毎朝、新聞を取りに行くついでに、マンションの非常階段を上がっている。運動不足解消のためだ。
我が家は、この町にしては珍しい高層マンション*1だ。周囲に田園風景が広がるなか、虫の季節は夜、巨大な誘蛾灯状態になる。まんま誘蛾灯でガの種類は本当に多い。大きいものから小さいものまで、白、茶、ピンクなどカラフルなものたちが、あちこちに留まってたり飛んでたりする。蛾大嫌いな夫はぎゃあぎゃあ騒ぐけど、私はいろんな種類を見られて楽しい。
昆虫以外もコウモリが休憩に来てたり、屋上ではチョウゲンボウが子育てしたり。外廊下の手すりに、幼鳥が止まってるのを見た時は驚いたものだ。ベランダで鳴くイソヒヨドリの甲高い美声で朝起こされることもあった。マンションに居ながらにして生きもの観察ができる*2のだ。
非常階段には、バッタやカマキリはもちろん、セミも来る。コクワガタを見かけたこともあるし、でっかいシロスジカミキリが来てたこともある。ある時期にはゾウムシみたいなのが大量発生してたり、結婚飛行後のオスアリたちの死骸が散らばってたり。秋口にはケラがうろちょろしてたこともあった。ケラなんて初めて見たかも。子供はプラケースにいっぱいケラを捕まえて観察してたが、とらわれの身を厭い解放してくれとばかり蠢く彼らに、さしもの私もちょっとゾワゾワした。
だから捕食者たちにとってはうってつけの食堂になる。朝はあちこちに食べ残しが見られ、管理清掃してくださる方もなかなか大変そうだ。ちょっと前まではトンボの羽がいっぱい散らばっていた。さすがにもうたいがいの昆虫は鳴りを潜めたが、まだ少しやってきているのがアキアカネ。その命の最期を非常階段で迎えたり、あるいは迎えようとしているのだ。昨日今日とそれぞれ4〜5匹くらい、見かけただろうか。暑さに弱いとはいえ、霜が降りるほどの寒さをなお生き抜いているのにびっくりする。彼らの子供(卵)たちは今ごろ、田んぼの土に守られぬくぬくと過ごしていることだろう。


本号『空とぶ宝石 トンボ』は、このトンボをテーマにした写真絵本だ。
上で写真をあげたハグロトンボについて、まさにドンピシャなことが書かれている。
カワトンボの中で、いちばんぼくたちにみぢかなのは、ハグロトンボだ。ほそい水路がちかくにあると、意外にも、家の中まで入り込んでくる。
家の近くはほそい水路だらけ、我が家にやってくるのも当然だったのだ。
虫が嫌いな人も、トンボならまだ大丈夫という人は多いのではないだろうか。とは言え、初っ端にはアオヤンマのけっこうな“どアップ写真”があるので注意されたし。
トンボの目玉が、こんなにも大きいのは、すばしこい小さな虫をおいかけてつかまえるのに、べんりだからだろう。それにしても、種類やオス・メスのちがいによって、目の色がみんなちがうので、ならべてみると、まるで宝石のようだ。
まるで宝石を陳列するかのように、トンボの姿が並べられている。
【ヤンマ、エゾトンボのなかま】13種類 12〜13ページ
【アカトンボのなかま】9種類 18〜19ページ
【シオカラトンボのなかま】10種類 26〜27ページ
【イトトンボのなかま】9種類 29ページ
【サナエトンボのなかま】13種類 32〜33ページ
【カワトンボのなかま】5種類 35ページ
大まかに6つの仲間に分けられ、それぞれ色と形がわかりやすいよう、白をバックに写真が載せられている。ちょっとしたトンボ図鑑のようだ。
それゆえ、多くの子供たちに愛されてきたようで、図書館で借りてきた本はボロボロだった。
著者の今森さん自身、かつて熱烈な昆虫少年だったという。
ぼくはカメラをもって、今でもトンボをおいかけている。その理由の一つは、トンボたちには少年時代の思い出がいっぱいつまっているからだ。でも、そればかりではない。トンボのすがたをとおして、まわりの自然がどれくらいゆたかであるのかを、知ることもできる。
『トンボのくる池づくり(第159号)』でも書いたとおり「トンボは環境の変化をいち早く教えてくれるバロメーター」なのだ。
図鑑のようだとは書いたが、本書が図鑑とは決定的に異なる点もそこにある。琵琶湖周辺という生息環境との密接な関わりを含めて、トンボを描いているからだ。琵琶湖周辺は、そこで生まれ育ち、現在もアトリエを構える今森さんにとって、勝って知ったるフィールドそのもの。トンボへの愛はそのまま故郷への愛につながっているのだ。
トンボへの愛……図鑑と違うのはもう一つ、その愛を惜しみなく表現していることだ。
あこがれのトンボがアオヤンマだと知ったのは、それから何年かあとのことだが、ぼくは、そのうつくしい目と出会ったときいらい、すっかりトンボのとりこになってしまった。
ぼくがうれしくおもうのは、さいきん、農家の人が水田にあまりつよい農薬をつかわなくなったので、このトンボがふえてきたことだ。
黒い羽をなびかせて、おどるように舞うようすは、人なつっこさがかんじられ、ぼくはとても好きだった。
今もなお、トンボを愛する今森さんの姿は健在だ。
琵琶湖とトンボ 〜チョウトンボ | 連載コラム | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス
2ページ目、オオシオカラトンボを手に、無茶苦茶いい笑顔で写っている。