こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ノラネコの研究(たくさんのふしぎ傑作集) (第79号)

昨年、猫の島に行ってきた。

大泊港近くの鹿嶋神社鳥居前でさっそく猫がお出迎え。ちょっと上がった神社に行くまでも、いるわいるわ猫猫猫……。猫神社に着いたらもっといた。そこから「田代島にゃんこ共和国 島のえき」までの道にも猫。猫好きにはパラダイスのような島だ。

子供は、航路で鳥探しに勤しんでいたので弁当を食べ損ねていた。遅くなった昼を食べようと「島のえき」に置かれたベンチで弁当を広げると、わらわらと猫が寄ってくるではないか!誰かしらおかずを掠め取ろうとするので、油断も隙もない。テーブルだろうが何だろうがお構いなしに上がってくる。あわてて立ち上がろうとする子供の腕にまで手を掛ける始末。「お食事は島のえきの中で」と注意書きがある理由がよくわかった。

子供が引っ込んでからも、私たち夫婦には何かもらえると期待したのか、いっこうに離れる気配がない。荷物の上に図々しく座り込む奴も。ドーピング岩合さん状態だ。別のお客さんがビールとおつまみを持ってベンチに腰を下ろした途端、潮が引くように去っていった。

f:id:Buchicat:20200720110751j:plain
f:id:Buchicat:20200720110453j:plain
島の猫たち

『ノラネコの研究』は、この猫たちのような、いわゆる野良猫を調査した本だ。

 アフリカの草原やアマゾンのジャングルに行かなくては、動物の研究はできないと思っていませんか?でも、それはおおきなまちがい。わたしたちの身近にいる動物でも、よく観察してみると、いろいろな発見があります。

 たとえば、ノラネコ。えー、ネコ?ネコなんか……といわないで。わたしは町で見かけるノラネコたちが、どんなくらしをしているのか研究しています。

たかがノラネコ、されどノラネコ。ノラネコは“会いに行ける野生動物”ともいえるのだ。

 でも、わたしがいちばん好きなのは、主人公のネコをきめて、その後をこっそりついていって、ネコが1日何をしているのかしらべるやり方です。

「主人公のネコ」は「ナオスケ」。作者がナオスケを追うさまは、ストーカーそのもの。ひょっとするとストーカー以上かもしれない。

観察は忍耐力勝負。10:00に観察を始めたはいいものの、寝ているナオスケを発見しただけ。彼が目をさましたのはそれから40分後、動き出したのはそれから20分後という始末。

ネコに付き合うのも大変だ。じっと待つだけのこともあれば、不意の動きに慌てることも。塀の向こうに消えたのに急いで回り込みをかけるとか、追跡には苦労も多い。

観察は夜まである。いや、翌朝まで続くのだ!

夜になると見失うことも多くなる。現れそうなところに目星をつけて、探し回らなければならない。

翌朝といっても、22:30に陣取った場所で寝てしまってから、著者もウトウトし始め結局5時過ぎまで眠ってしまう。え、外で?そう、外で。九州の海辺の町とはいえ、10月の夜はそれなりに寒いことだろう。いやはや、フィールドワークは大変なものだよ。

面白いドラマが起こるわけでもない。

ネコを知ってればわかると思うが、奴らほぼ寝てるよね?36〜37ページにまとめられた一日の様子は、大部分が「ねる」という言葉で占められている。

大草原のノネコ母さん (たくさんのふしぎ傑作集)(第130号)』もそうだったが、伊澤先生の語り口はあくまで軽やか。実に楽しそうだ。自分もやってみたくなる。先生は、ノラネコの生活をのぞいてみない?と子供たちを誘っているのだ。この本はナオスケの一日を紹介するだけでなく、フィールドワーク(研究)を見せる本でもある。

世界じゅうのいろんなところで、ノラネコたちは、少しずつちがうくらし方をいっしょうけんめい考えているのではないかしら。

あなたの街の“ナオスケ”は、どんなくらしをしていますか。

 

[彩職賢美]琉球大学 理学部教授の伊澤雅子さん|イリオモテヤマネコ研究|fun okinawa~ほーむぷらざ~

『ノラネコの研究』は韓国、フランス、中国などでも出版されているという。『地球は日時計(第8号)』もそうだが、海を渡る「たくさんのふしぎ」も多い。

ノラネコの1日を追った、ネコ観察記録 『ノラネコの研究』|ふくふく本棚|福音館書店公式Webマガジン

奥付にある取材協力には、山根昭弘氏の名前がある。

山根先生は野良猫の生態研究で知られる通称「ねこ博士」だ。福岡県・相島で長年フィールドワークを行っている。

ダーウィンが来た!の猫特集でも協力しているので、ご存知の方もいるだろう。

第481回「潜入!秘密のネコワールド」

第529回「ネコ大特集!(1)男はつらいよ!」

第530回「ネコ大特集!(2)荒ぶるオスの真実」

などだ。

わたしのノラネコ研究』によると、山根先生がノラネコの道に入ったのは、先輩である伊澤先生の誘いがきっかけだった。

ノラネコは、自分の目で、簡単に詳しく観察できる野生動物だという。厳密には野生ではないが、それに近い暮らしをしている。野生の哺乳類をこんな風に観察できることなど滅多にない。

