こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

空とぶ宝石 トンボ(たくさんのふしぎ傑作集)(第100号)

毎朝、新聞を取りに行くついでに、マンションの非常階段を上がっている。運動不足解消のためだ。

我が家は、この町にしては珍しい高層マンション*1だ。周囲に田園風景が広がるなか、虫の季節は夜、巨大な誘蛾灯状態になる。まんま誘蛾灯でガの種類は本当に多い。大きいものから小さいものまで、白、茶、ピンクなどカラフルなものたちが、あちこちに留まってたり飛んでたりする。蛾大嫌いな夫はぎゃあぎゃあ騒ぐけど、私はいろんな種類を見られて楽しい。

昆虫以外もコウモリが休憩に来てたり、屋上ではチョウゲンボウが子育てしたり。外廊下の手すりに、幼鳥が止まってるのを見た時は驚いたものだ。ベランダで鳴くイソヒヨドリの甲高い美声で朝起こされることもあった。マンションに居ながらにして生きもの観察ができる*2のだ。

非常階段には、バッタやカマキリはもちろん、セミも来る。コクワガタを見かけたこともあるし、でっかいシロスジカミキリが来てたこともある。ある時期にはゾウムシみたいなのが大量発生してたり、結婚飛行後のオスアリたちの死骸が散らばってたり。秋口にはケラがうろちょろしてたこともあった。ケラなんて初めて見たかも。子供はプラケースにいっぱいケラを捕まえて観察してたが、とらわれの身を厭い解放してくれとばかり蠢く彼らに、さしもの私もちょっとゾワゾワした。

だから捕食者たちにとってはうってつけの食堂になる。朝はあちこちに食べ残しが見られ、管理清掃してくださる方もなかなか大変そうだ。ちょっと前まではトンボの羽がいっぱい散らばっていた。さすがにもうたいがいの昆虫は鳴りを潜めたが、まだ少しやってきているのがアキアカネ。その命の最期を非常階段で迎えたり、あるいは迎えようとしているのだ。昨日今日とそれぞれ4〜5匹くらい、見かけただろうか。暑さに弱いとはいえ、霜が降りるほどの寒さをなお生き抜いているのにびっくりする。彼らの子供(卵)たちは今ごろ、田んぼの土に守られぬくぬくと過ごしていることだろう。

f:id:Buchicat:20211201140304j:plain
f:id:Buchicat:20211201140253j:plain
うちに来たハグロトンボ & 非常階段のアキアカネ

本号『空とぶ宝石 トンボ』は、このトンボをテーマにした写真絵本だ。

上で写真をあげたハグロトンボについて、まさにドンピシャなことが書かれている。

 カワトンボの中で、いちばんぼくたちにみぢかなのは、ハグロトンボだ。ほそい水路がちかくにあると、意外にも、家の中まで入り込んでくる。

家の近くはほそい水路だらけ、我が家にやってくるのも当然だったのだ。

 

虫が嫌いな人も、トンボならまだ大丈夫という人は多いのではないだろうか。とは言え、初っ端にはアオヤンマのけっこうな“どアップ写真”があるので注意されたし。

 トンボの目玉が、こんなにも大きいのは、すばしこい小さな虫をおいかけてつかまえるのに、べんりだからだろう。それにしても、種類やオス・メスのちがいによって、目の色がみんなちがうので、ならべてみると、まるで宝石のようだ。

まるで宝石を陳列するかのように、トンボの姿が並べられている。

【ヤンマ、エゾトンボのなかま】13種類 12〜13ページ 

【アカトンボのなかま】9種類 18〜19ページ

シオカラトンボのなかま】10種類 26〜27ページ

イトトンボのなかま】9種類 29ページ

【サナエトンボのなかま】13種類 32〜33ページ

【カワトンボのなかま】5種類 35ページ

大まかに6つの仲間に分けられ、それぞれ色と形がわかりやすいよう、白をバックに写真が載せられている。ちょっとしたトンボ図鑑のようだ。

それゆえ、多くの子供たちに愛されてきたようで、図書館で借りてきた本はボロボロだった。

著者の今森さん自身、かつて熱烈な昆虫少年だったという。

 ぼくはカメラをもって、今でもトンボをおいかけている。その理由の一つは、トンボたちには少年時代の思い出がいっぱいつまっているからだ。でも、そればかりではない。トンボのすがたをとおして、まわりの自然がどれくらいゆたかであるのかを、知ることもできる。

トンボのくる池づくり(第159号)』でも書いたとおり「トンボは環境の変化をいち早く教えてくれるバロメーター」なのだ。

図鑑のようだとは書いたが、本書が図鑑とは決定的に異なる点もそこにある。琵琶湖周辺という生息環境との密接な関わりを含めて、トンボを描いているからだ。琵琶湖周辺は、そこで生まれ育ち、現在もアトリエを構える今森さんにとって、勝って知ったるフィールドそのもの。トンボへの愛はそのまま故郷への愛につながっているのだ。

