むかしむかし小学生のころ、落ち葉を集めて腐葉土を作る準備をしたことがある。かさかさの枯れ葉が、どうやって土に変わるのかとても不思議だった。風に吹かれたり雨に当たったりするうち、細かくなっていくのかなあとか、それだとかなり時間がかかるよなあとか。疑問に思っていたけれど、先生に聞いたり本で調べたりするまでには至らなかった。
その後、本書に登場する「葉っぱを分解する裏方さんの代表」ーミミズ、ヤスデ、ダンゴムシ、トビムシ、ササラダニ、そしてカブトムシなどの甲虫の幼虫が、
かみくだき、さらにそれを菌が分解します。そうして、落ち葉にふくまれている養分が細かい土の粒とくっつくことができるようになります。
というようなことを知り、ようやく腐葉土の謎が解けたのだ。
私はどうやら、生きもの同士がつながって環境のバランスを保っている、という話が好きらしい。『土をつくる生きものたち』や『森を育てる生きものたち』のような本を好んで読み聞かせしてきた。おかげで子供は、おなじみの里山イベントで、モリチャバネゴキブリを見つけて指をさし「あ、ゴキブリだよ!」と近くにいた女性たちを震え上がらせたあと、「でも森のお掃除屋さんなんだよ!役に立っているんだよ」とドヤ顔で知識を披露することになった。
『土をつくる生きものたち』の最後は、「土づくりの輪」と題し、生きものたちが落ち葉を受け止め、“仕事”をそれぞれに全うし、食べたり食べられたりしながら、お互いのバランスを保って生活していることがまとめられている。ある生きもの一種類だけが栄えても、豊かな土は作れないのだ。
しかし、「土をつくる生きものたち」の話だけで終わらないのが「たくさんのふしぎ」。分解された養分を貯めたり運んだりする裏方さんの話、落ち葉の破片や土の粒などをくっつけてかたまりにする裏方さんの話、きのこなどの菌類が担う役割の話についてもわかりやすく書かれている。森の主演俳優である樹木たちは、さまざまな裏方さんに支えられて生きているのだ。
驚いたのは、どんな落ち葉であっても、よい腐葉土になるわけではないということ。葉を落とす時、養分を木に引き戻されてしまった落ち葉は、分解が遅くなり、結果として土の養分も少なくなってしまうというのだ。足下の土に栄養が乏しければ、木の成長も遅くなる、これまた落ち葉の養分も少なくなり……と「悪循環」ともいえる状態に陥ってしまう。豊かな森は豊かな土が作り、豊かな土は豊かな森によって作り出されているのだ。
『ドイツの黒い森(第153号)』では、森によって管理の方法が異なることが紹介されていた。環境がそれぞれである以上、栄養状態も、土の養分量も異なるわけで、森の育て方がそれぞれに違うのもうなずける話である。同書には、酸性雨による枯死のことも書かれているが、高度な文明を手に入れた人間は、よりよい生活を目指すため、森の環境を悪化させるだけでなく、森林自体をも破壊してきた。
レンガ、鉄、塩などをつくるための燃料として森林をかり、また農地をふやすために森林をきりつくし、そのために養分をふくんだ土が失われて食りょうの生産がへり、それが原因となってほろびてしまった文明もあると言われています。
まさに『森をそだてる漁師の話(第132号)』とつながるところがある。漁師が「森の10年は人間の1歳」というように、本書の最後で著者は、
樹木と土のなかの生きものたちが養分の循環をかさね、鬱蒼とした森ができるには、数十年から百数十年がかかります。森をささえる土ができあがるまでには、森ができる時間よりも長い時間が必要です。
と語っている。
人間には森が持つ循環の輪は見えにくい。ヒトの時間は森の時間よりずっと短いからだ。一方、こうして“森の舞台裏”を解明したり、森を育てる一翼を担ったりする人々も確かに存在している。森の生きものを見つけるには、ゆっくりしずかに、生きもののテンポに合わせる必要があるのと同じく、森を育てるためには、森の時間を知りそれに合わせ、人間も「舞台裏の一員」であることを忘れてはならないのだ。
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