種から布をつくる?
どうやって?
タイトルを見た子供たちはそう思うことだろう。
付録「ふしぎ新聞」の「今月号の作者」紹介欄によると、白井仁氏の肩書きは「染織家」。
その名のとおり、染めたり、織ったりするのが仕事ということになる。
作者はその染めたり織ったりを、糸の段階から、いや繊維の段階から、いやもっと
なんのために?
理想の布を作るために!
理想を追い求めるため、原点のワタから作ってしまおうとはすごい発想である。
ワタの品種も、古くから日本で育てられてきたものを使っている。気候に合っていて栽培しやすいからだという。
布の魅力のひとつは素材のもつ力です。
なんだか料理みたいな話だ。いいものが手に入ると作るのもやっぱり楽しい。素材から作る元気はないけど……。
なんせ40ページ中およそ4分の1が「ワタを作る」話なのだ。6ページの「種をまく」から17ページ「収穫する」まで、実に11ページに渡って展開される。4月後半〜の種まきから始まって、収穫は9月上旬〜。収穫もいっぺんではなく12月まで続いていくのだ。畑の準備も含めると、一年間ほとんどワタの栽培にあてられているといっても過言ではない。
収穫してから糸ができあがるまでも手間隙かかる工程が満載だ。
どれをとってもいい加減では理想の布にならない。
紡ぐの一つとっても、作りたい布によって撚り方を調整している。『糸あそび 布あそび (たくさんのふしぎ傑作集) (第173号)』で痛感したけど、なんも考えず布を裂いて、いい加減に撚りをかけてるようじゃ、良いものはできないのだ。
染めるのももちろん、草木染め。
これも手間隙かかる。『草や木のまじゅつ (たくさんのふしぎ傑作集)(第3号)』『ギョレメ村でじゅうたんを織る (たくさんのふしぎ傑作集) (第102号)』で読んだとおりだ。家のまわりで採集できる植物を使っているという。
26〜27ページ、染め上げられた糸はなんとも優しい風合いで、気持ちが和んでくる。
織るのも手織り機。
織機にすわり、布を織りあげていくのはとても楽しい時間です。
機織りの妙味は、糸色の組み合わせによって色合いが変わってくること。糸が美しくても、織る組み合わせによって、いまいちの出来上がりになるというから面白い。
白井さんは、仕事で作るほかに、家族のためにも一年に1枚は作るようにしているという。仕事で作ったものは自分の手を離れてしまうけど、家族のは使っているのを日常で見ることができる。でき上がるまでの手間隙を考えると、子供のよだれ掛けに?もったいない!とかいじましく思っちゃうけど、普段づかいを見られるがこその幸せだろう。大事な家族であればなおさらだ。
この絵本は一冊でいくつものことを学ぶことができる。
- ワタのでき方を学べる
- ワタからどうやって糸ができるかを教えてくれる
- 草木染めの仕組みについて学べる
- 糸から布ができるまでの工程がわかる
……って、こう書いちゃうとホントつまらんけど、布ってどうやってできてるの?というシンプルな疑問に応えてくれることも確かだ。既製品の衣服に囲まれてる今、へ〜こんなんしてできるんだ!って感心する子供もいるはずだ。
本号は『いっぽんの鉛筆のむこうに (たくさんのふしぎ傑作集) (第1号)』で紹介した、松居直氏の言葉、
特に“もの”にこだわってみよう
を体現するものといえる。
「もの(布づくり)」を描くことで、「もの」について詳しく知ることができる。そして「もの」を通して見えてくるのが「人」なのだ。
“もの”をはっきりさせればさせるほど、かえって“ひと”が見えてくるともいえます
ワタを作り、糸を紡ぎ、染める。そして織る。
ゆっくりした時間で進み、単調な作業が繰り返される。
しかし結果は、どれとして同じことの繰り返しはないのだ。
毎年ワタの育ち方も違えば、糸の紡ぎ方にも変化が出る。同じ色に染まる糸はない。そして二度と、同じ布ができあがることはないのだ。すべてそのとき一回限りのものだ。
同じことのくりかえしがない、このことが一番楽しいのだと思います。
繰り返しのなかでも一つとして同じものはない。それは作者の生き方に通ずることでもある。
「作者のことば」には、子供の頃からの「好き」をあたため続けて、だんだんと夢を実現していく話が書かれている。好きっていいなあ、夢中になるって素敵だなって心から思う。