば」でも、

 しかし最近は、今まで続いていた道がどんどんなくなっています。雑木林が利用されず、林の道がへっています。田んぼも耕されなくなって、道が途切れ途切れになっています。生きものたちも少なくなってきました。

と書かれるように、里山の維持管理が難しくなってきている。およそ20年前でこうだから、現在も推して知るべしである。ただ当時と違うのは、里山を復活させようという活動が一般的になってきたこと、里地里山保全・活用が大事なことだと認識されつつあることだろうか。「道」があるのはひとの営みがあってこそ。「たくさんの命がゆきかう道」は、ひとを含めた動物たちが交わるところにこそできていくものなのだ。