こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ひと粒のチョコレートに(第433号)

菓子づくりはむずかしい。分量をきちっと計り、レシピどおり手順を踏んでるつもりが、うまくできない。

とくに厄介なのがチョコレートの扱いだ。テンパリングなんて繊細すぎる作業に懲りて、チョコレート菓子を作るのは早々にあきらめた。プロのもの買ったほうがずっとおいしいんだし。

テンパリング、すなわち温度調整。調温がなぜ重要なポイントとなるのか。それは、

チョコレートが不思議な油でできていることにあります。

不思議な油は原料のカカオからきている。そもそもが、カカオの栽培環境からして温度が深く関わっているのだ。カカオがチョコレートへと変身する過程にも、温度が深く関わっている。カカオ、そしてチョコレートの歴史がいかに温度と関係しているか、本書を読んでぜひ確認してみてほしい。テンパリングがうまくいかないってそりゃ当然ですよ。こんなに温度が重要なんて思ってもみなかった。

読み終われば、

 ひと粒のチョコレートは、自然の持つ力と人の技術が合わさった、奇跡のような結晶です。

という言葉を、しみじみ実感できることだろう。

「作者のことば」にもまた、カカオと温度(気温)に関わる興味深い話が書かれている。地球環境規模での温度の話だ。もしかしたらチョコレートはできなかったかも?という話は「自然の持つ力と人の技術が合わさった、奇跡のような結晶です」という言葉を、別の見方から補強するものだ。こちらもぜひ読んでほしい。

イラストは、かわいらしい「お菓子の王様(王子様か?)」を案内役にして描かれている。よくよく見ると、内容に沿った仕掛けや工夫がほどこされているのがわかる。たとえば、6〜7ページでは、口に入れる前のチョコレートと、食べたときのチョコレートのようすが対比して描かれているが、油の結晶が溶ける具合を、背景の格子柄をバラバラに散らすことで表している。本文のイラストには額縁ふうの枠がついているが、口に入れる前の6ページはつぼみ状態の花が散りばめられていたところ、7ページはパッと花開いているところも面白い。本文に盛り込まれる内容をどう表現しているか、その辺も見所になっている。

少し残念に思ったのが、カカオの油の結晶など、本物の写真が見られなかったこと。裏表紙見返しにも「この絵本のカカオの油の結晶や砂糖などの絵は、わかりやすくするために実際の姿とは異なって描かれています」と注意書きがある。Webで情報を探せる時代、実物はいくらでも検索できるという判断もあっただろうし、なにより世界観ができ上がっているイラストに、リアルを混ぜ込むことは難しかったのかもしれない。