こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

知床 わたしの動物カレンダー(第262号)

 今朝は気温が氷点下23度、この冬いちばんの寒さです。寒さで顔がヒリヒリします。でも天気は快晴、じっとしているのがもったいないので、板の裏に滑りどめのついたスキーをはいて、森の散歩に出かけることにしました。私はこの季節こそ、森歩きがもっとも楽しい季節だと思っています。夏にはササなどがしげっていて歩くことがたいへんなところでも、どんどんはいっていくことができますし、ヤブカやダニもいません。

氷点下23度か〜。家の周りも、先日零下17度を記録した。生活範囲にこんな気温がくるのは生まれて初めてだ。NHKのデータ放送見て、目を疑ったくらいだ。この地域いくら冷えるといっても、これはけっこうな寒さらしい。顔ヒリヒリも実感した。

今朝は寒さがゆるんでマイナス5度。快晴!寒いけど晴れるのはいいものだ。雁たちもみな元気に鳴き交わしながら餌場へと急行している。雪どけもすすむし、ごはん日和だ。お腹いっぱい食べるんだよ〜。

家のまわりは、もちろん白鳥もいる。『ハクチョウの冬ごし(第309号)』の「泥の中に顔を突っ込んで一生懸命エサを取る姿」を、まさに目の当たりにしている。ぬかるんだ田んぼも何のその、顔も胴も泥だらけでひたすら食べ続けている。“みにくいアヒルの子”たちも一生懸命食べる。幼鳥らは初めての冬越しだ。白鳥たちはねぼすけで、ちょっとだけ始動が遅い。ブンブン羽音を響かせながら飛ぶようすは迫力満点だ。あんなデカいのになんで飛べるんだろう?

当地でもどこでも、たとえ東京のど真ん中であっても「わたしの動物カレンダー」を作ることはできる。しかし、各月を飾るメンバーの豪華さたるや、知床にかなうものはない。エゾシカ、エゾモモンガ、ワモンアザラシ、エゾユキウサギ、シマフクロウ、シャチ、ヒグマ、エゾリスオオワシキタオットセイ

え、ふたつ足りない?3月はキタノユウレイクラゲで、9月はカラフトマスだ。ほかのと比べると地味に見えますよね。でも、これがまたすごい。

3月は流氷で埋め尽くされた海でシュノーケリング!うーぶるぶるっ。想像しただけで凍えそうだ。

 氷の下にひろがるエメラルドグリーンの世界は、私の心を遠い宇宙の旅に誘います。クシクラゲの仲間は、SF映画の宇宙船そっくりです。葉巻型宇宙船や惑星探査機がゆっくりと進みながら、ネオンのように側面を緑や紫に点滅発光させて、宇宙人と交信しています。洗面器ほどの大きさのキタノユウレイクラゲが、宇宙ステーションです。

海はもうひとつの宇宙 (たくさんのふしぎ傑作集)(第125号)』って、こういうことですか!?

9月、カラフトマスの形態変化もすごい。ふるさとの川に戻ってきたオスは、海にいる時のお魚感が吹っ飛び、別の生きものに変貌している。ゴツゴツと背中が盛り上がり、口元は鋭い歯を見せつけるようにひん曲がっている。繁殖をかけた壮絶な闘いに備え、武装するかのようだ。死してのちなお、さらなる形態変化が。知床の動物たちの、血となり肉となるのだ。5月にもどってくるサクラマスから、9月のカラフトマス、10〜12月のシロザケにいたるまで、サケの仲間たちは、人間含め遍く命を支える大切な存在となる。

 

この「わたしの動物カレンダー」を作ったのは、13年にわたり知床博物館で勤務した獣医師さん。絵をつけたのは、絵本作家である奥様だ。それぞれの月に4ページ(12月のみ3ページ)を充てた構成で、中表紙と合わせ全48ページ、特別バージョンになっている。

カレンダーらしく、各月始めの2ページを飾る絵は、メインの動物が前面にきてポーズを決めている。濃いめの色でくっきり描かれた動物たちは、見るものにパワーを与えてくれるようだ。

1月、カレンダー最初を飾るエゾシカは、真っ直ぐにこちらを見つめている。力強さのなかに優しい光を宿しているようで愛らしい。2月、エゾモモンガの黒々した大きな瞳にやられれば、4月のワモンアザラシベビーのかわいさも反則級だ。6月のシマフクロウ、11月のオオワシ、9月のカラフトマスと、目力で圧倒する生きものたちがいれば、3月、ページ半分弱を占めて登場するキタノユウレイクラゲも、存在感では負けていない。7月のシャチ、12月のキタオットセイは、黒光りする艶やかな身体が美しい。

動物たちの存在感もさることながら、背景も同じくらいの力強さを放っている。なんといっても印象的なのが5月。青々と茂る草むらの真ん中に、エゾユキウサギの子がちょこんと陣取っている。生き生きとした緑が鮮やかだ。子ウサギも負けじとこちらを見つめている。濃い夏毛につつまれた小さな身体に、秘められた力が見えるようだ。春のエネルギーがなんともまぶしい。8月、ヒグマの顔がど迫力で登場すれば、縁取るハイマツの緑も負けじと旺盛な生命力を見せつけている。10月、かわいらしいエゾリスを彩るのは、色とりどり鮮やかな落ち葉。リスのきらっと光る目がいいアクセントだ。

各月扉のパワフルなイラストとは一変、続いての2ページは、絵の力強さはそのままに、繊細な線と柔らかなタッチで描かれている。24〜25ページの、ホワホワなシマフクロウの子どもなんて、眼光鋭い成鳥と同じものとは思えない。28〜29ページなどは、ウミウやケイマフリがにぎやかに活動するなか、すみっこにはオジロワシオオセグロカモメを捕まえている様子が。いのちの輝きに満ちた素晴らしい絵の数々だ。

絵の話ばかりしてしまったが、お話の方も興味深いエピソードが満載だ。迷子のワモンアザラシの子に苦労して餌やりする様子は、『動物のお医者さん』のデブリンを彷彿とさせる。ちなみに著者の増田泰氏も、マンガのモデルとなった北大獣医学部出身だ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/動物のお医者さん#その他の動物たち

知床でキャンプをするときの「人間とヒグマがともに生きてゆくための、大切な心遣い」。

 知床ではキャンプのとき、食べものはすべて金属製の専用容器につめたり、リュックごと高い木の枝に滑車で吊りあげておきます。高い木がないキャンプ地にはヒグマの鋭い爪や牙でもあけることができない、がんじょうな食糧保管庫が設置してしてあります。食べもののにおいをつけないために、テントにはお菓子持ち込み禁止、食事は準備もふくめてテントから離れた場所でします。

おどろいたのは、山をのぼるオットセイの話。流氷を苦手とするオットセイは、流氷が海を埋める前に南へ移動するのだが、時期早く突然の到来に、山へ迷い込んでしまったらしい。知らせを受け半信半疑で現場に急行する著者。そこには白い斜面をよじ登るオットセイの姿が!抵抗するオットセイをなんとか車に乗せ、流氷の少ない根室海峡側まで運ぶことになる。知床の漁師さんの話では、以前も「山をこえたオットセイ」がいたという。このオットセイも、放っておいたら、海を求め山を越えたのだろうか?

月刊 たくさんのふしぎ 2007年 01月号 [雑誌]

月刊 たくさんのふしぎ 2007年 01月号 [雑誌]

  • 発売日: 2006/12/02
  • メディア: 雑誌