東京書籍の小2向け教科書『新しい国語 二下』には、「ビーバーの大工事」という文章が載る。うちの子は小2の時、光村図書を採用する学校にいたので学習しなかったが、同じく動物が関わる「どうぶつ園のじゅうい」という文章があった。
章末にある教科書の指導にならって、『こんにちは、ビーバー』を紹介してみることにする。
どうぶつの ひみつを しらべて、みんなに しょうかいしよう。
● ビーバーの ひみつを たしかめよう。
▼どんな ことが、どんなじゅんじょで せつ明されていますか。
「ビーバーの生態」を説明したあと、「作者がアラスカでビーバーを撮影した時の様子」が書かれている。「ビーバーの生態」ではまず、すみかについて説明される。続いて巣とダム、巣の修理の様子、水の利用の仕方、身体のしくみの順に説明されている。「撮影した時の様子」には、木をかじったりエサを食べたりする様子、敵から逃げたり闘ったりする様子が書かれている。
▼ビーバーは、どうして ダムを 作る ことが できるのでしょうか。
・ビーバーの 歯は、どのように なって いますか。
歯について直接の表現はないが、木の食べ方について「上の前歯を枝に固定して下の前歯を動かしながら木の皮を剥いで食べる(25ページ)」という説明がある。また、ビーバーがかじった木の切り口について「まるで刃物でけずったと思うほどするどいもの(26ページ)」という説明が見られる。
・ビーバーの 後ろあしは、どのように なって いますか。
後ろ足にはアヒルのような水かきがついている。その水かきを使って、水面をすべるように泳ぐことができる(10ページ)。
・ビーバーは、どれくらいの 間、水の 中に もぐって いる
ことが できますか。
氷の下で15分間ももぐっていることができる(15ページ)。
▼ビーバーは、何の ために ダムを 作るのでしょうか。
巣の出入り口を水中に作り、外から見えないようにするため。出入り口を水中に作ることで、水に潜るのを苦手とする敵(オオカミ、ヤマネコ)から身を守ることができる。水が少なくなると出入り口が見えてしまうので、ダムを作って水をせき止め、水が減らないようにしている(7ページ)。
▼ビーバーの ひみつの 中で、いちばん おどろいた ことは、
どんな ことですか。
ビーバーの巣は、大きなクマがジャンプして飛び乗ったり、力いっぱい掘り返しても、なかなか崩れないくらい丈夫にできていること(30ページ)。
国語の問題を解いている気分でちょっと面白かった。子供は学校で、こんな感じで教科書の文を読んで考えてるんだなあと。そのかわり、内容紹介はクソつまらないものになってしまったが……。
ただ、問題のためにテキストを読むのはつまらないかというとそうでもなくて、案外に楽しんで味わって読むこともある。今年度も一部、大学入学共通テストを解いてみたけど、国語の問題に載った小説『庭の男』(『石の話―黒井千次自選短篇集』収録)、あれ、あの後どうなるんだろうってやっぱり興味を引かれたものだ。
しかし、教科書はやはり教科書。文章の構成も内容も、学習のねらいに合わせた
実は「ビーバーの大工事」の口絵写真には、一部『こんにちは、ビーバー』のものが使われている。教科書13ページの写真はすべて本書に載るものだ。教科書20ページに紹介される関連図書には『こんにちは、ビーバー』もあるので、読めば、あ、教科書と同じ写真だ!と気づく子供もいるだろう。
だが教科書に『こんにちは、ビーバー』が紹介されるのは、ちょっと複雑な思いもある。学習作業などの目的ではなしに、読んでほしいなあという気持ちもあるからだ。試験問題もそうだが、やはり設問を解くとかそういう前提で読むのと、楽しむために読むのとでは自由度が全く違う。楽しみで読むのなら、流し読みあり、飛ばし読みあり、一部だけ読むのあり、写真だけ見るのもあり、感想をきちんと言語化しないこともあり、だ。何も考えず、あー面白かった!だけの読み方もあってほしい。『こんにちは、ビーバー』は、あー面白かった!って読むにふさわしい絵本でもあるのだから。もちろん、教科書を使って、授業を通して「読む練習」を重ねた上にこそ成り立つ「自由」ではあるけれど。
教科書19ページには、
▼ビーバーや ほかの どうぶつの、どんな ことを、
しらべて みたいですか。
▼しらべたい ことを さがすには、どんな 本を 読むと よいでしょう。
とあるので、ビーバーについてもっと調べるべく『ビーバー-大自然の動物ファミリー』を読んでみた。ピタゴラスイッチでも「ビーバーのダム」という歌があるくらいメジャーな生きものなのに、案外ビーバー単独の本は少ないものだ。
この本で驚くのは「ビーバーの秘密」を解き明かすために、作者が取った方法だ。
これらの秘密を解くには、ビーバーとなかよくなるのがいちばんです。わたしがビーバーの子どもを育てれば、なついてくれて、大きくなってからもずっと、わたしにそのくらしぶりを見せてくれるのではないでしょうか。こうして、わたしはビーバーの「お母さん」になる計画を立てたのです。(『ビーバー』8ページより)
……えっ?ビーバーの「お母さん」って??
なんと!巣を上から壊して潜入し、赤ちゃんを連れ去ろうというのだ。
寝室が見えてきましたよ。わたしが中に入ってみることにしますね。(同12ページより)
ってる場合じゃねーだろ!こうして“誘拐”した赤ちゃん3匹を、これまたなんと、
作者の目的は、ビーバーの秘密を知るだけではなかった。かつて生息地だったこの地に移入し、ビーバーのすみかを蘇らせることでもあったのだ。
とはいえ、赤ちゃんのお世話は大変だ。異種ともなればなおさら。作者は人間の男性だからビーバー用の乳も乳首も持っていない。人工哺育……仔犬用ミルクを哺乳瓶で与えることになる。
すっかり懐いたビーバーに“毛づくろい”される様子は、なんともおかしい。
わたしのあごひげを、ビーバーにしてみればやさしくかじったつもりでも、わたしにはとてもいたいのです。またビーバーが、親しみをこめてわたしの毛、つまりセーターの毛づくろいをすると、大きな穴があいてしまいます。(同30ページより)
人工飼育のビーバーは、果たして巣とダムを作ることができるのか?
驚くべきことに、彼らは自然に“仕事”を始めたのだ!そればかりではない。3匹のうち2匹がカップルとなり、赤ちゃんまで生まれたのだ!残りの1匹、力の弱い方のオスは威嚇され追っ払われてしまった。オスの宿命だ。
このように、ビーバーの赤ちゃんが人の手で育てられ成長していく様子は、貴重な記録と言ってもいいのかもしれない。今はなかなか許されない実験だろう。作者のカラス夫妻はローレンツの研究助手をつとめていたということで、期せずしてハイイロガンの“母”となった、ローレンツの行動観察研究と通じるものがある。
他に読んでみたい本。これから出るようだ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/11/post-97487.php