こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

クジラの家族(第413号)

「子どものころから、クジラという動物にあこがれをいだいてきた」作者。『クジラの家族』は、ザトウクジラシロナガスクジラコククジラセミクジラシャチマッコウクジラと6種のクジラのなかまを、躍動感あふれる写真とともにたっぷり紹介した1冊だ。

豪快に潮を吹き上げる様子、尾びれから滝のように流れ落ちる海水、勢いよくジャンプするさま、大きく口を開けて食事をする様子……どの写真も生き生きと暮らすクジラの様子をとらえている。

カナダ太平洋岸で撮影されたシャチの様子は、まさに『オルカの夏』で描かれた版画そのものの風景だ。多くのシャチは、母親を中心に血の繋がった家族で群れを作っているが、7年もの観察のなかで、著者は“ニコラおばあちゃん”家族の変遷を目撃することになる。ニコラが孫の面倒をみる様子は、人間のおばあちゃんの子守そのもの。ニコラの不在(死)や、新たな命の誕生は、一族の物語の一端を垣間見るようだ。

シャチは世界じゅうの海に暮らしているが、カナダ太平洋岸のニコラ家族がサケマスを食べて生活する一方、アルゼンチンのバルデス半島には、砂浜まで突進してオタリアを狩るシャチの個体群もいる。世界じゅうの人々が、それぞれがすむ環境や手に入る食物に合わせた暮らしをしているように、シャチたちも自分たちのすむ環境や獲物に合わせた生活をしているのだ。

マッコウクジラの暮らしぶりは、

「追跡!マッコウクジラの大家族」 - 地球ドラマチック - NHK

で見たそのままで、深海でクリック音を繰り出しながら狩りをするさまや、狩のあいだ別の大人が子守役を引き受けるところなど、家族が協力して生活する様子が書かれている。「追跡!マッコウクジラの大家族」では、家族語とも言える方言でコミュニケーションを取る様子や、ある1頭のメスが数年もの間ずっとベビーシッター役を引き受けていること、“アイリーン”一家の血縁関係などが解明されていて、本書と合わせ、とても興味深く見ることができた。ちなみに「追跡!マッコウクジラの大家族」で観察されているのは、モーリシャス島の沖合に定住する群れ。重油流出事故の影響が心配されるところだ。

モーリシャス沖の重油流出事故に関する声明 |WWFジャパン

本書や「追跡!マッコウクジラの大家族」を見ると、人間がクジラたちに親しみを覚えるのがよくわかる。血縁の家族を中心に、それぞれ役割を持ちながら生活していること、声(クリック音)や身振りなど多彩な方法でコミュニケーションを取っていること、家族の中に文化とも呼べるもの(家族内で伝わる言語や狩の手法など)があること。そして何より、人間ともコミュニケーションができるように感じられること。

捕鯨国のなかにはクジラの捕獲に反対する人々も多くいて、近年ではシーシェパードによる激烈な反捕鯨キャンペーンも記憶に新しいところだが、鯨食文化を当たり前として受け入れてきた私には、これらの人々がなぜこんなに反対するのかよくわからなかった。人間と同類でもあるように感じられるというところが、感情的にもなる一因なのかもしれない。しかし、古くから捕鯨文化が続いてきた日本でも、クジラの需要は大幅に減っており、捕鯨の必要性が感じられなくなってきていることも確かだ。それでも、国際捕鯨委員会を脱退してでも、独自に捕鯨を続けるという意思からは、別の意味での鯨に対する愛着を感じることができる*1。こう考えると、クジラを特別なものと考えているのは、捕鯨国の人々も非捕鯨国の人々も同じなのかもしれない。

クジラの家族 (月刊たくさんのふしぎ2019年08月号)

クジラの家族 (月刊たくさんのふしぎ2019年08月号)

  • 作者:水口 博也
  • 発売日: 2019/07/03
  • メディア: 雑誌

金華山に行ってきた話を書いたが、航路の起点となる鮎川港(または女川港)はかつて捕鯨の中心基地として栄えていた町だ。先般31年ぶりに商業捕鯨が再開されたが、鮎川でも地元の捕鯨会社によってミンククジラが捕獲されている。

生の鯨肉、食卓へ 石巻・鮎川直売所でも販売 「まずは刺し身で」 | 石巻かほく | 河北新報オンラインニュース

家の近所にある、石巻港直送をうたうスーパーでも、冷凍ものではない鯨肉がずらりと並んだ。赤肉だけでなくさえずりなども入荷している。東京の小学校でも給食でクジラの角煮が出たりしたし、スーパーで刺身を見かけたりもしたが、こんなに豊富なクジラ商品を見るのは初めてだ。

鮎川は、鯨食文化をささえてきただけでなく、鯨歯工芸の伝統も受け継いできた。マッコウクジラの歯を使ったものだ。ホエールタウンおしかのなかには、その鯨歯工芸のお店もあって、はんこやブローチ、根付ストラップ、アクセサリーなどさまざまな商品が並んでいた。

お店の人によると、津波で店を流され機械も失ってしまったが、何とかお店を再建し、残された材料で商品を作り営業を続けてきたらしい。商業捕鯨は再開されたものの、マッコウクジラは対象外で、今のところ新しい材料が手に入る見込みはないのだという。

「鯨歯工芸」が存続の危機 捕鯨禁止で材料入手できず :日本経済新聞

家でも鯨歯製の小さなキーホルダーを買ってみた。プラスチックとは少し違う手触りと重みがある。

マッコウクジラ捕獲再開の見込みはあるのか、鯨歯工芸が存続できるのかはわからない。失われてしまうかもしれない文化を惜しむ気持ちはあれど、私たちが、捕鯨文化を支えているという実感が持てない以上、ただただ残念に思う他はないのかもしれない。

*1:真偽は不明だが、こういう記事も見つかっている。

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35529672