こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

きみの楽器はどんな音 (たくさんのふしぎ傑作集)(第54号)

 音はみえないけれどいつもわたしたちのまわりにあります。これからかんたんな工作で、音をつくり、楽器をつくり、みえない音の世界を探検しましょう。

 はじめに糸電話をつくります。

……かんたん?え?

はっきりいって“かんたん”なのは、糸電話といくつかの工作だけだ。

この本には合わせて9つの工作が紹介されている。

糸電話は序の口、2つ目の「聴診器をつくる」なんて、いきなりバルサ材が必要だ。

3つ目「メロディー笛をつくる」は、材料こそ牛乳パックで済むが、寸法を正確に測って音階を作り出さなければならない。

 つくった笛8本をひとつにまとめて、ファイファという笛のハーモニカをつくり、ひとりで演奏をたのしむこともできます。

絶対音感でももってれば「正確な」音階で作れているか判断できるのかもしれないが……。

4つ目「カズーをつくる」。これは本当に簡単だ。簡単なので作ってみたが、いまいちうまくいったような音がしない。これでいいのかなー?って感じの楽器ができた。

5つ目「ログ・ドラムをつくる」から一気に難易度が上がっていく。堅めの板をノコギリで切り出す作業から始まり、ドリルや糸鋸で穴や切り込みを入れる工程まである。

少しむずかしい工作なので、てつだってもらおう。 

かんたんという話はどこへいったのか。『カメラをつくる(第22号)』の工作も本格的だったが、こちらも負けてない。

6つ目「サムピアノをつくる」で難しいのは、竹筒から竹板を切り出すところだろう。「小刀で竹筒をわって、竹板をつくる。」って、小学生が自力でやれることなんですか!?私はこの号が出た当時すでに中学生だったが、とても作れたとは思えない。

7つ目は「トランペットをつくる」。形は単純なので、難しいのはバルサ材から切り出す作業だけだが、マウスピースだけは既製品を用意しなければならない。私は小学生の頃、ちょっとだけブラバンにいたことがあって、トランペットを吹いたことがあるが、マウスピースで音を出すだけでもちょっとした練習が必要なのだ。作ったはいいが音がうまく出ないとか、工作だけではない技術が必要なんて〜。

8つ目「スピーカーをつくる」もなかなか難儀だ。設計図は一見簡単そうだが、組み立てるのは手こずりそうな気がする。

2台つくればりっぱなステレオがたのしめます。

え〜これを二つも作らないかんわけ?

「ヘッドホンつきのラジオ・カセットなどを使います」と書かれていて、ヘッドホン末端をスピーカーの直径16ミリの穴に差し込むような形になっているが、これはどちらかというとイヤホンではないか。ラジオ・カセットというところが時代を感じさせる。

筒を長くすると、そのぶん低音がましてやわらかい音になる。

そうだ。

最後は「プレーヤーをつくる」。トリを飾るにふさわしい工作だ。プレーヤーといってもつくるのはレコード・プレイヤー。レコード針に使うのはなんと縫針。だから「レコードはきずつくので不要なものをつかいましょう」。この工作は作ってただ楽しむものではなく、エジソンが考え出した蓄音機の原理を自ら再現するものなのだ。

 

本号は「楽器を作る工作」に気を取られて、音楽または工作がメインの話に思えてしまうが、楽器を作る作業を通じて「音」の仕組みを体感する本なのだ。

音は振動によって生まれること。その振動が空気を伝わって私たちの耳に届くこと。聴診器をつくるのも、心音を聴くのが主目的ではなく伝音管の仕組み、音の伝わり方を調べるためなのだ。本書の工作ひとつひとつには、音の原理を明らかにするしくみが仕込まれている。 

最近の「たくさんのふしぎ」は、こういう本格的な工作が出てくることはほとんどなくなっている。一般的な小学生の手でできるものなのか、材料や道具をそろえやすいか、危険が少ないものか、その辺の設計が難しいからかもしれない。

自分で工作して、楽器を作って楽しんで、音の仕組みまで実感できる。一粒で何度もおいしい。「たくさんのふしぎ」らしくて、面白い1冊だった。

本号といっしょに借りてきた中の1冊が『ぼくとナイフ-算数と理科の本』。『きみの楽器はどんな音 』とは出版時期が10年ほど違うが、子供の本の流れからすると同時代といってもいいのかもしれない。これもなかなかすごい本で、最後は自分でナイフを作るところまで行き着くのだ。

鉛筆をナイフで削るなんて序の口。削った鉛筆を調べて削り方を工夫したり、ナイフを使うときの力の入れ方を解説したり。刃先を観察させることで、刃物の仕組みの理解を促したりもしている。切れる刃と切れない刃を比べ、刃物を研いでみる実験もある。砥石を荒砥、中砥、仕上げ砥で使い分ける本格的なものだ。

ナイフを作る材料はなんと釘。

① 釘の頭をつぶす

② 釘を熱して、平につぶす

③ 研いで、刃をつける

という手順で作る。前段の刃物を研ぐ実験は、このためのものだったのだ。 

 いよいよナイフづくりです。しかし、木や竹でつくろうというのではありません。鉄でつくろうというわけです。まさか、と思うかもしれませんが、きみたちは、砥石で鉄をけずることができたのですから、できてとうぜんです。(『ぼくとナイフ』26ページより)

「かんたんな工作」とか「できてとうぜん」とか、ひと昔前の子供たちはなんとまあレベルの高いことを要求されていたものか。

釘でナイフを作って終わりではない。今度は金切鋸の刃でナイフを作る。鉄と鋼の違いを比べるためだ。金切鋸を使った、焼き入れ・焼きもどしの実験まである。単に刃物を使うだけでなく、研いだり作ったり「良い刃物を作るための条件」というところまで、実験で解き明かそうとしているのがすごい。

今もキットを使って実験したり、パソコンでプログラミングの学習をしたりと、子供たちが手を動かす作業は健在だ。しかしキットではなく、日常にあるもので本格的な工作をする、実験するということは少なくなってきているように思われる。『きみの楽器はどんな音』そして『ぼくとナイフ』は、「無い」時代だからこその本なのかもしれない。