トンボへの愛……図鑑と違うのはもう一つ、その愛を惜しみなく表現していることだ。

 あこがれのトンボがアオヤンマだと知ったのは、それから何年かあとのことだが、ぼくは、そのうつくしい目と出会ったときいらい、すっかりトンボのとりこになってしまった。

ぼくがうれしくおもうのは、さいきん、農家の人が水田にあまりつよい農薬をつかわなくなったので、このトンボがふえてきたことだ。

黒い羽をなびかせて、おどるように舞うようすは、人なつっこさがかんじられ、ぼくはとても好きだった。

 

今もなお、トンボを愛する今森さんの姿は健在だ。

琵琶湖とトンボ 〜チョウトンボ | 連載コラム | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス

2ページ目、オオシオカラトンボを手に、無茶苦茶いい笑顔で写っている。

<2023年7月3日追記>

フレ!フレ!100まんべん(第93号)』で予告した、第1号〜100号までの記事一覧を発行番号順にご紹介する。

第1号    いっぽんの鉛筆のむこうに
第2号    はてなし世界の入口
第3号    草や木のまじゅつ     
第4号    庭にできたウサギの国
第5号    恐竜はっくつ記
第6号    バッタのオリンピック
第7号    どうくつをたんけんする
第8号    地球は日時計
第9号    ことばをおぼえたチンパンジー
第10号  ある都市のれきし 横浜・330年
第11号   夢ってなんだろう
第12号   御殿場線ものがたり
第13号   外国の小学校
第14号   おしっこの研究
第15号   町のスズメ 林のスズメ
第16号   ブラックバス
第17号   さかさまさかさ
第18号   アメリカ・インディアンはうたう     
第19号   空をとぶ
第20号   アラスカたんけん記
第21号   ヒツジのおくりもの
第22号   カメラをつくる 
第23号   鬼が出た
第24号   雑木林の1年
第25号   2本足と4本足
第26号   ハチヤさんの旅
第27号   音楽だいすき
第28号   サンゴしょうの海
第29号   セミのおきみやげ     
第30号   つばさをもった恐竜族
第31号   ドキドキドキ心ぞうの研究     
第32号   ぐにゃぐにゃ世界の冒険
第33号   粉がつくった世界
第34号   青函連絡船ものがたり
第35号   ナイル川とエジプト
第36号   言葉はひろがる
第37号   日本じゅうの4月1日
第38号   拝啓・手紙です
第39号   鳥の目から見たら
第40号   コククジラの旅
第41号   星空はタイムマシン
第42号   すてきにへんな家
第43号   木のぼり入門
第44号   100まで生きる?
第45号   カレーライスがやってきた
第46号   迷宮へどうぞ
第47号   ズボンとスカート
第48号   ぼくらの天神まつり
第49号   なぜまるい?
第50号   やねはぼくらのひるねするばしょ
第51号   ヒグマのくる川
第52号   分類ごっこ
第53号   あっ、流れ星!
第54号   きみの楽器はどんな音
第55号   アイヌネノアンアイヌ
第56号   本のれきし5000年
第57号   クリスマス・クリスマス 
第58号   森の小さなアーティスト
第59号   わたしのマーブリング
第60号   手紙で友だち 北と南
第61号   風はどこからくるのだろう
第62号   海藻はふしぎの国の草や木
第63号   アナログ? デジタル? ピンポーン!
第64号   地下につくられた町・カッパドキア
第65号   花がえらぶ 虫がえらぶ
第66号   飛びたかった人たち
第67号   ゆうれいをみる方法
第68号   ガラス 砂の宝石
第69号   シベリア鉄道ものがたり
第70号   アマゾン・アマゾン
第71号   劇団ふしぎ座 まもなく開幕!!
第72号   海鳥の島
第73号   10才のとき
第74号   はしをわたらずはしわたれ
第75号   かぼちゃ人類学入門
第76号   うまれる
第77号   石ころ 地球のかけら
第78号   アリジゴク 百の名前
第79号   ノラネコの研究
第80号   アンデスのリャマ飼い
第81号   ミクロの世界
第82号   日本の自動車の歴史
第83号   龍をおう旅
第84号   バルセロナ建築たんけん
第85号   似たもの動物園
第86号   虫こぶはひみつのかくれが?
第87号   河童よ、出てこい
第88号   スイス鉄道ものがたり
第89号   大きなヤシの木と小さなヤシ工場
第90号   ヤマネはねぼすけ?
第91号   宇宙のつくりかた
第92号   小麦・ふくらんでパン
第93号   フレ!フレ!100まんべん
第94号   きみはなにどし?
第95号   魔女に会った
第96号   絵とき ゾウの時間とネズミの時間
第97号   浜辺のたからさがし
第98号   ニレの中をはじめて旅した水の話
第99号   イェータ運河を行く
第100号  空とぶ宝石 トンボ

 

※この辺りのバックナンバーをそろえている図書館はなかなかありません。しかし「たくさんのふしぎ傑作集」として再出版されているものも多いです。

*1:大きめの地震が頻発する地域、地震でエレベーターが止まることもある。一軒家を買えるのにわざわざマンションを選ぶ人は多くない。ただ断然暖かいのと、雪かきの手間がないのだけはメリットだ。

*2:こちらの学校に転校して初めて届いた「不審者情報」メールは、カモシカ出没によるものだった。しかも家のすぐ近く。カモシカなんて山でしか見たことないよ!