こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

9つの森とシファカたち マダガスカルのサルに会いにいく(第415号)

マダガスカルのカメレオンたちが、島のさまざまな場所にわかれて生活しているように、マダガスカルに棲むレムールの仲間、シファカも島のさまざまな森に分かれて暮らしている。

レムール?シファカ?マダガスカルの動物に詳しくない人には聞き慣れない言葉だろう。

まず「レムール」とは。キツネザルといえば通じやすいかもしれない。

ヒトを除いたマダガスカルの霊長類(サル目)は、すべて曲鼻亜目キツネザル下目に属し、「キツネザル類(レムール)」と呼ばれている。知られているレムールとして、たとえばアイアイ*1ワオキツネザルインドリなど、みな“レムール”ということになる。

「シファカ」とは、インドリと同じインドリ科に属するサルで、シファカ属に入るサル類になる。ベローシファカなど、「ダーウィンが来た!」でも取り上げられたことがあるので、知っている人も多いのではないだろうか。本号によると、怒った時に頭を上下に振って「シファック」と声を出すので、この名前がつけられたらしい。シファカのなかまは9種いて、『9つの森とシファカたち』のとおり、マダガスカル各地の森に分かれて生息しているという。

自分の頭の整理のために書き出して、それぞれの森の場所やどんなシファカなのか、調べてリンクを張ってみたけれど、じゃあ本号の内容はこれで網羅されたのかといえば……とんでもないことでございます!

9つの森を紹介して、そこに棲むシファカを描くだけではない。同じ森にすむシファカ以外のレムール38種も盛り込まれていて、ちょっとしたレムール図鑑にもなっているのだ。

レムールだけではない。エメラルド色に輝くネッタイタマヤスデや、カルカヤインコなどの鳥たちも脇役として本を彩っている。

とにかく本当に情報量の多い本なのだ。私がマダガスカルやレムールに詳しくないことを差し引いても、ひとつひとつのページを見る(読む)のに時間がかかる。文が多すぎる、絵が詰まり過ぎているということでは決してない。何だか1ページ1ページの情報の密度がすごく濃いのだ。本当に40ページなのか、増ページの号*2ではないのか確認してしまったくらいだ。

それもそのはず。「作者のことば」によれば、作者は9種のシファカすべて見るのに、なんと30年もかかったというのだから!30年の密度が40ページにギュッと詰まっているのだ。絵もまた、30年の密度に負けないくらいの力で描かれている。単に、図鑑のようにマダガスカルの森とシファカを紹介するだけなら写真でもできる。図鑑であるならむしろ、写真を使って書く方がふさわしいだろう。でもこれは図鑑ではない。シファカたちの紹介がメインではあるけれど、同時にマダガスカルの素晴らしい自然の数々を、マダガスカルの「夢」を見せてくれる本でもあるのだ。

 「マダガスカルはボクの夢なんだ」と私のフランス人のお友だちが言ったことがあります。私にとっても、ずっと夢の場所です。(「作者のことば」より)

絵をつけた菊谷詩子氏は、実際にマダガスカルまで足を運んで取材を行ったという。

J-POWER | 電源開発株式会社 | GLOBAL EDGE(グローバルエッジ) │ Venus Talk 科学の眼を持つ異才のイラストレーター

この本は、島泰三氏が経験したマダガスカルと、菊谷詩子氏が見たマダガスカルという、二つの視点が合わさって出来上がった本なのだ。それぞれのプロが力を尽くして作り上げた、まさに夢のような本だ。

この絵本を読む子供たちが、その時間と労力を意識することはないだろうし、もちろん意識しなくて良いのだが、これをたったの(本体713円+税)で読めることの凄さを、大人である私は感じざるを得ない。

*1:「曲鼻亜目・キツネザル下目・アイアイ上科・アイアイ科」というキツネザル下目に含まれる形ではなく「曲鼻亜目・アイアイ下目・アイアイ科」とアイアイ下目として分類されることもあるようだ。

*2:たくさんのふしぎ」は基本的に40ページで作られているが、たまに48ページ構成の号もある。『アリになった数学者』参照。