こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

風車がまわった!(第197号)

一編の短編映画を見ているようだ。

舞台となるのはデンマークサムスー島。チーズ好きの方はサムソーの名でご存知かもしれない。

主人公はもちろん「風車」。表紙の風車そのものだ。

この風車は木でできている。屋根は茅葺き。まるで農家の小屋のようだ。

歯車も木。

「風で風車の羽根がまわると、この大きな木の歯車が回転して石うすをまわすってわけだ」

石うすをまわす……この風車は粉挽きをするために使われてきたのだ。

主人公はもうひとりいる。

この風車を愛してやまないエーリックという少年だ。

毎日のように風車に会いにくるエーリック。そんな彼を見た風車番のヨーンじいさんは、ある時、なかを見せてやろうと案内してやる。

「こんなりっぱな風車をつくれるようになりたいなあ。風車も風車小屋も、歯車だって木でできているのをつくるんだ」

エーリックは長じて大工になったが、風車をつくることはなかった。たまに修理の仕事が来るくらい。ここデンマークでも、風車はお役御免の運命にあったからだ。動力が石油や天然ガスによる電力に置き換わると、風車は少しずつ姿を消していった。

あの風車は残った。しかし、島に残る2台のうちの、1台になってしまった。ヨーンじいさんも、もういない。風車は死んだも同然だった。

やがて、エーリックは年をとり、仕事をやめることになりました。そのときに、それまでたくわえていたお金で、仲間といっしょに、あの家の形をした風車小屋を手に入れました。

エーリックと仲間たちは、その後どうしたか?

映画の山場と結末を書くなんて、無粋なことはしたくないものだ。(入手しづらいが)本号を手にとっていただくか、ご想像におまかせすることにしよう。

奇を衒わず、シンプルに素朴に描かれたイラストは、現地の空気感まで伝わるようで心地よい。合間には、風車の構造や石臼のつくり、風車の種類などが解説されている。

Samsø Museum | Brundby Stubmølle er en af de 16 stubmøller

風車がまわった!たくさんのふしぎ 2001年8月号

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「ふしぎ新聞」で特筆すべきが、読者からのおたよりコーナー。そのうちの一通、福島からのお便りに驚いた。

私は18歳の主婦デス。私は創刊号から『たくさんのふしぎ』を読んでいます。

と来たもんだ。

私なんて彼女より年上だけど、2001年当時、結婚なんか考えもしなかったよ。

彼女は結婚して家を出るときに「たくさんのふしぎ」を持ってきたという。処分すると言われたからだ。

そしたら、私のだんなが毎日寝る前に『たくさんのふしぎ』を読む様になりました。普段、本を読まない人が真剣に読んでいる事にビックリしました。

まあうちの旦那も読んでるけど、この場合、妻が子供のころに読んでた本っていうのがいいじゃないですか。

今年の3月4日に子供が生まれたのですが、子供にもぜひ『たくさんのふしぎ』を読ませたいです。これからも毎号かかさずに買いたいです。

それから20年後の今、このとき生まれたお子さんは20歳になっているはずだ。「たくさんのふしぎ」を読んできただろうか?38歳になった今も彼女は読んでいるだろうか?

 

<2021年12月17日追記>

『風車がまわった!』の最後には、こんなことが書かれている。

 いま、サムスー島は、風力発電などの新しいエネルギー開発に取り組む島として知られています。島のなかには、ところどころに、小型の風力発電機が立っています。そればかりではありません。陸からすこし離れた海のなかには、ヒューン、ヒューンと音を立てながら、まっ白なプロペラの大きな風力発電機が10機まわっています。

 丘の上では、エーリックの木の風車が、新しいプロペラの風車を見守るようにゆっくりとまわっています。

風の島へようこそ』は、その「新しいエネルギー開発」の経緯を描いた絵本だ。

こちらの主役は「新しいプロペラの風車」、電気を生み出す風車だ。

きっかけとなったのは、デンマーク政府主導の「エネルギー自活プロジェクト」。政府は、1970年代のオイルショックを機に、風力発電を中心とした代替エネルギーへの転換を早くから模索してきた。そこでモデルとして、100%自然エネルギーでまかなうコミュニティを公募することになった。サムスー島はそれに応募し、モデル地域に選ばれたというわけだ。プロジェクトを進める中心人物となったのは、地元中学校で環境学を教えていたソーレン・ハーマンセン氏。

プロジェクトは最初から順調だったわけではない。とくに住民たちの理解を得るには、地道な話し合いが必要だった。『風の島へようこそ』の13〜14ページには、住民たちから寄せられた「本音」がかかれている。私もつい言ってしまいそうな「本音」だ。

けれども、ハーマンセンさんは、けっしてあきらめませんでした。

あちこちで、なん度となくあつまりをひらき、島の人たちと話をしました。

「わたしたちのまわりには、いろいろなエネルギーがあるんです。

どうすれば、それをうまくつかいこなせるか、いっしょに考えませんか」

(『風の島へようこそ』15ページより)

かつて島の電気は、デンマーク本土から海底ケーブルを通して送られてきていた。火力発電所でつくられた電気だ。それが今では、沖合に建設された風車(『風車がまわった!』で書かれるところの「陸からすこし離れた海のなかに立つ、まっ白なプロペラの大きな風力発電機」)からのものを含めると、1年間に生み出される電力は島内の消費量を上回るという。逆に余った電気を本土に送っているのだ。

デンマーク・サムソ島で100%自然エネルギーを実現/ソーレン・ハーマンセン氏インタビュー - SYNODOS

※ このインタビューのなかの、クストーに大きな影響を受けたという話が興味深い(『海はもうひとつの宇宙 (たくさんのふしぎ傑作集)(第125号)』参照)

エコアカデミー第79回 「コミュニティパワーで100%自然エネルギーの島から次のステップへ:デンマーク、サムソ(市)島」|ECOネット東京62ホームページ

コミュニティー・パワーの島:デンマーク・サムソ島 | 自然エネルギー財団

 

気候や風土、地理条件が異なる日本で、そのままこれを導入することはできないだろう。バーダーの端くれとしては、風力発電太陽光発電が、野鳥に及ぼす影響も気になるところだ。

風力発電が鳥類に及ぼす影響|読み物コーナー|山階鳥類研究所

http://assess.env.go.jp/files/0_db/contents/4641_13/mat_4_3_1.pdf

逆に太陽光パネルが鳥害を受けることもある。

鳥害について - コラム - 鳩よけ・鳥害対策なら株式会社コーユー

 

それでも、地球温暖化など深刻な環境問題への対策は待ったなしだ。私にすぐできるのは、せいぜい暖房器具の温度設定を調整すること、自家用車の利用を控えめにすることくらいだろうか。もっとも今年は灯油もガソリンもえらい高いので、自然控えめにせざるを得ないのだが……。