こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

イカは大食らい(第426号)

イカを見たことがありますか?

スーパーのプラスチックトレイで力なく横たわっているやつではない。あれはただの死体だ。

生きてるのなら活き造りで食べた?確かにおいしいですよね。透明でプリプリしてて。皿の上でうにょ〜って恨めしそうに動いてるのちょっとビビりますけど。

活き造りやってるなら生簀もあって泳ぐ姿見られますね。たまに水族館なんかで生態展示しているところも。きれいでいつまで見てても飽きないですよね。

でもこんなのは本当のイカじゃありません。

本当のイカは水族館の水槽にも生簀にも、まして魚屋さんにはいないのだ。じゃあどこにいるのか?

海だ。

本当のイカは海にしかいない。

海中で鋭く光る大きな目。生簀のイカが何も見てないようにみえるのとは大違いだ。本号4〜5ページで、目を光らせながら浮いているイカの様子は、まるで別の世界の生きもののよう。怖いくらいだ。

体色を魔法のように変えつつ、時に輝きながら、時に身を溶け込ませながら泳ぐさまは、著者がいうように「宇宙生物」かと思えるほどだ。宇宙船のようにすらっと身体を伸ばしたかと思えば、海底でまるまって岩に化けたり。陸上ではおよそ役に立たないような腕も、振り上げて威嚇したり、触腕を繰り出して獲物を捕まえたりと自由自在だ。スーパーの売り場でだらしなく伸びきっているゲソからは、想像もつかないような動きをする。

もちろん、生きているイカのこうした魅力など、水族館でもある程度は見られる。

「イカ」に魅了され、海へ釣りに行くまでハマってしまった8年間を振り返る | マネ会

この方がイカ「沼」にハマったのも、最初は水族館がきっかけだった。もっとも、上記記事で触れられている宮内裕賀*1などは「近所のおじさんが釣ってきたイカの美しさと美味しさに魅了され」たわけだから、必ずしも海中の姿だけが魅力を持つものではない。むしろ陸に上げられてなお、人を「沼」に引きずり込むのだから恐るべしなのだ。

女性“イカ画家”が感じる魅力とこだわり「艶めかしさといかがわしさが共存」 | ORICON NEWS

 

そうはいっても、イカの華麗な七変化は、変化に富んだ海中でこそ映えるものだ。22ページ、そして36〜37ページに写る水玉模様の配色など、北欧デザイナーもびっくりのモダンさである。しかし、これは「敵やえものの目をごまかす」ためのもの。飾りじゃないのだ。食べたり食べられたりという命のやりとりの中で身につけた武器だ。

だから本書のいちばんの見どころは、美麗な変身をとげる姿もさることながら、カマスをガシッと捕らえバリバリ食らいつくさまや、イワシをつつみこむように抱え少しずつ齧る様子、ちっちゃな鯛?を頭からかぶりついている写真なのだ。小さなイカたちもエビを吸い込むように一生懸命食べている。

食べる食べる食べる。生まれた時には1gにも満たないようなただのプランクトンアオリイカも、1年後にはなんと5000倍、5kgにまで成長することもあるのだという。大きくなるためにはたくさん食べなければならない。たくさん食べるためにはたくさん狩りをしなければならない。イカの魅力の多くは「優秀なハンター」としての姿に込められているのだ。

たくさん食べて早く大きくなるイカは、マグロやサメの格好の獲物でもある。イカが食べた小さな魚やエビ、カニたちの栄養は、イカを通してマグロやサメに受け渡される。イカは海の生態系の要ともなる生き物といえるのかもしれない。

マッコウクジラの主な獲物もイカだ。『クジラの家族』、そしてこのエントリーで触れた「追跡!マッコウクジラの大家族」の番組でも、マッコウクジラが深海にイカ狩りに出かける様子が紹介されている。

子供が幼少のころ、NHKスペシャルで「世界初撮影!深海の超巨大イカ」が放映されたが、異常な食いつきっぷりを見せ、録画した番組を子供が何度も何度も繰り返し見ていたのが印象的だった。ナレーションをそらで覚え、園でのお描きにもダイオウイカが登場する始末。ちょっとして東京に転居し、科博特別展「深海」にタイミングよく行けたのは幸いだった。子供の机にはその時買ったダイオウイカのシールがベタベタと貼りつけられている。イカ「沼」にはハマらなかったけれど、 かつてイカに取り憑かれていた時が確かにあったのだ。

*1:鹿児島在住時メディアでも紹介されていて、近くで展覧会もやっていたけれど結局見に行けず残念だった。