こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

マダガスカルのバオバブ(第357号)

 バオバブは、サン=テクジュペリが書いた童話『星の王子さま』にも登場する、アフリカを代表する木です。種類は約10種で、アフリカ大陸に1種、オーストラリア大陸に1〜2種、マダガスカルには8種ものバオバブがあると言われています。ぼくは全種類のバオバブに出会うため、マダガスカル各地を旅してみることにしました。 (マダガスカルバオバブ』本文より

カメレオンシファカバオバブもですか!いやはや、マダガスカルの懐の深さときたら驚くべきものがある。アイアイ研究の基地になれば、人々のくらしを見つめる人*1もいる。主役を張るのは生きものだけではない。恐竜はっくつの舞台にもなっているのだ。各号を読んでもまるでマダガスカルの全容がつかめない。旅する人によって、注目する生きものによって、こんなにも違う本が書ける土地があるだろうか。もちろん日本ひとつ取ってみても、さまざまな生きもの、さまざまな視点で描けるだろうから、マダガスカルに限ったことではないかもしれないが。しかしそこにしかいない生き物、固有種の多さという点では、マダガスカルはトップクラスなのは間違いない。だからこそ「ダーウィンが来た!」を始め、数々の生きもの番組などの取材場所や撮影地にも選ばれるところなのだ。

マダガスカルに棲息する固有種を求めて:岩合 光昭:写真で伝えたいこと:特集:オリンパス

 

バオバブにこんなに種類があるものとは思わなかった。本書で紹介されるのは、冒頭で引用したとおり8種類。その中でマダガスカルの固有種はなんと6種類にも及ぶ*2

スアレゼンシス・バオバブ Adansonia suarezensis
マダガスカリエンシス・バオバブ Adansonia madagascariensis
ペリエリー・バオバブ Adansonia perrieri
フニィ・バオバブ Adansonia fony
グランディディエリー・バオバブ Adansonia grandidieri
ザー・バオバブ Adansonia za

あとの2種類は、

ディギタータ・バオバブ Adansonia digitata
ブジィ・バオバブ Adansonia bozy

ディギタータ・バオバブはアフリカ大陸原産で、マダガスカルには人為的に持ち込まれたものだ。『星の王子さま』のモデルになったバオバブでもある。ブジィ・バオバブは、現在ザー・バオバブと同種であると見なされているようだ。

マダガスカルで多様なのはバオバブの種類だけではない。人々によるバオバブの利用法も驚くほど多岐にわたっている。

たとえばグランディディエリー・バオバブ。皮は住まいの材料にもなれば、マラリアの薬にもなり、時にサプリメントとして使われる。果実はおやつがわり、ジュースにもなる。殻はちょうど良い器にもなる。かつては種を絞って油もとっていたという。地域の人々はこのバオバブをレナラ(Renala)すなわち「森の母」と呼んでいるそうだ。まさに、人々の生活をささえる“お母さん”だ。

その他、水を貯めておくタンクとして使われていたり、水をたっぷり含んだ内部のスポンジ構造は水分補給に利用されたり。“御神木”として祈りの場にもなれば、街のシンボルとして憩いの場所にもなる。

しかし、マダガスカル固有種のご多分にもれず、6種の中には絶滅の危機に瀕しているものもある。特にペリエリー・バオバブは、本号でも絶滅が心配されているとおり、IUCNレッドリストカテゴリーで「絶滅寸前(Critically Endangered)」のカテゴリーに入っている。グランディディエリー・バオバブも、開墾で切り倒されたり、大型サイクロンで倒れたりで生息地の減少が進んでいるようだ。人々の過度な利用や家畜による食害なども、数を減らす一因となっている。人々の生活と環境保全をどう両立させるか……マダガスカルだけの課題ではない。

おもて表紙は青空にそびえ立つものだが、一方の裏表紙は夕日に照り映えてたたずむバオバブが写されている。昼の光のもとで圧倒的な存在感を放つ独特の姿も、沈みゆく太陽の光を穏やかに受けどこか優しげに見える。年輪がないバオバブの樹齢を知ることは難しいようだが、推定では数千年にも達するといわれている。このバオバブたちは昼と夜を何度経てきたのだろうか。

