舞台となるのは、赤道直下のボルネオ島。主役となるのは熱帯雨林に暮らす動植物たちだ。
古い本ながら、内容は驚きの連続だ。
シメコロシ植物と呼ばれる、恐ろしい樹木。
アリノトリデという、アリと共生する植物。
見たことも聞いたこともないような動植物ばかりだ。
それもそのはず、熱帯雨林という舞台は、生息する生物の多さ、種の多様さにおいてピカイチなのだ。多種多様な生きものが暮らすだけに、複雑な生態系ができあがっている。本書ではちょっとずつ紹介されるのみだが、そのひとつひとつを詳しく知りたくなってくる。
熱帯雨林の生きものにとっての命のゆりかごは、樹木そのものだ。中でも林冠と呼ばれる部分に集中している。
熱帯の森では林冠がとりわけ重要です。というのも、植物ばかりでなく獣も鳥も昆虫も熱帯雨林の生き物の多くは、光がさしこみ葉の茂る林冠でおもに活動しているからです。
研究者にとっては難儀な舞台だ。木登りという単純かつ危険な手段に加え、ウォークウェイという吊り橋をかけたり、飛行船を飛ばしたり、クレーンを設置したり。今ならドローン調査が主流となっているかもしれない。
熱帯雨林は、一見豊かな緑が広がっているように見えるが、実は脆い土台に成り立っている。木を支える柔らかい土の層はわずか10センチ足らず。板根という板状の根っこを四方八方にのばして巨体を支えているのだ。なぜ土の層が厚くならないかいうと、落ち葉などがすぐ分解され、養分が植物に吸収されてしまうからだ。
熱帯の森の養分の多くは、土ではなく植物そのものに蓄えられている。だから、木を切り出すと森の養分をどんどん運び出してしまうことになる。熱帯雨林の木を切り出すと、森がなかなかもとにもどらないのにはこんな理由もある。
熱帯雨林には、熱帯雨林の『森の舞台うら(第397号)』の話があるのだ。
「作者のことば」には、こんなことが書かれていた。
ささやかなお願いがひとつだけあります。私はテレビの人間ですから、文章を書くときにはいつも、声に出して読みながら書いています。耳にどう響くかが気になるのです。ですから、本当はこの本も声に出して読んでいただきたいのです。どうか一度試みてください。声に出すことで、この本の新しい面を発見していただければとてもうれしく思います。
ええー鬼丸さん(作者)……けっこうこれ長いですよ。でもやってみた。
本文だけ、少し駆け足に読んで15分弱(読み聞かせで実演するなら20分はかかるだろう)。残念ながら、新しい面……ではなく「きちんと読めてなかったこと」が発見された!
私は小さな字の説明ばかりに気を取られ、本文をおざなりに読んでいたようだ。絵に目がいっているページもあり、え、こんなこと書いてあったっけ?というところまであった。
とくに顕著なのが数字。「ジャックフルーツの大きいものは30キログラムをこす」とか、読み逃したわけじゃないのだけど「小学校3、4年生の体重ほど」の方が印象に残っていた。
ウツボカズラはボルネオにことに多く、世界じゅうの半分近く、32種があるといわれています。
の“32種”もそうだ。へえ〜とか感想がもれたりして、読んだんじゃないのか!って自分にツッコミを入れたくなった。
フタバガキのなかまを説明したページ、縦にして読むよう作られているけれど、きちっと縦に向けて読んでなかったみたい。
高さはらくらく60メートルを超えますから、ビルでいえば20階建てほどの高さです。
うちのマンションが15階建だから、それよりずーっと高いことがわかる。体感で想像して、あらためて驚かされた。
アマゾンの熱帯雨林の動物を重さでくらべて推定した研究があります。それによると、全動物の重さの半分近くを昆虫が占め、そして昆虫の重さの3分の2をアリとシロアリが占めていました。
なんて、あーアリとシロアリが多いのねやっぱり、とか流してしまってた気がする。しかもこれは同じ熱帯でも、本書の舞台ボルネオじゃなく、アマゾンの話じゃないですか。はー。声に出して読むと、細部に気づかされることが多いものだ。
もちろん、ブログを書くときに、文章を読み直したり、絵の細部を見直したりしている。それでも全体をとおして同じ集中力で読み返すことはまれだ。今回音読してみた中で、自分がいかに読めてなかったかということに気付かされた……いや、こんな後ろ向きな「反省」じゃなくて、数字の部分が体感として迫ってきて新たな驚きがあったって、前向きにとらえることとしよう。
イラストは荒井真紀。のちに『ひまわり』『あさがお』と、素晴らしい絵本を手がけている。学校の読み聞かせでも使っている本だ。本号でも特筆すべきはやはり植物の描写。10ページ、ウツボカズラの繊細な描写が美しい。24〜25ページは、ページを縦づかいにしフタバガキの実の落下をダイナミックに描いている。ページの縦づかいは『ひまわり』でも、効果的に使われている。読み聞かせのときは、スムーズに向きを変えられるよう練習の必要があるけれど。36〜37ページは、キイロオオバヤドリギの花一つ一つが際立っている。存在感では負けてないハシナガクモカリドリが霞んで見えるほどだ。