 ノラネコの研究をすることの意味は、ノラネコをくわしく観察することによってわかったことが、ほかの野生の哺乳類の社会や生態のナゾ(たとえば、どのように生活しているのか?)をときあかす大きなヒントになることです。また、動物や哺乳類についてのいろいろな疑問を、ノラネコをくわしく調べることによって確かめることもできます。つまり、動物の話題を先どりする最先端の研究ができるのが、ノラネコなのです。(『わたしのノラネコ研究』21ページより)

相島はかつて伊澤先生が調査をしていた場所でもある。明記はされてないがおそらく『ノラネコの研究』の舞台も相島に違いない。

34ページの「ネコの名前のつけ方」には「ナオ助」も登場しているが、これはあの「ナオスケ」だろうか?写真を見ると『ノラネコの研究』のイラストと似てる感じがする。もっとも伊澤先生のときから10年以上経っているということなので、同じ名前の別の猫かもしれない。いつもナオナオ鳴くので「ナオ助」とつけられたそうだ。

「第2章 だれにでもできるノラネコ研究ことはじめ」では、調査の作法について『ノラネコの研究』よりもう少し突っ込んで解説されている。

町中のフィールドワークで大切なのは、地域住民の理解を得ること。

なんのアナウンスもなしに始めれば、不審者と思われかねない。町内会を通して回覧をまわしてもらったり、ビラを作って1軒1軒を訪ねたり。たくさんの方に知ってもらうことが必要なのだ。43ページには、ビラのサンプルまで紹介されている。「みなさんのおうちの庭に入ったノラネコを観察することがありますが、あやしい者ではありませんので、どうかご理解ください」という一文が面白い。

また、調査のとちゅうで人に会ったら、必ず挨拶をするようにしましょう。住民の方と仲良くなれば、いろいろな情報を提供してくれることがあります。(同44ページより)

ご挨拶やお付き合いは大事だけど、調査途中は上手に切り上げる工夫も必要になる。

『ノラネコの研究』でも、ナオスケを追う途中、知り合いのオバちゃんに「今日も天気がよくて、気持ちがよかねぇ」と話しかけられ、世間話に引っ張り込まれそうになっている。「まあ、夕やけがきれいかこと。見てんしゃい」と言われるのもそこそこに、ナオスケの行方を走って追っかける羽目になっている。オバちゃんの福岡言葉がやけにリアルだ。

山根先生の方はもっと強烈、冬、仕事に出られない漁師さんたちから、カラオケ大会や宴会に誘われたりしている。調査の最中だけど、勧められるままにお酒を飲み、1曲ほど歌ってからお礼もそこそこに引き上げていくという。

「お酒を飲んで調査をするなんて、とんでもない」と思うかもしれませんが、野外での動物の調査では、その土地の人とうまくつき合っていくことが大切なのです。地元の人たちの理解や協力がなければ、どんな動物の調査もうまくいきません。(同91〜92ページより)

お誘いをすべて断るわけにもいかないし、かといって全部受けるわけにもいかない。好意であるがこそ、その辺の加減が難しい。ネコ社会にもルールがあって、それぞれなんとか付き合っているように、ヒトの社会にもお付き合いの作法がある。

相島での経験は、その後の研究で大いに役立ったという。山根先生にとってノラネコは、動物の研究者に育ててくれた“先生”とも言えるのだ。本を書いたのも、調査に“協力”してもらった猫たちへの感謝の念があるからだという。

 みなさんの中に、将来、動物をあつかった仕事をしたいという人、ノラネコのことをもっと知りたいという人がいましたら、この本に書いてある七つ道具を手にして、身近に棲んでいるノラネコを観察してみてください。人間にとって身近な野生動物の1つ、それがノラネコです。きっかけは、知りたいという興味と、ほんのちょっとした勇気です。きっと、ノラネコたちはみなさんに、何かを教えてくれることと思います。(同124ページより)

ノラネコ一日中追いかけ、生態を解明 200匹に名前を付けた | 犬・猫との幸せな暮らしのためのペット情報サイト「sippo」

http://www.seinan-gu.ac.jp/welfare/info/cat201904.pdf

ところで『ノラネコの研究』には、ナオスケのトイレシーンがある。

 ナオスケは、空き地の土のやわらかいところをほり始めます。しばらくほったら、そのあなの中にフン。終わったら、ていねいにうめる。うめてはにおいをかいでみて、「うーん、まだちょっとにおいがするかな?」もう少し土をかけてみて、「もういいかな」。やっとまんぞくして歩きだしました。