息のむバオバブ街道 満天の星空も格別 – Horiuchi Takashi Photography

 <2023年9月9日追記> 

「傑作集」発刊に合わせた写真展に行ってきた。

本の写真ももちろん素晴らしいが、元の写真を見るとまた違った風景が見えてくる。

とくに印象に残ったのが「おばあさんバオバブ」の写真。

本書では21ページ、トリミングしたものが小さく使われているが、写真展では全身がしっかりと写り、主役の一人として張っている。丈は小さいけど堂々たる風貌だ。

本だとレイアウトや内容との関係で、どうしても強弱をつけることになるが、写真展ではみな平等だ。それぞれの写真がそれぞれ主役なのだ。

本には出てこない写真もいっぱい。

あらゆる写真にバオバブが写っている。画面の主役としてだけでなく、人物の背景に写り込んでいるのもあるし、トラックに描かれた絵としてのバオバブもある。

満天の星空のもと、真っ暗な森に浮かび上がる様は、夜にだけ精気を与えられる怪物のようだ。昼の姿とは違った存在感を示している。

巨大なバオバブの前では人間などちっぽけな存在だ。バオバブの下に集う人々は、木に守られるかのように身を委ねている。

バオバブの皮を使った紐作りの様子も面白かった。キャプションによると、幅30センチほどの樹皮をさらに数センチの幅に割き、2枚の樹皮を柱に結びつけ撚り合わせるそうだ。それからもう一枚の樹皮を加えて三つ編みの要領で編み、丈夫な一本のロープに仕上げるという。『糸あそび 布あそび (たくさんのふしぎ傑作集) (第173号)』で、ヒモを撚り合わせた苦労を思い出した。

バオバブの樹皮は家づくりにも使われる。グランディディエリー・バオバブの皮は、屋根に使われることが多いそうだが、ムルンダヴァ郊外の老夫婦の家は壁にも使われている。素敵なおうちだ。最近読んだ『イラク水滸伝』では、カサブと呼ばれる葦の一種で家を作っていたが、その土地で手に入りやすいものが建材となるのはどこも同じなのかもしれない。

そのムルンダヴァ郊外の風景で圧巻だったのが、乾季の5月、一面に咲く熱帯スイレンの花だ。日本の蓮よりは小ぶりだが、愛らしいピンクの花が池一面に散らばっている。池の周りに優しくたたずむはもちろんバオバブだ。

11月は雨季、グランディディエリー・バオバブは青々とした葉を茂らせる。しかし乾季には葉を落としてしまう。その間栄養はどうするか?なんと樹皮の下に葉緑素があり、そこで光合成をおこなっているという。樹皮下光合成をおこなう植物はバオバブだけではないようだが、幹が太いバオバブはそのスケールが違うのかもしれない。

近年サイクロンが大型化し倒木するバオバブも出ているが、その無惨な姿も展示されている。気候変動だけではなく人間の利用の仕方にも一因があるようだ。

マダガスカル研究懇談会│Conference/懇談会 マダガスカルのバオバブの現状

登場する動物は牛などの家畜が多かったが、唯一ともいえる野生動物が、ムランバワンのコクレルシファカだ(『9つの森とシファカたち マダガスカルのサルに会いにいく(第415号)』)。木の上でのんびり過ごす姿は本当に愛らしい。バオバブ中心の写真展の中でいいアクセントになっていた。

*1:マダガスカルバオバブ』はこの『青い海をかけるカヌー』と同じく、堀内 孝氏が文・写真、牧野 伊三夫氏が絵をつけている。

*2:バオバブの分類については諸説あって最新の分類がどうなっているのかよくわからなかった。

参考:

バオバブの種類 - Pantha's Labyrinth

http://www.ayeaye-fund.jp/images/160408baobabu.pdf