表紙の濃い緑、一見地味に感じられると思うが、目の前で見るとなかに吸い寄せられてしまいそうなパワーがある。おもて表紙片面だけでいっぱいいっぱい。これを両面見開きで展開したら、すごいことになってしまいそうだ。
中の写真も圧倒的なエネルギーに満ちている。このスケール感を「たくさんのふしぎ」サイズで表現するのは難しいと思われるのに、ゾクゾクするような感触が背中を駆け上がってくる。
最初に登場する滝からして役者が違うのだ。落差979メートル、世界一長い滝。水は崖にぶつかることなく、時間をかけ地上へと向かっていく。しかし水が行き着く先は地面ではない。空中で霧散してしまうのだ。発見したアメリカ人の名をとって、エンジェルフォールと呼ばれている。
エンジェル(天使)と名付けられた滝が流れ落ちるのは「魔の山」すなわちアウヤンテプイ。現地先住民族ペモンの言葉で「悪魔のテプイ」という意味だ。テプイとはテーブルマウンテンのこと。ギアナ高地には、数多くのテプイ=テーブルマウンテンが点在するのだ。
実に16ページに入るまで、生きものの姿は影も形もない。旅する人間を除いては。緑があるのに荒凉とした世界が広がっているのだ。16〜17ページでやっと登場するのは植物。色こそカラフルな濃いピンクだが、その正体は食虫植物。乏しい大地からの栄養を補うは、哀れな虫たちなのだ。
次のページは動物が出てくるけど、それでもカエル。 オリオフリネラと呼ばれている。カエル泳ぎ、カエル跳びなんて言葉があるけれど、このカエルは泳ぐことも、飛び跳ねることすらもできない。孵るときはオタマジャクシをすっ飛ばして、すでにカエルなのだ。否、
ロライマ山の洞窟に生きるは、コロギスそしてウデムシ。虫嫌いな人にはちょっと厳しいヴィジュアルかもしれない。コロギスが水面からちょっと顔を出したところなんか、なんとも艶やかで愛らしさすら感じさせるほどだ。作者の寺沢さんは天売島在住、水の生きものを撮るのはお手のものだ。水と生きものを表現させたら、右に出る者はいないのではないだろうか。
アウヤンテプイ、ロライマ山、そして本号の山場となるのがサリサリニャーマへの探検だ。拠点となる村はカナラクニ村。サリサリニャーマまでの道のりは、そこに住むジェクワナ族だけが知っているのだ。28〜29ページには道のりの全容が描かれているが、なんとまあ山あり谷あり川ありの大冒険。想像するだけでくらくらしてくる。
サリサリニャーマには、ジェクワナ族に伝わる伝説がある。鷲のような怪鳥が住んでいるというものだ。人や大蛇や獣たちを、サリサリ、サリサリと不気味な音を立てて食らうという。最後のページには伝説の正体かも?という生きものが現れている。とても人や大蛇をとって食うようなものではないが、その鳴き声、有り様ときたら、怪鳥と名指されるのも無理はない。ぜひとも本書でご覧いただきたい。
もう一つ、寺沢さんの面目躍如といった写真がある。崖を背景に飛ぶベニコンゴウインコだ。夕方、日が陰ってきた崖を、輝くばかりの鮮やかな羽を煌めかせて飛ぶ二羽の鳥。小さいながらもグッと心をつかまれる写真だ。
「ギアナ高地 謎の山 テプイ」の偉大さ、不思議さ、そして神秘を存分に堪能してほしい。