こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

キタキツネのおとうさん (たくさんのふしぎ傑作集)(第289号)

キタキツネのおかあさん (たくさんのふしぎ傑作集) (第304号)』 より一足先、およそ1年前に書かれたのがこの『キタキツネのおとうさん』だ。

『おかあさん』では、

 雌ギツネがこんなにいそがしくしているのに、雄ギツネは楽でのんきな毎日をおくっています。(『キタキツネのおかあさん』より)

なーんて書かれてしまっていたけど、本号を読めばどうしてどうして、なかなかの活躍ぶりである。オスも子育てに参加する動物*1なんて、日本ではキツネとタヌキと、そしてヒトくらいなものなのだ。

巣穴を補修したり、妊娠中のメスに食べ物を持ってきたり。巣穴周りのパトロールだってする。赤ちゃんが生まれてからは、念入りに見張りをして警戒をおこたらない。

こんなに頑張っているのに、子供たちからの人気という点では、やっぱりお母さんにかなわないのだ。

お乳がでないし、遊んでくれてもらんぼうで、いつもいたいことが多い。

どこぞのお父さんのような話ではないか。ヒトのお父さんには粉ミルク&哺乳瓶という武器があるけれど。子ギツネたちも現金なもので、

子ギツネも餌をもってきたときのおとうさんは大すきだ。

嗚呼お父さん……。忙しいパトロールの合間をぬって狩してエサ運んでるんだけどなあ。そんな努力を横からかっさらう「おかあさん」のエピソードは、かなりえげつない。お父さんが気の毒になってくるほどだ*2

お父さんが本領を発揮するのは、子ギツネが生まれて4ヶ月、体もだいぶ大きくなってきた頃だ。

それまでは、おかあさんが子育ての主役だったけれど、もうお乳もでなくなったし、らんぼうな子どもたちの相手はまっぴらとばかりに、子ギツネをおとうさんにおしつけるようになった。

“らんぼう”だったお父さんは、今や子供たちを鍛えるトレーナーだ。お父さんは子供たちの目標であり、競争相手でもある。

はじめは巣穴周りだけで遊ぶことを厳命されていた子供たちも、だんだんと遠くへ行くことを許され、親ギツネの狩りについていくまでになる。狩りの実習旅行が終われば巣立ちはすぐだ。子ギツネたちは親ギツネに激しく攻撃され、追い出されるように巣を後にする。メスの子ギツネたちが舞い戻っては攻撃され、戻っては追い出されることを繰り返す一方、オスの子ギツネたちは子別れの儀式のあとすぐその日のうちに、12キロから25キロも離れたところまで移動していた。お父さんギツネもいつの間にか去っていき、“家族”は解散。新しい土地で、オスの子ギツネたちはいつかお父さんになるのだ。子ギツネのお父さんが、生まれ育った場所を離れ、お母さんのもとにやってきたように。 

『おかあさん』は写真で構成されていたが、『おとうさん』はあべ弘士が絵をつけている。写真もいいけれど、私はこちらの絵の方が好きだ。おもて表紙の優しげな表情も、裏表紙の哀愁を感じさせる後ろ姿も味がある。本文にぴたりとはまった挿絵は、生命力にあふれどれも素晴らしい。とくに36〜37ページの、ハクチョウかなにか大型の鳥たちが飛び去っていく近景のバックに、とぼとぼ歩く子ギツネのシルエットがぽつんと描かれている絵にはグッときた。

キタキツネのおとうさん (たくさんのふしぎ傑作集)

キタキツネのおとうさん (たくさんのふしぎ傑作集)

  • 作者:竹田津 実
  • 発売日: 2013/10/20
  • メディア: 単行本

*1:おそらく哺乳動物というくくりだろう。鳥はだいたいオスメスで子育てするし。

*2:実のところ、子ギツネたちのおとうさんは、本当の父親でないことも多いようだ。交尾したもの同士でカップルになるのは半分くらい。あとの半分はなんと、自分の子でもない子ギツネたちの「おとうさん」役になるという!血のつながっていないかもしれない子を献身的に世話するとは、いやはや、人間のお父さんも真っ青なイクメンぶりである。