猫のトイレシーンといえば思い出すのが、高校の英語教科書。猫のトイレ作法についての文があって、それがすごく面白かったのだ。コミカルなイラストも印象的だった。

もう一度見てみたいなあと、ずっと気になっていた。でも教科書などとっくの昔に処分してしまっている。どこの会社のなんという本だったかも覚えてない。

そこで頼ったのが、はてな人力検索

平成2〜4年くらいに使われていた高校の英語教科書(?)に出ていた英文を探しています。  
高3の時はもう使っていなかった気がするので、高1〜2年向けの教科書だったと思います。
内容は猫の排泄行動について調べる実験を書いたもので、うろおぼえなのですが
ある猫が排便した後、そのうんちを別の猫のものと取り替えたらどう行動するかとか
大量のうんちを目の前にした猫たちはそれをどうするか(埋めようとするのかしないのか)
などの英文が書かれていたと思います。シンプルなイラスト付きで、困ったような顔した猫の絵が印象に残っています。

そこで、
その教科書(もしかしたら副読本かもしれません)の名前を知っていたら教えてください。
その教科書を入手したい(該当英文のみのコピーでも可)のですがどういう方法があるか教えてください。
※最終的には「教科書図書館」の利用を考えているのですが、関東在住ではないので気軽に足を運ぶことができません。

http://www.textbook-rc.or.jp/library/library.html

質問を出したのは2006年のこと。残念ながら有効な回答を得ることはできなかった。

それから10年弱が経ち、転勤で東京に引っ越すことになる。「関東在住」が実現したのだ!

が、しかし。

同じ東京とはいえ教科書図書館は気軽に出かけられる距離にはない。開館日が限られていることもあり、忙しさにとり紛れて足を運ぶ機会を逸してしまっていた。

いつまた東京を離れるかわからない。今を逃したらきっと、二度と行くことはない。

だからある日、決心して出かけたのだ。

初めての図書館は勝手がわからないし、その教科書が見つかるとも限らない。閉架式だったら当たりをつけるのに苦労しそうだ。1日で用が済めばいいけど……と気乗りしないまま最寄駅に降り立った。

入館手続を済ませ、さっそく探しに入る。幸いにも開架式だった。

高校の英語教科書はざっと二竿くらいの書架に詰まっている。膨大な資料を前に途方に暮れながらも、使用年度のシールを頼りに該当年度の本を片っ端から当たってみた。

今日は見つからないかもなあと思いつつ、1冊の教科書をめくり始めたその時。

見覚えのあるイラストが目に飛び込んできた。

あ、これだ。

NEW WAVE English Readings IIB SECOND EDITION(東京書籍)

Lesson 2「Cat's Toilet Manners」と、ン十年ぶりの再会だ。

探し続けて十数年。ちょっと感慨深いものがあった。

↑ これが件のイラスト。したはずのウンチを持ち去られ、見つからずに困惑する様子がかわいい。

ネコたちは、ナオスケがしたように、どうしてもウンチを埋めたいものなのだ。イラストは、じゃあ猫が穴ほってウンチして埋める前に、ウンチを取り去ってしまったらどうなるだろう?という実験の図だ。準備行動に入ったら、気づかれないようそっとシャベルを差し入れ、すばやくウンチを回収する。

被験者となったメスネコはどうしたか?

You can imagine how surprised she was! She was silent, but from the expression on her face, she seemed to be thinking, "Impossible! Where has my dung gone?" The poor cat looked so puzzled that I couldn't stop laughing.

やだ!ワタシのウンチどこ?当惑するネコの様子が目に浮かぶようだ。

その後ネコは、もういっぺんまじまじと穴をのぞき込み、おもむろに辺りを見回す。ちょうどネコトイレの外に、他のネコがしたウンチがあった。ちゃんと埋まってなくて、一部しか猫砂がかかってない。彼女はトイレから出ると、そのウンチを埋め始めたのだ!

but she didn't look very happy.

……そりゃスッキリしないよねえ。自分のじゃないけど、とりあえず埋めてみようって感じだ。哀れなネコはそこを離れる前に、もう一回トイレをのぞきこんだという。

作者は同じことを、ほかのネコでも実験する。多くのネコは、哀れなメスネコと同じ行動、つまり他のネコのウンチを埋める仕草をした。自分の掘ったトイレ穴を埋めてみるネコもいたという。ウンチはないけど。一匹だけ、なんの埋める仕草もしなかったネコがいた。ネコ世界にも変わり者がいるのかもしれない。

さらなる実験は、ウンチを山と積んでおいたらどうするか?というもの。

大概のネコは、そこを通りかかると猫砂をかけて埋めようとした。だがウンチはあまりにも大量、ネコに埋め切れるものではない。しまいにはどのネコもイヤになって諦めたという。当たり前だ。

もちろん「Lesson 2」はウンチ実験で終わりではなく、なんでネコがウンチを埋めたがるのかも、きちんと解説されている。

こう見ると質問文の、

ある猫が排便した後、そのうんちを別の猫のものと取り替えたらどう行動するか

というのは覚え違いをしていたことがわかるし、

大量のうんちを目の前にした猫たちはそれをどうするか

は正解だったことがわかる。

改めて教科書を見ると、こんなきれいな表紙だったんだ!とちょっと感動した。当時ちゃんと勉強してたから、他の章もほとんど記憶にあったけど、教科書タイトルも表紙の写真もまったく覚えてなかった。

こうして長年?の懸案事項だった教科書探しは無事、幕を下ろすことになった。