「どっちがどっち?」はいつも面白い。
どっちがどっち?SP | ミミクリーズ | NHK for School
コント仕立てながら、似たもの同士の違いがしっかりわかるようになっている。
『似たもの動物園』で中表紙と裏表紙を飾る、タヌキとアライグマ。
ミミクリーズでも「ドッチガドッチーズ」として出演している。
めのまわり くろ | ミミクリーズ | NHK for School
指の違いのところで、アライグマが急に現実感を出すところがなかなかに切ない。タヌキは“不器用”で鳴らす生きものだから。一緒にされたくないということなのか、アライグマくんよ……。
似ている、似たものというが、似るというのはすなわち同じではないということ。
同じように見える。共通点がある。だけど同じではない。
ミミクリーズの「どっちがどっち?」でクローズアップされるのは、違いの方だ。
一方『似たもの動物園』は、似たところに着目している。
ミミクリーズのオープニングで、似ているものには、ワケがある♪と歌われる、そのワケを探る本なのだ。
ハリモグラとハリネズミは、体じゅうが針だらけ。どちらも体をまるめて針のボールになる。
この二つの動物は、体つきも、体をまるめるやりかたも、そっくりだ。
でも、かれらは、しんせきではない。
親戚ではない、というのはどういう意味か。ハリモグラは単孔目、すなわちカモノハシのなかまだけれど、ハリネズミは食虫目、つまりモグラのなかまなのだ。
……と本文では解説されているが、現在「食中目」は正式な分類群として使われていないようだ。Wikipediaで理解した限りは、ハリネズミは真無盲腸目のハリネズミ科に分類されるが、真無盲腸目の中にはモグラ科も含まれているので、大雑把に捉えれば「モグラのなかま」としてしまって良いのかもしれない。
どちらも鎧のような硬い鱗状のものをまとっており、体をまるめることができる。こちらもよく似ているが「しんせきではない」。
本文ではアルマジロは貧歯目、センザンコウは有鱗目とされているが、やはり今では分類し直されているようで、アルマジロは被甲目、センザンコウは鱗甲目となっている。
つまりは似たもの同士それぞれ二つの動物たち、そこには似ているワケがあるというのだ。
体をボールのようにまるめると、やわらかいおなかが針やよろいのなかにかくれるから、敵に食べられない。つまり、このやりかたは、小さくてよわい動物が、キツネのような敵から身をまもるためには、とても効果がある。
そんなわけで、いろいろな動物が、同じような体つきになってしまった。
7ページには、その他ヤマアラシ、ハリテンレック、ハリセンボンが紹介されている。
いま、この地球上には、18のグループ(目)の祖先からうまれた約4200種の哺乳類が生きている。ところが、ちがった祖先をもつ動物どうしなのに、体つきや行動のしかたが似ている「そっくりさん」が何組もいる。
本号の英題は"The World of simillar Mammals"。哺乳類についての「そっくりさん」、収斂進化をみていこうという話なのだ。
クジラとマナティのようなわかりやすい例だけではない。意外なところにも「そっくりさん」を見ているのが面白い。
たとえばチンパンジーとラッコ。チンパンジーは実を取り出して食べるため、石を使ってアブラヤシの殻を割る。そのために使う石はいつも決まっているのだという。ラッコもまた、ご存知のように石で貝を割って食べる。こちらもお気に入りの石を、いつも脇の下に挟んで持ち歩いているというのだ!
カンガルーの「そっくりさん」を見るのは、なんとトビネズミ。あまりにサイズが違うけれど、確かに似ているところがある。跳ねやすい足の形状とか、長い尾でバランスを取っているところとか。
「作者のことば」では、収斂現象についてもう少し詳しく解説されている。
祖先がちがうのに、そっくりになること
というのがポイントだ。たとえばサルはヒトに似ているが、これは祖先が同じだから。親戚同士が似てくるのは当たり前で、この場合は収斂現象とは言わない。
なぜ収斂で似るのと、親戚で似るのを区別しなければならないのか?
分類の問題に関わってくるからだ。
今でこそ、遺伝子のDNA配列を調べ、比較して系統を推定する分子系統学が進んでいるが、古くは形態が似ているものを同じグループとするのが基本だった。
長いあいだ、世界じゅうの研究者は、すべての生きものの親類同士をまとめて、グループにわけてきました。それでも、収れんによる「そっくりさん」にだまされて、同じ親類にふくめてしまったことも、しばしばあります。今でも、親類ではない「そっくりさん」が、グループのなかにまぎれこんでいるかもしれません。(本号「作者のことば」より)
以前も触れたが、ハヤブサはかつて「タカのなかま」とされていたものの、分子系統解析により今ではスズメやインコに近いグループとなっている(『都会で暮らす小さな鷹 ツミ(第444号)』)。
8〜9ページに描かれる真獣類を起点とした分類も、今では多少異なる点がある。
もしかしたらわかりやすくするために簡略化したところもあるのかもしれないが、食虫目の扱いなどは大きな変化があり、系統樹の枝分かれも複雑化している。今後も新たな知見や新種の発見でどんどん変わっていくのは必定だ。
哺乳類の分類と進化 - 特別展「大哺乳類展2」(国立科学博物館)- : 発想法 - 情報処理と問題解決 -
こういった内容の号は情報がどんどん更新される宿命にあるので「たくさんのふしぎ傑作集」としては出されにくい。しかしこういう内容こそ、月刊誌「たくさんのふしぎ」ならではのものなのだ。普通、小学生に収斂現象を教えるなら、図鑑内のトピックとして扱うとか、生きものの不思議系の本で1章割くとかいう程度になる。それが「たくさんのふしぎ」では、収斂現象というワンテーマでまるまる1冊の本を作っているのだ。
子供は繰り返しが大好きというのは、子供に関わったことのある方なら実感するところだろう。物語絵本の「繰り返し」とはちょっと違うけれど、手を替え品を替えじっくりテーマを掘り下げるというのは、子供の理解の大きな手助けになるのではないだろうか。