こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

コククジラの旅 (たくさんのふしぎ傑作集) (第40号)

 ぼくは子どものころから、クジラという動物にあこがれていました。ぼくたち人間とおなじ哺乳類でありながら、一生を海のまっただなかですごすなぞ・・にみちたくらしと、それに何よりその大きさにひかれていました。 いつか、ほんとうに大海をおよぐクジラをながめたい、と考えていました。

クジラの家族(第413号)』を描いた水口博也氏の「ふしぎ」。

コククジラの旅」は、もちろん、コククジラが移動すなわち旅をするお話だが、クジラを追って著者が旅する話でもある。

夏のあいだ、アラスカのまわりの北の海でえさを食べてすごしたコククジラは、秋になると、あたたかい海で子どもをうむため、南にむかって旅を開始します。北アメリカ大陸のカナダ、アメリカの太平洋岸にそってメキシコまで、片道8000キロもの大旅行です。

季節によって、繁殖地と生息地をいったりきたり。渡りをする野鳥と似たところがある。野鳥が目的に合わせふさわしい場所へ飛び立つように、クジラも求めるところを目指し大海原を渡るのだろう。 

著者もコククジラを追って、北アメリカ大陸太平洋岸をいったりきたり。それぞれの場所で、コククジラとの出会いのよろこびを、率直に書き綴っている。

カリフォルニア州ではクジラ観光船に乗り、潮ふきの様子を目の前で見る。クジラの吐いた生臭い息の匂いにすら、親しみを感じているほどだ。アラスカでは、クジラの住む海にダイビングし、みずからクジラを体感している。

クジラを観察するだけにとどまらず、カナダでは、かつてコククジラをとって生活していた先住民の文化も訪れている。現在は保護の対象になり、捕獲することはできないので、観光船を営んで生計を立てているという。カナダの海ではシャチにも遭遇しているが、シャチはコククジラを襲うこともある恐ろしい相手だ。先日、ダーウィンが来た!で「巨大生物集う謎の海 シャチ対シロナガスクジラ」を見たが、シロナガスクジラすら仕留めてしまうほどなのだ。

「巨大生物集う謎の海 シャチ対シロナガスクジラ」 - ダーウィンが来た! - NHK

ふたたびカリフォルニア州の海。観察船からウォッチングしたときの描写は、臨場感にあふれ、見事に場面を描き出している。はじめこの本を読んだとき、パッと見の写真の地味さに物足りなさを感じていた。しかし、じっくり文章を読み返していくと、目の前に映像が浮かぶような物語に満ちあふれていたのだ。機材や技術が発達した今、写真や動画をもって語ることが多くなっているように思われるが、言葉という道具も最高の表現手段だとあらためて思わされた。

バハ・カリフォルニアの繁殖地では、まとまった期間毎日観察を試みているが、フィールドノートの一部を紹介しているところが実にいい。撮ってもすぐに画像を確認できなかった時代のこと、見たものをその場で記録しておくのは欠かせなかったことに違いない。記録に便利なデジタルツールは数々出ているし、私も恩恵を受けている一人だが、目で見る自然観察には紙とペンというのが最強のように思われる。描こうとすれば細部まで気を配って見なければならないからだ。

地味に見えるとはいったが、写真ももちろん素晴らしいものだ。とくに28ページのスパイホップ*1の写真は圧巻だ。34〜35ページ見開きいっぱい、赤ちゃんクジラの姿もかわいらしい。 

 そしてぼくは、このコククジラを追って、アラスカの北の海からメキシコのあたたかい海へと、日本から何度も出かけていきました。(しかもそれが何年もつづきました。)自分にもわからない、何かふしぎな力が、ぼくを旅立たせるような気がします。

 考えてみれば、宇宙にとびだす人、ふかい海にもぐる人、高い山にのぼる人……さまざまな情熱にかりたてられた人びとがいます。なぜそんなことをするのか、じつはその人自身さえ答えることができないのかもしれません。でも、自然の中にある、人をとりこにする何か、そして人にたくさんの冒険をなしとげる力をあたえてくれる何かを、ぼくは大切にしたいと思います。

*1:垂直の姿勢になり、数分間頭の全部か一部を水面から出す行動。コククジラの特徴的な行動の一つだという。