大昔から人は水の上に出た。
大海原へも舟で漕ぎだした。
人が水のむこうに見たのは、いったいなんだろう?
そうだ、
ぼくも舟をつくろう!
冒頭、一艘のカヌーが浮かぶ様子が写されている。写真の外枠がグラデーションのように加工されているのが面白い。波紋が広がる様子をあらわしているかのようだ。これからどんなお話が始まるのだろうとわくわくしてくる。
『ぼくの島(第138号)』の作者は、友人からカヌーを借りていた。
『カヌー 森から海へ』の作者は、自分の手でカヌーを作ろうというのだ。作者の名前が「船木」であることに関係しているのだろうか?
船体はトウヒ、座席はセンノキ、センターヨークはヤチダモ、パドルはカツラとイタヤカエデ。森で育つ木を材料にして組み立てられていく*1。
「森の木はカヌーとなってよみがえった」。
細板を組み合わせ、貼り合わせただけの船体が、削られみがかれてなめらかな曲線を描きだすさまはなんともふしぎだ。完成した舟はみどりの地面に浮かべられているが(14〜15ページ)、次のページでは一転、青い水辺に進まんとしている。水を弾く真新しい船体。
森と木の色で占められていた前半から、後半部は水、木々のみどり、空とさまざまな「あお」が通り過ぎていく。カヌーの色がいいアクセントだ。カヌーの道行きに魅了される人は多い(『春をさがして カヌーの旅(第253号)』)が、それは自然の美しさもきびしさも直に感じられるからではないだろうか。 本号は加えて、カヌーづくりも自分の手でおこなうという、木のもつ自然とも向き合っている。しない、たわみ、もどろうとする木との格闘は、流れる水と対峙しようともがく姿に通じているのだ。
表紙は、時が止まったかのような静かな水面に、カヌーの舳先だけがスッと出ている。見開きで見ると、空と、遠くの陸地と水面とのバランスが絶妙だ。大きさ以上の奥行きを感じることができる。惜しむらくは、奥付が白抜きの枠で作られていること。これがなければもっと雑音なく見られたのになあと思った。せめて裏見返しに“押し込める”ことはできなかったのだろうか。
見返しは、おもて・裏ともに、緑を基調とした森の様子が全面にプリントされていて、本を閉じて両方の見返しだけ開くと、森が広がるようなしかけになっている。こちらをメインで見せたかったのだろうか?うらは森、表は海とまさに「森から海へ」をあらわしているようで面白い。
*1:センターヨークがあり、シングルブレードパドルなのでカナディアンカヌーだと思われる。https://webshop.montbell.jp/catalog/pdf/2013_canadian.pdf