奄美ではナイトツアーに参加した。奄美フォレストポリスのガイドさんの案内で、園内を散策する。時間は20時近く、辺りはもう真っ暗だ。
ガイドさんが、ほら、ホタルですよ。とおっしゃる先には、光る点々が。ホタル?奄美でホタルが見られるとは!キイロスジボタルというらしい。懐中電灯を消すと、チラチラ光る様子がよく見えた。
ホタルといえば清流のイメージがある。きれいな水流はあるけれど、こんな森の奥深くで見られるものだったろうか?これまで見たホタルの生息地とはかなり異なっている。
『川のホタル 森のホタル』の作者も、高山の山頂でホタルと出会い、不思議に思ったという。川からずっとはなれた標高1900メートルほどのところだ。ホタル研究の第一人者大場信義氏に聞くと、ヒメボタルではないかとのこと。そこで作者はキンボタル(ヒメボタル)が見られるという、広島の山間部まで出かけていくことになる。
そこはきれいな川の近くではなく、山の中。大きな樹々が鬱蒼と茂っている森だ。日も暮れて辺りが闇に包まれるころ、フラッシュのように瞬間的に輝く光があらわれだす。森の中は小さな金色の光で満たされ、樹々のシルエットが浮かび上がってくる。この世のものとは思われない光景だ。1時間と続かず、光は消え去っていった。
「森のホタル」の幼虫は、何を食べているのだろうか?おなじみのゲンジボタルはカワニナ、ヘイケボタルはモノアラガイなど、淡水域に棲む巻貝をエサにしている。一方「森のホタル」であるヒメボタルは、カタツムリやキセルガイなど陸生の巻貝や、ミミズなどをエサに生活しているという。私が奄美で見たキイロスジボタルも「森のホタル」。幼虫はやはりマイマイなどを食べて暮らしているようだ。
世界的に見ると、このような陸生ホタルの方がずっと多いのだという。ゲンジボタルのような水生のホタルこそ、珍しいものなのだ。本号にも書かれているが、ホタルは「人里の近くでくらす生きもの」。ゲンジボタルのエサであるカワニナは、川底に生える川ゴケを食べて育つ。その川ゴケは、源流のような澄んだ水よりも、日当りがよく、田んぼや畑から養分が流れ込むところに生えるという。ヘイケボタルはタニシなどもエサにするので、水田にも棲んでいる。世界的に珍しいと言われる水生のホタルの繁栄は、カブトムシと同じく人里の暮らしが関わっているものなのだ。
人里の暮らしの変化は、ホタルの生育環境にも大きく影響を及ぼした。各地で数を減らす一方で、「保護活動」もさかんに行われるようになった。しかし「保護」される多くは、ゲンジボタル。「発光の強さや飛翔の優雅さなどから、日本のホタル類の中でも人目を引きやすい」ため、観光資源として元々いなかった地域に持ち込まれることにもなった。
蛍で町おこしピンチ 北海道、ゲンジボタル規制対象に? :日本経済新聞
メダカなどでも、遺伝子汚染や国内外来種の問題が知られるようになったが、ゲンジボタルの安易な飼育や放流も同様の事態を招いている。メダカと同じく、地域によって遺伝子型が異なっていたり、発光パターンにも違いがあったりするのだ。
大場信義さん かしこい生き方のススメ - COMZINE by nttコムウェア
ホタルそのものばかりではない。エサとなるカワニナの移入問題も遺伝子汚染を懸念されている。
ゲンジボタルは確かに「人を呼べるコンテンツ」だが、生育環境が整っていないところで、満足する規模の「ホタルの乱舞」を実現しようと思えば、人工飼育や放流を行わざるを得ない。ホタルは自然保護、環境保全のシンボルとして祭り上げられやすい存在だが、「ゲンジボタルを増やすことだけ」に焦点をあてた活動は、ともすれば自然破壊につながってしまうかもしれない。
上記で紹介した北海道の「ほたるの里」(『時をながれる川(第172号)』の沼田町にある)は、すでに放流を止めているという。それでも多数が生息しているということだから、環境に適応し定着したとみていいのだろう。しかし、ホタルを定着させるため、さまざまな「工事」をおこなったはず。もともとの自然に影響を及ぼしているのか。在来種が減ったりいなくなったりしたとすれば、呼び戻すために元の状態に返すべきか。ゲンジボタルを駆除すべきなのか……本腰入れて考え始めると難しい問題だ。
ヒメボタルのような「森のホタル」は、
川にすまないため洪水などでながされにくく、メスはとぶこともないので、特定のせまい範囲で何代にもわたってすみつづけ、ほかのむれと出会うことが少ないので、それぞれの場所のむれごとに体の大きさや、光の色がちがうことも多いようです。
ということで、人目に付きにくい、開発の手が届きにくい場所に棲むがため、比較的安定した生活を送っているようだ。奄美で見たキイロスジボタルも、これまでも、これからも、深い森に守られて暮らしていくのだろう。

川のホタル 森のホタル (月刊たくさんのふしぎ2015年6月号)
- 作者: 宮武健仁
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