表紙からつかみは完璧だ。
シャチというと大海原でゆうゆうと泳ぎまわるイメージがあるが、主人公シャチの姿は緑濃き森に沈んでいる。一見沈んでいるようには見えるが、黒々とした体躯を光らせ、白いしぶきを上げる様子は存在感たっぷりだ。
なかの写真も素晴らしすぎて、文章に集中するのになかなか苦労した。
シャチは海にすむ動物。だから本来の姿は海のなかでしか撮れないものだ。しかし本書のシャチのほとんどは海の上で撮られたもの。にもかかわらず、躍動感あふれる写真がずらりと並んでいる。
躍動感だけでなく、親子が寄り添うさまや、子シャチたちが遊ぶ様子、狩りの機会をうかがってアザラシと対峙するシーンなどなど、心動かされる写真が盛りだくさんだ。とくに38ページから最終ページにかけての写真は、しみじみ素晴らしい。ぜひご覧になっていただきたい。
写真は作者水口さんだけのものではなく、他の人が撮ったものもある。説明文に合ったものがあればそれを選んで付けているのだ。なかの写真も素晴らしすぎるとは書いたが、決して写真ありきの絵本ではない。
副題の「伝統を受けついで生きる」。
これは『クジラの家族(第413号)』でも触れたように、シャチはそれぞれ、自分たちのすむ環境や獲物に合わせた生活をし、その伝統を家族のあいだで受け継いでいるということだ。
シャチは、北極の氷のあいだから赤道直下まで、そして南極の氷のあいだまでと、地球上のほぼすべての海に生息しています。そして、それぞれの海のシャチたちが、自分たちがすむ海の環境にあわせて、独自のくらしをしています。
興味深かったのは、同じ南極海でも、グループによって狙う獲物や狩りの仕方が異なること。グループによって、体調や模様など身体の特徴も違うのだ。大きいものはクジラなどを狙うし、小さいものはもっぱら魚類を狙って食べている。最近になって見つけられたグループ「タイプD」などは、まだまだ暮らしぶりが謎につつまれているらしい。
(おそらく子供たちにとっては)ショッキングな写真、描写もある。具体的なところは本書をあたってみてほしいが、自然の厳しさを実感すること請け合いである。
子供が32〜33ページの見開き写真(シャチがクジラを狩る様子)を見て真っ先にいうには、
あ、これアカアシミズナギドリだよ〜
そっちかーい。
画面のメインをはるシャチvs.クジラのそこかしこに、ちょこちょこと散りばめられた海鳥。私など目にも留めなかったくらいだ。まあホント、人間の目は、興味のあるものが真っ先に飛び込んでくるようになっている。
裏表紙の写真も地味にいい。シャチだけにスポットを当てるのではなく、背景をも大きく入れることで、シャチも大自然の一部なのだということを教えてくれているようだ。