こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

名前のチカラ(第453号)

名前をつけてやる 本気で考えちゃった 
誰よりも立派で 誰よりもバカみたいな

スピッツ「名前をつけてやる」アルバム『名前をつけてやる』より

 

人生でもっとも悩んだ名前。

それは子供の名付けだ。

お腹にいるときは夫と意見が割れ、なかなか決まらなかった。なんせひとりの人間の名前だ。そう簡単には決められない。出てきて顔見てからにしようか、と先送りになる始末。出てくる前に決まらないものが、出てきたところで決まるわけもない。喧喧囂囂の話し合いの末、これでいこうと決めたところ、双方の両親からの“横槍”が入りで侃侃諤諤。結局かなりぎりぎりの届けになってしまった。

これまでペットやら何やらの名前を決めたり愛称を付けたりしてきたけど、所詮は自分の管理下にある“モノ”の名前。しかし子の名前というのは、一生にわたって付き合っていくもの。これから多くの人に知られ、呼ばれるものなのだ。

先だって「王子様」と名付けられた男性が改名を果たしたという話を読んだ。

キラキラネーム「王子様」に決別した18歳のその後 | 家庭 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

彼の母の「私にとっての王子様」という名付けの「意味」はわからなくもない。しかし「王子様」という“すでにある名前”が持つ印象/イメージを考えると、そのまま固有名詞として使うより他にやり方があったはず。名前というのは人生に大きく関わってくるものだからだ。

本号『名前のチカラ』でも、少年が通りすがりの猫に頼まれて名付けるシーンが出てくるが、

あっ!『ネコ』でいいじゃん!

くらいの安易さがある。彼の母は決して安易に決めたのではないと思うが……。

彼、赤池さんが改名を決意したのは「変な名前」が理由ではないとのことだが、「名前だけが注目を浴びるのに耐えられなかった」というのだから、彼の人生に大きな影響を与えていたのは間違いない。

大きな影響……つまり「名前」というのはそれだけ大きな「チカラ」を持っているということなのだ。

チカラを持つのは何もこういった「人の名前」だけではない。

名前というシステム自体、人間の本質に大きく関わるものなのだ。

本書にはこんな言葉が出てくる。

人間がいなければ全ての名前はこの世になかったわけか

呼び方は、呼んだ人がどんな物の見方、考え方をしているかも表現してしまうんだな

新しい発見があると新しい名前が必要になるんだな

新しい切り分け方を見つけたら新しい名前が必要になるわけさ

もしかしたら外国語を知ることで知らなかった考え方や世界の見え方が発見できるのかもしれないね

名前をつけたり知ったりするのは考えるための道具を手に入れるのと似ているかもしれないね

この世に文字というものを持たない文化はあれど、名前を持たない世界はない。世に名前が付いていないものはあれど、名前というものを使わない文化はないのだ。

 

名前が付いていないもの……付いていないように見えてその実、名前を知らなかったりするだけかもしれない。

そんな世界を見せてくれるのが、ゲスト講師の三土たつお氏だ。

ライタープロフィール :: 三土たつお の記事いちらん :: 三土たつお の記事いちらん :: デイリーポータルZ

目に映るものの名前をできる限り知りたい :: デイリーポータルZ

三土さん曰く、

名前を知ることで今まで見ているようで見えていなかったものに気がついたりして 大げさにいうと世界の見え方が変わるんですよ

ときに子供は、興味を持ったものに対して、驚くほどの知識の吸収力を発揮するが、それは世界を知ろうとする意欲の現れなのかもしれない。大人であっても、何か興味のとば口に立つことができれば、いつでも子供に立ち返ることができる。名前を知るというのは、世界を知ることでもあるのだ。

 

『名前のチカラ』は、コマ割りを大ぶりに使ったマンガ仕立てで作られている。ともすれば抽象的で理解が難しいテーマになりがちだが、マンガにすることでとても読みやすく仕上がっている。そのせいかどうか……本号はいつもの「たくさんのふしぎ」と異なっているところがある。ふしぎ新聞の最後にさりげなく書かれているので、気になる方は見てみてください。案外に気づかないものである。