こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

恐竜はっくつ記 (たくさんのふしぎ傑作集) (第5号)

小さい頃、恐竜が好きだった。子供ではなく私が、だ。

デパートの恐竜展に連れていってもらったこと、ステゴサウルスの模型を買ってもらったことを今でも覚えている。恐竜図鑑も熱心に読み込んでいた。その後は続かなかったため、知識としては30年前で止まったままだ。

『恐竜はっくつ記』もその当時、1985年の出版。フタバスズキリュウとかブラキオサウルスとかブロントサウルスとか見覚えある名前が出てきて懐かしかった。最近こそ“羽毛恐竜”が発見され、羽毛を生やした想像図が描かれているが、本書のは昔なじみの爬虫類系だ。

本号はマダガスカルでの調査を元に書かれたものだ。マダガスカルと言えば「ダーウィンが来た!」始め動物番組でおなじみの国。マダガスカルは他の大陸から孤立して長いこと経つ。それゆえ、たくさんの固有種が生息しているのだ。

マダガスカルがすごいのは、現生の生きものだけではない。「化石の島」といわれるほど、大昔の生きものの痕跡────恐竜や魚、貝の化石が数多く見つかるという。著者が予備調査で発掘を試みたエピオルニス。恐竜時代以降に現れた巨鳥だが、やはりマダガスカルの固有種だ。地元にはエピオルニスの化石探しの名人がいて、協力のもと発掘調査を行っている。

恐竜に興味はあったけど、いずれ調査発掘してみたいと思うまでには至らなかった。小学館の学習百科図鑑『大むかしの生物』で、高校2年生にしてフタバスズキリュウを発見した鈴木直の話を知っても、ただすごいなあと思うだけ。化石の「発見」は自分にもできるかもという発想はまったくなかった。この『恐竜はっくつ記』を、小学生の私が読んだらどんな感想を持ったことだろう。なじみのない外国ということもあるし、やはり自分とは縁のない話だと思っただろうか。

いろいろ調べて驚いたのは、フタバスズキリュウが「新属新種の首長竜」と判明したのは、発見から38年も経った2006年だということ。その研究チームのひとりが、本号の著者である長谷川善和氏だ。フタバスズキリュウの発掘にも参加している。『時をながれる川(第172号)』でも、地元の子供たちと先生が化石を「発見」しているが、ただ発見するだけではダメで、専門家による調査研究で同定されて初めて「新種の発見」だとみなされる。

化石の発掘は専門家でなくともできるが、「発見」したその先は専門家の力を借りる必要がある。一方、専門家も地元をよく知る人の協力なしには調査研究を進めることはできない。『恐竜はっくつ記』も、村人や現地隊員との協力の上で発掘調査がおこなわれているのだ。

ちなみに……我が子はというと、鳥と密接な関係にあるにも関わらず、今も昔もそれほど興味はないようだ。たまに「BIRDER」で恐竜特集があるので読むくらいだろうか。

BIRDER 2015年8月号 最新「羽毛恐竜」ガイド

とはいえ、恐竜より現に生きているサンカノゴイの方がよほど好きなのは間違いない。“アシ原の「恐竜」”という副題がつけられているが、確かにちょっとした恐竜と見紛うばかり。鋭い目つきで翼を拡げ向かってくる様子はただの鷺とは思えない。

メインの恐竜特集は、川上和人先生(『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』)や佐藤克文先生(『動物たちが教えてくれる 海の中のくらしかた(第389号)』)が原稿を寄せている。読みごたえのある内容だ。川上先生が『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』を小ちゃくCMすれば、佐藤先生だって『巨大翼竜は飛べたのか』の宣伝に余念がない。

佐藤先生が「巨大翼竜、本当は飛べなかった?」に対する古生物ファンの罵詈雑言に懸念を示しつつ「書くべきことは山のようにあるのに与えられたページ数はあまりに少ない」と愚痴っているのが面白い。『巨大翼竜は飛べたのか』を読んでから反論してみてくださいとおっしゃっている。

恐竜への興味から遠く離れた今、子供の趣味がきっかけで、ふたたび恐竜ネタをほじくり返すことになろうとは、小学生の私が知ったら驚くに違いない。